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作品名:地球が壊れていく 作者:本条想子

最終回   1
    「地球が壊れていく」

                            本 条 想 子

 香山義雄は吉川美幸と交際を始めて、かれこれ8年になる。義雄は何度となく美幸にプロポーズするが、煮え切らない答えしか返ってこない。義雄はいろいろ考えを巡らすが、美幸の真意を掴み兼ねている。義雄が美幸を意識したのは、高校3年で同じクラスになった時だった。しかし、義雄は美しくて頭の良い美幸に声を掛けることができないでいた。それは、美幸も同じだった。義雄の家は都内で産婦人科医院を開業している。美幸の家は、一般サラリーマン家庭だ。

 そんな二人が親しくなったのは、同じ国立大学に入学してからだった。義雄は医学部に、美幸は法学部にストレートで合格した。これが良いきっかけとなって、義雄から美幸に声を掛けた。それから二人は交際を続け、気心の知れた間柄となっていたはずだった。
 義雄は来年春に研修医を終えて、大学病院に残る希望だった。美幸は既に弁護士として社会へ出ていた。義雄は自分が一人前になるのを契機に美幸に再度プロポーズするつもりでいた。


 義雄は忙しい美幸を食事に呼び出した。

「美幸は、いつも忙しそうだね」

「義雄もいよいよ、お医者様ね。香山産婦人科医院の若先生」

「まだまだ、大学病院に残って、経験を積まなければならないけどね。美幸は、吉川法律事務所でも開くか。いや、香山法律事務所にするか」
と、義雄はプロポーズの意味を込めて言ってみた。

「私も、まだまだ経験しなければ駄目よ」
と、美幸はプロポーズの引き延ばしの意味を込めて言った。

「美幸、俺とのこと本気で考えてくれないか。もし、美幸が結婚に二の足を踏んでいるとしたら、その理由をはっきり聞かせてほしい」
と、食い下がる義雄だった。

「私は、義雄が大好きよ。そして、結婚するのなら義雄以外には考えられないわ。でもまだ、私の心が決まらないの」
と、美幸は言って下を向いた。

「美幸は俺のどんなところが心配なの」

「義雄が、どうのこうのという事ではないの」

「それじゃ、俺の家族の事か」

「そんな事じゃないわ」

「ではなに、はっきり言ってくれなければ解決の方法がないじゃないか。美幸は、結婚の話になると弁護士らしくないね」
と言って、要領を得ない美幸に苛立たしかった。

「ごめんなさい。もう少し考えさせて。今度、気持ちの整理がついたら、私の方から連絡するわ。それまで、待って」
と、美幸は真剣な目をして言った。

「待っているよ。もし、解決法があるなら二人で話し合おう。今日はこの話はやめよう」
と、義雄は気を取り直して言った。

 二人はいつも紳士と淑女であった。二人の仲は傍から見ると不思議だったかもしれない。もう二人は26歳で、社会が考える20から30歳という結婚適齢期はきていた。しかし、今や結婚適齢期が危うくなっている。30代でも40代でも結婚していないからだ。



 義雄が家に帰ると、母が泣きの涙で沈んでいた。

「おかえりなさい」

「おふくろ、またおやじの浮気が発覚したの」

「あなたは、奥さんになる女性をいたわってね」

「なぜ、おやじと別れなかったの。浮気は今に始まった事じゃないでしょう」

「別れられるはずがないでしょう。この世の中は、女性が子供を二人かかえて生きて行けるほど甘くはないわ。あなた達のために我慢して、泣くしかないのよ」

「そうかな。おやじから慰謝料をふんだくれば結構、気楽な人生を送れたんじゃないかな。今からでも遅くない。おやじが改心しなければ、離婚してもいいよ。力になるよ。彼女、弁護士だし」

