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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第6回   ここは、どこ? あなたは誰?
 あたしと西原さんは、学校帰りに「マイルストーン」に立ち寄った。
「いらっしゃい、ああ、美佳ちゃんに、お友達だね」
「こんにちは、おじさん。先輩は?」
 入り口のところで聞くと、カウンターの向こうでおじさんが答える。
「まだ、料理学校から帰ってないけど?」
 あたしはお店の、ちょっとアンティークな感じの柱時計を見る。
 午後三時五十分頃。
 おじさんが続ける。
「今日の授業は三時四十五分に終わるそうだから、あと三十分ぐらいかな、帰ってくるまで? 道草を食わなければ、だけど」
「……だって。どうする、西原さん?」
「料理学校って?」
「先輩、この喫茶店を本格的に手伝うために、高校を卒業してから、お料理の専門学校に通ってるんだ」
「そうだったんだ」
 そう呟いてから、西原さんは時計を見る。そして、おじさんに聞く。
「あの、マスターさん。大久保さんは、いつも、四時半頃には、お店に入ってるんですか?」
「そうだね、授業の時間割の関係で毎週火、木は五時頃に帰ってくるけど、月水金は、用事がなければ、大体、そのぐらいの時間には、いるかな? 土日は、用事がなければ、朝からいるけど」
 その言葉に頷き、西原さんはあたしに囁いた。
「大久保さんと連絡先を交換するのは、今度にする。今日はコーヒーとか、飲んでこ?」
 なるほど、出鼻をくじかれた感じなのかな?
 いや、このたとえはちょっと違うように思うな。先輩が何かを仕掛けた、ってわけじゃないし。
 まあ、とにかく、改めてチャレンジってコトか。多分、気合いを入れてきたけど、一気に気が抜けちゃった感じなんだろうな。
 西原さんとカウンター席に座りながら、あたしはなんとなくホッとしていた。


 ……なんで、ホッとしたの、あたし……?


 その日、お風呂から出て、部屋でスマホをいじってて、なんとなく今日のことを思い出していた。
「うーん、なんで今日、大久保先輩と西原さんがお喋りしなくて、ホッとしたんだろ?」
 あたしと先輩は同じ部活だったけど、特別、親しいってわけじゃなかったと思うなあ。確かに家庭科部は女子の比率が高くて、男子は少なかったから、その男子は部の女子と仲良かったけど。
 …………。
「まあ、考えても仕方ないか」
 あたしは時計を確認して、そろそろ寝る時間なんで、電気を消してベッドに入った。



 …………。
 あれ?
 ここ、どこだろ?
 まるで中世ヨーロッパの街並みみたい。陽(ひ)が高いから、お昼頃かな? 何時だろ?
 ……スマホ、ないし。
 とりあえず、誰かに話、聞かないと、って、誰もいないじゃん! ここ、どこか、わからないし、どうしたらいいか、わかんないし!
 あ。前の方から誰か来る。なんか、すっごく痩せてて、元気なさそう。多分、まだ二十代だと思うけど、今にも死にそう、って感じ。大丈夫かな、あの人?
 ていうか、外国人じゃん! まあ、ここ、どう考えても日本じゃないし。
 でも、一応、話を聞かないとなあ。
 あの、すいませー……。
「やあ。君とは初めまして、だね」
 は、はあ。そうなるんでしょうね、見たことない人だし? ていうか、ちょっとお尋ねしたいことが……。
「僕の名前は、ローラント・リッテンバウム。ドイチュラントのニーダーザクセン州ゲッティンゲンに住んでる。もっとも、今は病院のベッドで、死を待つばかりだけどね。もしかして、君も同じところに住んでいたりするのかな?」
 いや、だから、聞きたいことが……。
「いきなりで悪いんだけど、君に話しておかないとならないことがある」
 ほう、会話する気、ない、と?
 腹、立つわぁ〜。


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