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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第41回   なんで、ここ来た、パート2!
「なんで、ここ来た、パート2!」
 あたしはVサインを作り、これで2を表しながら、青空をバックにした山に向けて突き出した!
 その直後、なんだか息を呑むような気配が背後でしたんで、あたしはなんとも思わず振り向く。
 ヒルダさんとアストリットが、半ば凍り付いて突っ立っていた。
 うが! なんか、バツが悪い。
「え、えと、あのね? なんで、またここに来た、って思ったのね? で、また同じこと、続けて思ったから、パート2、って……」
 うん、二人とも、理解してないっぽい。
 あたしは取り繕うようにして……ていうか取り繕って「コホン」なんて咳払いをすると、ヒルダさんに聞いた。
「ねえ、ヒルダさん。ここって、死んじゃったとき、ループする前に来るっていう世界よね? ここにあたしがいるってことは、あたし、死んじゃったの?」
「いいえ。今回は、あたしがあなたを呼んだわ。というより、これからは毎晩、あなたが眠りについたらここに呼んで、対策を練ろうと思うの、緊急事態だから」
 真剣な表情のヒルダさんに、やっぱり真剣な表情のアストリット。なんか、イヤな感じ。
「ね、ねえ、何、緊急事態って?」
 ヒルダさんが眉根にしわを寄せて言った。
「アンゲリカが『ユミルの眼』をあなたから奪ったことは、知ってるわよね? 彼女はそれを使って『ユミルの心臓』の位置と、その封印を解くポイントを見つけた。そして封印を解いたわ。でも、『ユミルの心臓』は、封印によって弱っていた。だからアンゲリカは、今日……いえ、現世ではもう日付が変わっているから、昨日だけど。……夕方に、彼女は『ユミルの心臓』に、血を捧げたの、異民族、五十人以上を虐殺して!」

 一瞬、あたしの息が止まる。
 どう反応していいか分からないでいるあたしにはおかまいなく、ヒルダさんは話を続ける。
「もっとも、その程度では『ユミルの心臓』が活性化して、真価を発揮することは出来ない。アンゲリカが転生してきたとき、おそらく心臓以外のパーツはアンゲリカの魂と一体になって現世に現れたけど、心臓は別。創世の巨人であるユミルは、まさに世界を自在に改造出来る力。あたしの推測だけど、『ユミルの心臓』は、『この世界を維持しようとする力』が封印するんだと思うの。ダァトには、そんな感じの情報があったし。
 ということは、アンゲリカは今後も同じようなことをすると思うの」
 あたしの背筋を、冷たい汗が伝って降りる。
「! そういえば!」と、あたしの脳裏に稲妻の如く、ある記憶が甦る。
 ヒルダさんが「どうしたの?」と首を傾げた。
「いつだったか、ハインリヒのところの執事さん……えっと、フェリクスさんだったかな? その人が持ってきた資料を元に、ゴットフリートさんたちとかが言ってたんだけど」
「お父様が?」
 そう言ったアストリットに頷いて、あたしは言った。
「軍事費がこの一、二年で急激に増えてるって! どこかと戦争するとしか思えないほどの増え方だって、そんな感じのこと、言ってた!」
 腕を組んで呻き、少ししてからヒルダさんが言った。
「なるほど。いつ『ユミルの心臓』を手にしてもいいように、下準備は怠ってなかったわけね……」
 その言葉に、不安げな表情でアストリットがヒルダさんに問う。
「どういう……ことですか……?」
「『ユミルの心臓』に大量の血を捧げるためには、生け贄か、あるいは戦乱か。『ユミルの心臓』の封印場所は、王都、それも王宮の敷地内。そんなところを戦場にするわけはない。だからといって、しょっちゅう、誰かを処刑するわけにもいかない。そんなことをすれば、いずれ“外”に漏れて不信感が生まれ、王家打倒なんて動きが生まれかねない」
 あたしは頷く。
「確かにそうよね。じゃあ、どうするの?」
 ヒルダさんはまぶたを閉じ、少し呼吸を整える。まるで重大な何かを口にするかのように。
 そして目を開いて言った。
「真価を発揮出来なくとも、『ユミルの心臓』は目覚めた。そして、その制御は『ユミルの脳髄』で出来る。『ユミルの心臓』はあくまで霊的存在。だから、『ユミルの脳髄』が思う場所に動かすことが出来る。
 戦争が……殺し合いが行われている、まさにその場所へと移動させることが出来るの!」
 ヒルダさんの声は静かだったけど、この空間すべてを震わせるほどの力を持ってたように感じた。
 風が“ごう”と強く吹く。

 しばらくは誰も口を開けなかった。
 その沈黙を破ったのは、ヒルダさんだ。
「ねえ、ミカ。あなた、向こうに帰ったら、対策会議を開くのでしょう?」
「うん。そうだけど?」
「それじゃあ、その席で提言して欲しいの」
「提言? 何を?」
 一呼吸おいて、ヒルダさんが言った。
「ブロックマイアー公爵領、そこにある別邸に住んでいるフーゴ・フォン・ブロックマイアーと、連絡を取って欲しい、と。そしてそこに保護されている者たちと、連携を取りたい、と!」
「フーゴ・フォン・ブロックマイアーっていう人に連絡を取ればいいのね?」
 なんか、すんなり名前を覚えることが出来た。緊急事態で、頭がフル回転してるのかも?
「ええ。でも、そのままではダメ」
 そのままではダメ? どういうこと? あたしはアストリットを見た。アストリットも分からないらしく、首を傾げる。そしてアストリットがヒルダさんに聞いた。
「ヒルダさん、サー・フーゴは二ヶ月ほど前、……ループしているから、時間の感覚があやふやになってしまってますけれど、確かそのぐらい前に食事に毒を混入され、毒殺されそうになったと聞きました。その時の後遺症で、今は寝たきりとなり、話すこともままならないといいます。そんな彼に連絡を取るというのは、どういうことでしょうか?」
 ああ、そうか、そういう意味で首を傾げたのか。アストリットはあたしよりも貴族の事情に詳しいもんね。
 ヒルダさんがアストリットを見て答える。
「彼は無事よ。毒殺されかかったのは影武者の方。だから、そのままでは彼と連絡を取ることは出来ない。だから、彼の世話係を担当している執事のコンラート・シャイデマンに接触するように提案して? あとはそちらで考えて欲しいの。あたしがここで具体的な方法を言ってしまうと、現世では周辺事情が変わってしまう可能性の方が高いから」
 あたしは何度か深呼吸をしてから、確かな意志をこめて頷いた。

 アンゲリカの野望は必ず止める! 戦争なんて起こさせないわ!


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