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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第4回   グレートヒェンとヘルモーズ・U
 腕が脱力し、ダラリと下がる。
 口から大きく、息を吹き出し、首が折れて下を向く。
 ヘルモーズは右肩を押さえる。手は銃を取り落としていた。
 血があふれ出して止まらない肩を押さえながら、王妃の隣に立つ、フードとマントを被った少女をヘルモーズの目は捉えた。
 おかしい? さっきまではあのような少女はいなかった。どこかに警護の者が隠れ潜んでいるだろうと予想して、駆け寄った。だから警護の者が行動するより、こちらの方が速かったはずなのだ。
 あの椅子の傍に潜んでいたのか? だが、椅子の周囲には隠れるようなものはなかった。
 少女の手には、短銃が握られている。あの銃が、自分の肩を撃ち抜いたのか。
 そう思いながら、ヘルモーズは少女を睨む。少女は無表情で、感情のこもらぬ声で答えた。
「私の名前はノーム」
「な、なに……? そん、な……。ノームは死んだ、と聞いたが?」
 痛みにこらえながら、己(おの)が知識と少女の言葉を照合し、その食い違いに少しばかり驚く。
 少女は頷いた。
「私は『ノーム』の名前を継いだもの」
「……そ、そうか……」
 グレートヒェンが言った。
「王家は代々、警護とは別に暗殺者集団をいくつか育成しておってのう。貴公も、そのぐらいは想像出来たであろう、王家が長く君臨するためには、敵を抹殺していかねばならぬことぐらい? 前のノームが殺された後、この者を新たな『ノーム』として取り立てた。暗殺者の中でも、四大精霊の名を冠する者は、特別じゃ」
 特別な暗殺者。それを影の警護にした、ということか。
「どこにいた……?」
 一応、尋ねてみる。
「天井」
「天井……?」
 言われてヘルモーズは天井を見る。そこにある造作(ぞうさく)は白を基調に花園をしつらえた絵。
 そして少女を見る。被っているフードやマントは白をベースに、ところどころ緑や赤に塗ってある。
 なるほど、先入観で見れば、あのような雑な色塗りでも、天井の絵に紛れることが出来るということか。確かに、感覚的に銃撃は高所から行われたのは間違いない。
 少女は銃口を向けたままだ。今、銃を拾っても、そのアクションの間に額を撃ち抜かれるだろう。
 だが、まあいい。
 ヘルモーズは言った。
「……今度は、うまくやるよ」
「貴公に、『今度』など、ない」
 思わず、心の中でグレートヒェンのことを笑う。そして言った。
「そう、かもな、死んじまうわけだから。だが……俺には、まだ時間が……」
 グレートヒェンが小さく笑い声を立て、言った。
「民間に流出し訛伝(かでん)した『イグドラシルの秘法』などに、なんの力もないわ!」
 驚愕が顔に出た。
 なぜ、「イグドラシルの秘法」のことを!? いや、創世の巨人ユミルについて知っているなら「イグドラシルの秘法」を知っていてもおかしくない。だが、なぜそれが「誤り」だと断言出来るのか!?


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