「義雄さん、結婚したい人が現れたのね」
と、嬉しそうに母は言った。

「吉川美幸というんだ。俺たちは大学1年の時からだから、8年間も付き合って気心も知れているはずなのに。彼女の揺れ動く女心がどうしてもつかみきれないで、プロポーズが上手くいかない」
と、母に打ち明ける義雄だった。

「そうだったの。義雄さんはやさしいから、分かってもらえると思うわ。でも、離婚の話を美幸さんに話すとかえって上手くいかないわ。お父さんの事はお母さんが何とかするから美幸さんに言わないで」

「そうか。でも、おやじには俺からきつく言っておくよ。これからの人生長いし、このままじゃいけないからな」

「そんな立派な職業を持ってまで、結婚で苦労するような選択をするかしら」

「ええっ、おふくろ、結婚ってそんなに大変なの」

「心配なのよ。専業主婦で義雄さんのようにやさしい夫ならこんな幸せはないけど、弁護士をして、家事や育児を一人でなんてできないと思うの。まさか、義雄さん、手伝うわけがないでしょう。お互い不満が積もり積もって、爆発してしまうわ」

「いや、手伝うよ。いや、分担するよ。できない事は家事代行に頼むよ」

「一緒に住めばいいのに。お母さんが手伝えるのに。それを言うとまた結婚に二の足を踏むわね。やはり、難しい問題があるのね」

「そういう問題なのかな。一緒に住みたいけど、変な話、現代は昔のようにはいかないと思う。この世界が変わって来ているね。寿命にしても、考え方にしても。医学の進歩や高学歴で世界が変わったのかな」
と言って、義雄は弁護士になった美幸の思考回路が巡らす複雑さに気付いた。

「女性の中には、仕事の絶頂期でも惜しげもなく捨てて、専業主婦になるのよね。そこには、夢や憧れがあるのよ。でも、現代は共働きをしなければ、生活が成り立たない現実がある。そんないろんな事を日々見ている弁護士さんが、どんな選択をするのか、お母さんにもわからないわ」

「おふくろは専業主婦に成れる人がいいと思っているんだね」

「うちは、男の子ふたりに家事を手伝わせなかったわ。でも、よそでは、女の子までも家事を手伝わせないでお嬢様にさせられているでしょう。また、男性と同じ教育を受けて来ている女性の方も悩むと思うわ」
と、母の澄子は悲観的に言った。



 義雄は、電機メーカーでエンジニアをしている高校時代の友、山崎聡志を飲みに誘った。

「まだ、彼女と結婚しないのか」

「プロポーズをなかなか受けてくれないんだ」

「なんだよ、世の中、不公平だよな。俺なんかイケメンじゃないし、金持ちの家に生まれてないし、もてないよ」

「頭はいいだろうし、聡志が選び過ぎじゃないの」

「まあ、それはあるか。でも考えてみると、本当に不公平を感じるんだ」

「なに、真剣な事言っているんだ」

「いや、俺は何とかなると思うんだが、両親が老後を心配している。寿命が長くなったことが、心配につながるとは考えもしなかったよ。食糧事情が良くなり、医療も進歩して100歳までの寿命をどう生きるかを考えなければならなくなっている。健康に生きなければ、大変な時代だよ。医者の義雄も、弁護士の彼女も、そんな問題を見聞きして相談されているんじゃないの」

「そうか、美幸は日々そんな問題を扱っているのか。そんな中で、結婚生活を不安視しているのかな」

「俺、考えているんだ。サウジアラビアって、教育費も医療費も無料だよな。そして、所得税も住民税も無税だ。でも、2018年から消費税にあたる付加価値税が導入され、2020年7月からは5パーセントが15パーセントと3倍になったようだが」

「サウジはレンティア国家だろ。石油の収入によって、国民に教育や住宅、医療など無償で提供するのと引き換えに、国民が支配者である国王に絶対的な忠誠を誓うんだ。サウジ国民の3分の2が公務員のようなものだからね」

