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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第42回   マジ、怖いわあ〜、暗黒世界ぃ〜!
 サラマンダーとウンディーネはシーレンベック領に来ていた。ウンディーネの“脚”で、市壁を越え、市壁内都市の貧民街に潜り込んでいるのだ。そして、ある「ニュース」を待ったのだが。
 通りで歩きながら、朝食であるパンと干し肉をかじりながら、サラマンダーは言った。
「全然ねえな、ここの娘がくたばりました、って触れが」
「そうね」
 市場で買ってきたリンゴを「しゃく」とかじり、何度か咀嚼した後、飲み込んでウンディーネは応えた。
「やっぱり、あいつは替え玉だったってことかしら。それとも、毒が効かなかった?」
「冗談! 大人三人を殺せるほどの濃度で抽出したんだぜ? 針だって、ただ毒を普通に塗ってあるだけじゃなくて、先端から少しばかりを中空にして、そこにも仕込んでる。あれで死ななかったら、アストリットは化け物だ」
 自慢の毒をけなされたようで、サラマンダーは少しだけむくれる。だが、それにはお構いなしに、ウンディーネは口元に笑みを浮かべて言った。
「そう。だったら、“あの”アストリットは化け物ってことね」
 その笑みの意味を計りかねながら、それでも友愛のしるしと判断して、サラマンダーもシニカル(に見えるよう)な笑みを浮かべる。
「そうかもな。それか、やっぱりアイツは替え玉で既に死んでる。今頃、本物を表(おもて)に出すか、別の替え玉を表に出すか、議論の真っ最中だろうぜ?」
 また一口、リンゴをかじってから咀嚼して飲み込み、立ち止まってウンディーネは言った。
「よしましょう、不毛な妄想談義は」
「だな。じゃあ、どうやって確かめる?」
 ウンディーネは腕を組み、背中を、ある小屋の壁にもたせかける。「キシッ」と軋んだ音を、サラマンダーは聞き逃さない。
 だが、それを無視し立ち止まってサラマンダーは言った。
「やっぱり本物は『大シーレンベック』の屋敷に匿われているとか? 忍び込んで調べるか?」
「あるいは。今あなたが言ったように、本物を出すか別の替え玉を出すか。その議論をしてるかどうか、確かめるのもいいわね」
 少し考え、サラマンダーはちょっとだけ不満の意を乗せて、応える。
「俺たちは、どっちも面が割れてる。あの屋敷には忍び込めない。どうやって確かめるんだ?」
 蠱惑的にも見える笑みを浮かべ、ウンディーネは言った。
「私たちの似顔絵、アチコチにバラまかれてたわよね? だったら、向こうから出てくるわよ、私たちが動けば」
「……違いねえや」
 全く、その通りだ。あのとき死んだのが本物だろうが替え玉だろうが、自分たちは侯爵家の恨みを買った。となると、必ず相手が報復に動くだろうことは、疑いがない。そうすれば、もし本物がどこかにいるとしても、調べることが容易になるはず。
「じゃあ、それでいこうぜ」
 サラマンダーがそう言ったとき。
「おう、姉ちゃん、俺んちの前で何話してんだあ?」
 一人の中年男が声をかけてきた。
 酒臭い。
 朝から飲んでいるのか、ゆうべの酒が残っているのか。
 いずれにせよ、酔っ払いだ。
 中年男がジロッと、トロンとした目でサラマンダーを睨む。
「ンだよ、姉ちゃん、こーんなガキが好みなのかあ?」
 そして見るからにイヤらしい笑いを浮かべて、ウンディーネを見る。
「姉ちゃん、こんなガキより、俺の方がアンタを悦ばせてやれるぜ? どうだ? ン?」
 ウンディーネはサラマンダーを見てちょっとだけ肩をすくめ、笑みを浮かべて酔っ払いに言った。
「ええ、いいわよ。その代わり、いい夢、見させてね?」
 酔っ払いがさらにとろけた笑いを浮かべて応える。
「おうよ、まかせとけぃ!」
「そう。じゃあ、中に入って待ってて?」
「おう。逃げんなよ?」
 そう言って、酔っ払いは扉代わりのボロ布をまくり上げ、小屋の中に入った。
「行きましょ、サラマンダー」
 そう言って、背を預けていた壁から離れる。その瞬間!
「おわああああああああ!!」
「パキッ!」と音を立てたかと思うと、屋根の重さに耐えきれず、ちょうどウンディーネの肩の高さ辺りで壁が割れ、柱が引っ張られて小屋が斜めになった。……だけでなく、そのまま小屋が崩れた。
「腐った板、使ってたんだな」
 それを見て、サラマンダーは呟いた。
「感じで分かったわ。私が割れた壁板の代わりに、屋根を支えてたって」
 悲鳴を上げた男は、目を回して伸びていた。


