あたしと西原さんは、学校帰りに「マイルストーン」に立ち寄った。 「いらっしゃい、ああ、美佳ちゃんに、お友達だね」 「こんにちは、おじさん。先輩は?」 入り口のところで聞くと、カウンターの向こうでおじさんが答える。 「まだ、料理学校から帰ってないけど?」 あたしはお店の、ちょっとアンティークな感じの柱時計を見る。 午後三時五十分頃。 おじさんが続ける。 「今日の授業は三時四十五分に終わるそうだから、あと三十分ぐらいかな、帰ってくるまで? 道草を食わなければ、だけど」 「……だって。どうする、西原さん?」 「料理学校って?」 「先輩、この喫茶店を本格的に手伝うために、高校を卒業してから、お料理の専門学校に通ってるんだ」 「そうだったんだ」 そう呟いてから、西原さんは時計を見る。そして、おじさんに聞く。 「あの、マスターさん。大久保さんは、いつも、四時半頃には、お店に入ってるんですか?」 「そうだね、授業の時間割の関係で毎週火、木は五時頃に帰ってくるけど、月水金は、用事がなければ、大体、そのぐらいの時間には、いるかな? 土日は、用事がなければ、朝からいるけど」 その言葉に頷き、西原さんはあたしに囁いた。 「大久保さんと連絡先を交換するのは、今度にする。今日はコーヒーとか、飲んでこ?」 なるほど、出鼻をくじかれた感じなのかな? いや、このたとえはちょっと違うように思うな。先輩が何かを仕掛けた、ってわけじゃないし。 まあ、とにかく、改めてチャレンジってコトか。多分、気合いを入れてきたけど、一気に気が抜けちゃった感じなんだろうな。 西原さんとカウンター席に座りながら、あたしはなんとなくホッとしていた。
……なんで、ホッとしたの、あたし……?
その日、お風呂から出て、部屋でスマホをいじってて、なんとなく今日のことを思い出していた。 「うーん、なんで今日、大久保先輩と西原さんがお喋りしなくて、ホッとしたんだろ?」 あたしと先輩は同じ部活だったけど、特別、親しいってわけじゃなかったと思うなあ。確かに家庭科部は女子の比率が高くて、男子は少なかったから、その男子は部の女子と仲良かったけど。 …………。 「まあ、考えても仕方ないか」 あたしは時計を確認して、そろそろ寝る時間なんで、電気を消してベッドに入った。
…………。 あれ? ここ、どこだろ? まるで中世ヨーロッパの街並みみたい。陽(ひ)が高いから、お昼頃かな? 何時だろ? ……スマホ、ないし。 とりあえず、誰かに話、聞かないと、って、誰もいないじゃん! ここ、どこか、わからないし、どうしたらいいか、わかんないし! あ。前の方から誰か来る。なんか、すっごく痩せてて、元気なさそう。多分、まだ二十代だと思うけど、今にも死にそう、って感じ。大丈夫かな、あの人? ていうか、外国人じゃん! まあ、ここ、どう考えても日本じゃないし。 でも、一応、話を聞かないとなあ。 あの、すいませー……。 「やあ。君とは初めまして、だね」 は、はあ。そうなるんでしょうね、見たことない人だし? ていうか、ちょっとお尋ねしたいことが……。 「僕の名前は、ローラント・リッテンバウム。ドイチュラントのニーダーザクセン州ゲッティンゲンに住んでる。もっとも、今は病院のベッドで、死を待つばかりだけどね。もしかして、君も同じところに住んでいたりするのかな?」 いや、だから、聞きたいことが……。 「いきなりで悪いんだけど、君に話しておかないとならないことがある」 ほう、会話する気、ない、と? 腹、立つわぁ〜。
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