「それって、国家の収入だろう。サウジのGDPいくらか知っているか」

「知らない」

「世界経済のネタ帳によると、サウジのGDPは2020年で約7,000億ドル、一人当たり名目GDP約20,000ドル。日本はというと、GDPが約50,000億ドル、一人当たり名目GDP約40,000ドルだよ。日本だって出来ると思わないか」

「企業はどうするんだ。社会主義国にでもしないと出来ないだろう。それとも、ベーシックインカムか。世界の実験段階で、月々は7万から10万円だろう。サウジは約人口3,400万人、日本は約1億2,000万人というところだろう。
 これは、社会主義と違い一律支給の他に働くんだよね。それだけにゆとりが得られるというんだけど、その資金だよ」

「だからGDPなんだよ。ノルウェー・アイスランド・デンマーク・スウェーデンやフィンランドなどの北欧型福祉国家と言われるところは、一人当たり名目GDPが約50,000から70,000ドルだ。
 でも、日本と違うのは人口だよ。約1,000万人から500万人と少ない。アイスランドは約36万人だ。日本は多過ぎる。少子化などというが、年金のため子供を増やしたっていずれは年金受給者になるんだ。こんな、ねずみ講方式を使おうなんてナンセンスだ」

「聡志、北欧型と言ったが、社会民主主義型とも言うよな。やはり、社会主義的なのは日本にはなじまないよ。消費税を10パーセントにするにも反対があったし、北欧の25パーセントはきつい」

「北欧型福祉国家よりはサウジアラビアのような。考え方によってはベーシックインカムだ。ベーシックインカムが出来なければ、所得税の累進課税と法人税の増税しかないだろう。国連を巻き込んで、税金逃れで、タックスヘイブンの国へ逃げるのを取り締まるんだよ。でもそうするうちに、資金も出来て、ベーシックインカムが実行できると思うけど」

「聡志って、理想家だな。サウジのように王族に雇われているからとか、法人や富豪に雇われているからといって、国民が税制に無関心っていうのもおかしなもんだ」

「俺、本気で考えているよ。真剣に考えると、世界経済はおかしいよ。でも、福祉国家は実際にあるんだ。自由経済主義や社会主義の反省から生まれたと思う。偉いなと感心するよ。それなのになんで、世界の1パーセントの富裕層の持つ資産の合計が、それ以外の99パーセントの資産の合計を超えるなんて。つまり不公平税制を変えて、再分配しないといけないと思う。

 今のベーシックインカムの考えは、金持ちが国民から消費税を多く取って、分配するという不公平税制を逃れようとしているだけだよ。

 ウィキペディアで調べたら、ベーシックインカムを最初に考えた人は、トマス・ペインというイングランドの思想家で、1796年に著書『土地分配の正義』で提唱されたとされている。それは、21歳時に15ポンドを成人として生きていく元手として国から給付され、50歳以降の人々に対しては年金として年10ポンドを給付するという案で、財源は土地を持つ人間に地代として相続税を課すというものらしい。

 また、トマス・スペンスというイングランドの哲学者で、1797年に著書『幼児の権利』で提唱されたのは、地域共同体ごとに、地代つまり税金を集め、公務員の給料などの必要経費を差し引いた後の余剰を年4回老若男女に平等に分配するというものらしい」

「それは、財源として今なら法人税と所得税そして消費税だよ。でも、昔のような地主からではなく一般庶民から安易な消費税で取ろうとしているところに問題があるよ。やはり、以前のように企業と富裕層に税金を多くかけ、また金融商品に高い税金をかけなければ、ベーシックインカムは出来ないと思うよ」

「義雄も賛成してくれるか」

「賛成するよ。なんて、簡単に決まれば、世界から格差なんてなくなるよな」



 ある日、美幸が家へ帰ると、母の知子がいるのに家の中が真っ暗だった。美幸が玄関の電気のスイッチを付けてリビングルームに入ると、微かに電気ファンヒーターの明かりが見えた。そして、ファンが回る音と部屋の温もりが伝わって来た。美幸はリビングの電気を付けて驚いた。知子が独り、ソファーに腰掛けて思いつめた顔をしているのだった。