 対策会議のために集まったのは、ゴットフリートさん、イルザ、シェラ、ハンナ、ガブリエラ、ハインリヒ、フェリクスさん、そしてテオバルトさん。
 あたしは、“向こう”でヒルダさんに言われたことを、かいつまんで説明する。ゴットフリートさん、テオバルトさん、イルザ、フェリクスさんが少し、呻くような声を上げる。
 まずゴットフリートさんが口を開いた。
「確かに、サー・フーゴは毒殺未遂のために今、寝たきりになっていると聞いたが。影武者の方がそうであったのか」
 あたしは、隣に席に座ってもらったイルザに、疑問に思っていたことを聞いた。
「ねえ、あたし、なにがなんだか、さっぱりなんだ。どういうことなの?」
「そうですね。一から説明すると長くなるので、かいつまんで。ブロックマイアー公爵家の先々代の当主は、現王……といってもレオポルトではなく、アルベルト二世王の方ですが……、現王が王子だった頃、遠方に狩りに出かけ異民族たちに襲われたところを、お救いしたことがあるそうなのです。それが縁で、ブロックマイアーの家はアルベルト二世王が即位なさって以降、王家に対して大きな発言力を持つとか。
 もちろん、それを面白く思わない家も多くて。先々代当主は病死なさいましたが、毒殺されたといわれていますし、先代当主も何度も暗殺されかかり、失踪。これも実はどこかで殺害されているのだ、といわれています」
「……うわあ、マジ、怖いわぁ、それ」
 ホント、シャレになんない。
 うなずいて、イルザは怖い話を再開した。
「現当主のサー・カルステンも、何度か暗殺未遂に遭っているとか」
 あたしがげんなりしていると、テオバルトさんが言った。
「サー・フーゴも先日、ボールシャイト大公家で開かれた舞踏パーティーに行った折りに、ワインを飲んで吐血し倒れたと聞いた。複数の者が同じトレイに置かれていたワイングラスを取ったのに、倒れたのはサー・フーゴだけ。だから、貴族の子女を無差別に狙った不埒者の仕業ということだが、果たしてそうだろうか?」
 訝しげな表情になって、ゴットフリートさんが聞いた。
「卿(けい)は、サー・フーゴだけを狙ったのだ、と? しかし、複数の者が同じトレイに置かれたグラスを取ったと聞いたが?」
 頷いて、テオバルトさんが応える。
「その複数の者がグルならば、サー・フーゴに毒杯を取らせることは可能だ」
「あ、そうか」と、あたしは気がついた。
「毒が入ってないグラスを取っていって、最後に毒入りを残して、それを取らせるようにすれば!」
 テオバルトさんが頷く。
 すると、何かを考えていたらしいイルザが口を開いた。
「その一件の責任を取って、フォン・ボールシャイトの家はフォン・ブロックマイアー家の負債を一部、肩代わりしたとか。ですが、フォン・ボールシャイトの台所事情も、それほどの余裕はないという噂を聞いています。まさか、複数の貴族が手を組み、フォン・ボールシャイトの家を舞台にする代償に、資金を融通してもらっている、ということでしょうか?」

 ……………………。

 前も思ったけど。
 マジ、怖いわあ〜、暗黒世界ぃ〜(泣)!


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