メリュジーヌは自分の中に定着した魔法を検索する。残念ながら「不死」といったモノはなかったが、「負傷からの回復」がいくつかある。 さっそくその中で最良のものを使って、ライモンダンを癒やした。 「……メリュジーヌ、俺は助かったのか……?」 まだおぼろげな意識なのだろう、ぼんやりとした目でライモンダンがメリュジーヌを見るでもなく見ている。 「ええ。でも、もう少し安静にしていて」 「……ああ」 大きく息を吐き、ライモンダンが深い息を繰り返す。 メリュジーヌは意識を幽玄の世界に踊らせ、少し未来(さき)を見る。これは予知ではない。「占い」の範疇に入る先読みだ。残念ながら、「予知能力」という魔法はないらしい。 「……いえ、大陸に残されていないのか、私が理解出来ていないのか。でも、いい『未来』が視えたわ」 呟き、メリュジーヌはライモンダンを見て言った。 「ライモンダン。明日、この森にポワトゥ地方の領主、ポワティエ侯エムリが来るわ。私は幻術を使って森の中で彼を惑わせる。そこを私たち二人が助けるの。そうやって彼に取り入り、ポワトゥを治めましょう」 「俺に領主になれ、と?」 「ええ。……考えの違う者を認めない……いえ、私たちを苦しめたこんな世界、存在してはならないわ。一度、この世界は滅ぶべきなの。そして新しく世界を創る。その時、良き治世をもたらすために、いろいろと学んでおく必要がある。言ってみれば、予行練習ね」 「予行練習……」 頷き、メリュジーヌは続ける。 「不死の魔法はないけれど、いくつかの魔法を組み合わせれば、転生の魔法が出来るわ。それを使えば、一度の人生で叶えられないことも、実現出来る」 しばらくメリュジーヌを見ていたライモンダンだが、不意にこんなことを言った。 「メリュジーヌ、俺の目の錯覚かも知れないけど、君が、禁断の果実を食べるようにそそのかすヘビが巻き付いた、始祖の女に見える」 「ヘビ、ですって?」 「ああ。下半身が、ヘビのようだ……」 あまりいい気持ちではない。いくらまだ意識がはっきりとしていない者の言葉としても、あんまりだ。 「ライモンダン、もしかして、こんな私は嫌い?」 恐る恐る聞いてみる。すると、ライモンダンはゆっくりと首を横に振り、言った。 「紺碧が混じった銀色の鱗が、とても綺麗だ……。始祖の女から禁断の果実を勧められた始祖の男も、こんな気持ちだったのかもな……」 口元に笑みを浮かべて。 胸の中に愛しい想いがあふれてきて、メリュジーヌはライモンダンと唇を合わせた。
その後、突如レイモン六世はクルセイドから離脱して抗戦に転じ、その戦いの中で戦死。ロジェは再びクルセイドに加わろうと、クルセイド軍の総指揮を執っていたレスター伯シモン・ド・モンフォールの元へ赴いたが叶わず、そこで頓死(とんし)した。一説に、毒殺であったという。
それらの陰に、魔女となったメリュジーヌの呪いがあったことを、知る者はいない。
そして、数百年を経て、ライモンダンはレオポルト・フォン・マイスナーとして、メリュジーヌはアンゲリカ・フォン・マイスナーとして転生を遂げることになる……。
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