「お母さんが、どうしたの。電気も付けないで」

「おかえりなさい」
と、知子は気のない声で言った。

「今日も、お父さん遅いの」

「夕食はいいとは言っていたけど。私って、何なんでしょうね」

「お母さん、お父さんと何かあったの」

 美幸の父親の順一は大企業のサラリーマンで、経理部長をしていた。結婚して27年になり、両親ともに55歳になっていた。夫婦仲は、特別悪いという事もなかった。美幸の前で大きな夫婦喧嘩をした事はなかった。そして、知子が取り立てて順一を責める事も愚痴を言う事もなかった。
 そんな様子を見て来た美幸は、知子の今の変化を不思議に思った。

「お母さん、私、着替えてくるから」
と美幸は言って、2階の自分の部屋へ行った。

「夕食、出来ているわよ」
と言って、知子はキッチンのテーブルに夕食を揃えた。

「いただきます。いつもありがとう」
と言い、食事を一緒に食べながら話し出した。

「美幸は休みの時や早い時に、手伝ってくれるし、うれしいわ」

「お母さん、幸せじゃなかったの」
と、美幸は率直に尋ねた。

「私は、幸せについて改めて考えているの。美幸も仕事で、大勢の人の家庭を見て来ているでしょう。お母さんの子供の頃、夏でも長袖を着るのは数回だった。そして、35年前に北海道の郷里へ帰省した時クーラーがあったのには驚いたわ。それが、この頃になって地球温暖化による異常気象だった事を知ったの」

「お母さん、いろいろ世の中の事考えているのね。女性って、子育てが一段落したとき虚無感に陥るみたいね。簡単に言ってしまうと“空の巣症候群”と言うのでしょうけど」

「人は幸せを求めて生きているのよね。でも、その幸せが分からなくなっているの。大家族から核家族へ変わっていって、幸せを見失っている。お母さんは、3世代10人家族の中で育ったの。東京へ出てくるまで、家で一人きりという事はなかった。6人兄弟でも、両親と同居するのは1人でいいわけだから」

「うちは私一人だから、彼のうちは弟がいるわ。現代は核家族が普通だからどうなるか。仕事でよく考えるのだけど。幸せって、作り上げるのは最終的に家族だと思うの。絶対に、最低親子は3人が関係して始まるのね。
 でも、ここから始まり、行き着く所が時代的に変わってきたと思う。それは、自由や束縛の考え方の方向性ね。人間はここに来て戸惑っているみたい。複数で生きる事に。どう対応していいか、ストレスが溜まってしまっているの。自由を得るためにはお一人様が良いという風に」

「人間の自由。これからの老人は、何に生きる目的を持てばいいのか、このあと半世紀もの長い自由時間。年金生活から、ベーシックインカムの世界になるかも。起業家の考えるベーシックインカムは、誰もがチャレンジできるクッションのようなものと言っているけど、コロッセオのような武器をやるから生き残ったものだけ自由にさせてやるというものと変わらないように思えるわ。富の分配なしには、永久に格差は埋まらないでしょう。富豪は、税金を払いたくないのよね。払うのは、心優しい一般庶民なのね」

「自由を持て余すのは勿体無いから、お母さんのために使って。私も、相談にのるからね」
と美幸は言って母を見た。

「ありがとう。いい方向に考えるわ」
と知子は言って、安らかな気持ちになった。



 山崎聡志は友人を誘って、焼き肉を食べに来た。

「ベーシックインカムってどう思う」
と、山崎が言った。

「日本では無理だと思うよ」
と、物理学者の鈴木が言い放った。

「俺はやるべきだと思う。でも人口が多すぎる。2060年には9000万人を割るらしいが」
と、香山義雄が言った。

「ベーシックインカムって、社会保障や年金問題、格差問題などを解決するのに有効な手段だ」
と、財務省勤務の金田が満足げに言った。

「サウジアラビアって、教育費も医療費も無料で、所得税も住民税も無税だよな」
と、山崎は言った。

「原油国でオイルマネーがあるからな。それにレンティア国家として国民に高福祉が提供できなければ、王室は支配の正当性を失うからね。しかし、原油価格の下落で雲行きが怪しくなっているから、必死で改革しているようだね」
と、大地が言った。

「日本だって資源国だよ。日本は都市鉱山があり、金だって南アフリカの埋蔵量より多いんだ。日本はリサイクルしなければいけないよ」
と、鈴木が楽しげに言った。

「日本の一人当たり名目GDPはサウジアラビアの約2倍あるんだ。日本だって出来ると思う」
と、金田が誇らしげに言った。

「狭い日本、人口増やして年金どうするの。AIに就職先が奪われるのが分かっているのに、人口増やすなんておかしいよ。さらに、外国人の労働者受け入れで解決しようとするなんて、それに外国人の生活保護者も増加しているらしい」
と、大地が心配そうに言った。

「ベーシックインカムの財源は消費増税と法人税増税と金持ちの累進課税だろうが、200兆円の内部留保も問題になってから、今では500兆円にも迫る勢いだからね。1974年、所得税最高税率75%だった。法人税最高税率は1984年43.3%だった。政府はどうなの、約83%に当たる330万円以下の所得層に、消費税を掛けるのに必死なんて。消費税は、税収の約40%だから。とにかく、100歳まで寿命が伸びたら年金が問題だよ」
と、山崎が不安げに言った。

「地球は一つ。分け合わなければ。地球創生46億年の歴史の中、産業革命後の200年ぐらいで、所有権を誰が主張できるんだ」
と香山が怒り気味に言った。

「世界の火山の25%もある日本は、人口を減らした方がいい。少ない人間で富を分配する日本にした方がいい。経済ばかり言っているが、資本主義を根本から考え直さないと世界つまり地球は破滅するかも。
 地球温暖化は問題だ。現在は顕生代第四紀完新世で、更新世の約260万年前から始まった第四紀氷河時代だ。そして、約10万年周期で氷床の発達と後退を繰り返してきた。今現在は、氷床の後退期だ」
と、大地が意味深に言った。

「確かに、現在は氷河時代だ。地球上に大陸並みの大きさの氷床が存在しているからね。氷河時代の要因として、地球の公転軌道の変化や太陽の出力変化、太陽系公転での分子雲の影響、大気の組成、プレートの動き、火山活動の影響などがあるとされている。 
 地球に資源がなくなり、住めなくなれば、月や火星に移住しなければならなくなる。国として資金は必要だ。国民に分け与えるだけじゃ駄目だよ」
と鈴木は未来を見据えて言った。

「そういう場合でも、金持ちばかりが助かるという図式だろう。資源だって、都市鉱山のように再生できる。人口を減らせば、食料だって、世界中で分け合える。化学肥料で土地を使用不可能にしなくてもよくなる。生物絶滅のような大噴火もある」
と、山崎は言った。

「地磁気逆転は360万年前から11回はあったようだ。地球のバリアである磁場が弱まり、最高テクノロジーが破壊されるかもしれない。最後の地磁気逆転は77万年前で、今度いつ起こってもおかしくない。ちなみに中期更新世がチバニアンとして地球史に残るのだろうが、この時代の地磁気逆転は植物に影響がなかったらしく、人類にも影響がなかっただろう言われている。しかし、その時代には精密機器はなかった。

 でも、約3億6000万年前から2億6000万年前のカルー氷河時代にはベルム紀で95パーセント以上の生物種が絶滅した。それは、陸上植物の進化により、長期間にわたって地球上の酸素濃度が増加し、二酸化炭素濃度が減少した結果とされている。その後、氷河時代明けのジュラ紀には生き残った恐竜の繁栄と大量絶滅があった。

 そして、約260万年前にこの第四紀氷河時代が始まった。この中では、歴史に消えた古代文明がある。
 恐竜も人間同様にメタンを吐き出す事はお構いなし。この恐竜の吐き出すメタンは、現代の牛、山羊、羊などの反芻動物の吐き出すメタンと人間界が排出するメタンの総量と、ほぼ匹敵すると言われている。
 氷河時代でもない恐竜の時代は、現代より高温多湿だったらしい。現代が間氷期の氷河時代ということが信じられなくなる。こんな地球規模の異常気象に、人間はいつまで耐えなければならないのか。金星のようになるのか、雪球地球になるのかどちらにしても、人間は生きられない。
 今、他の惑星へ移住する事を考えるなら、この地球を立て直すことを考えるべき時に来たと思う」
と、大地が熱く語った。

「だから、お金が必要だよ。将来のために」
と金田が力を込めて言った。

「お金じゃない。知的生命体としての心だ。地球のような惑星は、天の川銀河の中に何千億個の恒星があろうと何千億個の銀河があろうとないと思う。地球は奇跡の産物だと思う。ただ、地球がなくなれば、また何億年かのちに、同様な奇跡の惑星で偶然の生物が生まれると思う。

 他の惑星へ行けても、今のままでは、地球同様に破壊するよ。地球その物も分かっていないのに、他の惑星のメカニズムが分かるわけがない。今は、世界の幸福を考えなければ。世界的にも人口は減らすべきだ。異常気象は人口爆発に合わせて発生したものだと思う。
 世界人口は2000年前、約3億人だった。それが、18世紀の産業革命以降、世界人口は増加の一途だ。1900年には約16億人、1950年には約25億人、1998年には約60億人、そして2020年には約76億人だ。予測では、2050年には100億人を超えていくと言われている」
と、香山がこの変貌を案じて言った。

「こんな事を話している俺たちは、牛肉を食べている。確かに、売れる牛肉のために、森林を伐採し畜産のための放牧をし、飼料を生産している。日本は、それを輸入し、このように美味しく食べている。また、化粧品やお菓子など食料品を生産するために、熱帯雨林を伐採して、パームヤシ畑を作っている。

 世界は今の食生活がやめられないでいる。そして、便利が普通になり、化石燃料を使い二酸化炭素を排出している。猛暑、豪雪、集中豪雨、突風、洪水、干ばつ、森林火災などが起こっても、気象のメカニズムを説明されるだけで現状を変えられないでいる。豊かさを選択しただけだ。地球の何千年いや何万年、何億年より、寿命の100年を選択しただけだ」
と、金田が人間の慣れを言い当てたように言った。

「でも、その100年を世界中の人が大事に生きてほしいだけだよ」
と、山崎は願いを込めて言った。

「人口が増えるのには、理由がある。人口爆発の原因は貧しさではなく、貧しさが人口爆発の結果なんだ。
 自給自足をしていた時代は人口が安定していた。しかし、先進国の大量消費、大量廃棄が人口バランスを崩した。貨幣経済が生産拡大を招き、その犠牲の上に発展途上国の人々の土地や家が奪われ、労働力としてしか生きられなくなっているという悪循環で、人口爆発が起こっている現実があるんだ。医療の発展による死亡率の低下だけでない問題だよ。
 そこに、農薬や化学肥料による土壌汚染が加わって、環境汚染や資源枯渇が起こっている。そして、全世界の水の7割が農作物に使われているが、世界中で水資源の枯渇があり、スラム街では1日バケツ2杯の使用制限があると言われている。ワイン1本652.5リットルの生産に、スラム街の人の2週間分の水が使用されているようだ。
 全人口に必要な穀物が生産されているにもかかわらず、3分の1が家畜の餌に使用されている。牛肉1キログラムの生産に6から20キログラムの穀物が使用され、飢餓人口が8億人もいる現実が一向に改められないでいる」
と、金田が経済格差の矛盾を指摘した。

「発展途上国の中には、貿易やグローバル化そしてサプライチェーンなど耳障りのいい言葉に惑わされ、その実態はモノカルチャー経済に苦しんでいる。主食にもならない商品作物を独裁者や軍隊を持つ権力者などに強制栽培させられている」
と、山崎が怒りを込めて言った。

「日本も食料の自給率を上げなければいけないんだ。内需拡大は必要だ。」
と、香山は言った。

「無農薬の農業も必要だ。工作できる土地でなければ、宇宙移住の夢想状態に入る」
と、鈴木は言った。

「農産物を生産するために、地下水を枯渇させてはいけない。狭い日本で、1億人を超えているなんてあり得ない。先進国は、人口減少を経済に不利益と考える傾向がある。
 しかし、今の世界は国民間の格差を広げているだけだ。干ばつが、豪雨で解消されるかというと、それは違う。水資源は地球温暖化で年降水量が少ない年と多い年、そして少ない国と多い国など極端すぎる」
と、大地は言った。

 みんな、美味しいものを食べながら、沈んだ気持ちになっていた。



 美幸は、義雄と会って話したかった。

「元気だった」

「久しぶりに、友達と焼き肉食べに行ったよ。でも、皮肉な話になって、落ち込んだな。ベーシックインカムや人口問題や食生活など、俺と山崎聡志が熱く語って」

「この世の中、矛盾だらけ。子供を産み残すのが心配、何を信じて生きていいのか」

「仕事柄、悩みを自分の事のように考えてしまったんだね。俺も、最期と向き合う患者さんをみると、考えさせられるよ。
 人類は絶滅の危機の中で、数々の幸運に恵まれて生き残った。その逆境に打ち勝った人類こそが、仲間と共に生き延びて来たんだ。
 でも、こんにちの状態が最大の危機だよね。でも、二人からの幸せの世界を築こうよ」

「テロは、不平等からと当たり前のように語られる時代。こんな時代、昔からは考えられない。絶対に否定された。それが出来ないほど、世界はおかしくなっている。富の集中を是認する風潮さえある」

「地球は数十億年持つというけど、持たないわよね。産業革命以降の過ぎ去った200年。ここからの100年で異常な格差をなくした世界を作った方がいい。“金持ちイコール成功者“という経済至上主義的思想が支配する世界を変えなければいけないと思う。金持ちが現在困っている人を見捨てて、宇宙にお金をかけ、どんなに惑星を開拓しても、奪い合いはなくならない。地球を守るために宇宙を開拓するのはいいけど、世界の人々を犠牲にして得るものはないと思う」

「人間の子孫を残すのではなく、人類のやさしさや分かち合う心を残す事に一生懸命になってほしいわ」

「地球を破壊し、破壊した子孫が他の惑星へ逃れても、また同じ事をするに違いない。いま改められないなら、永遠に繰り返す」

「まずは、地球を元に戻す事を考えてほしいわね。経済成長という耳障りのいい言葉を使い、化石燃料を使い二酸化炭素をまき散らし、森林を伐採し光合成を減らし、温暖化を誘発し海の力を弱めた。海の生物だって、二酸化炭素の3分の1を吸収する力があったのに,機能が低下している。
何人のために、大勢の人を犠牲にするのかしら」

「そう、おかしな時代だ。でも、人間は生きようとしている。小さな幸せを求めようとしている。やさしい心を育てようよ。幸せを信じて」

「ええ、義雄となら生きて行かれる」

「受け取ってくれる」
と言って、義雄は婚約指輪を差し出した。

「ええ」
と言って美幸は、左手を差し出した。

 義雄は、美幸の薬指に婚約指輪をはめた。そして、二人は永遠の愛を誓った。


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