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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第32回   ピュアリファイ
 毎週土曜日の夜、メリュジーヌは村から東に七五〇エル(約三〇〇メートル)行った、林の中にある湖で沐浴するのが日課となっていた。
 満月の光が空から淡く、神秘的な光を投げかける中、メリュジーヌは腰まで浸かった湖の水をすくい上げては胸に流し、またその水を肩から掛ける。
 しばらくして沐浴を終えると、メリュジーヌは大いなる父と御子に感謝の祈りを捧げ、湖から上がる。
 木の枝にかけた身を拭く長い布を取ったとき。
 何かの気配を感じ、メリュジーヌはとっさに振り返った。
「誰!?」
 そこにいたのは、ロジェ。
「サー・ロジェ……。どうして、ここに……?」
 月の光で明るいとはいえ、やはり日中ほどではない。その中で見るロジェの姿は、さながら始祖の処女(おとめ)に禁断の果実を取るようそそのかす、サタンの化身たるヘビそのままだった。
 本能的恐怖を覚え、メリュジーヌは布に手をやる。だが、布を掴むより早くロジェが躍りかかり、メリュジーヌの両手首を掴んで、大の字に地面に押し倒した!
 驚きと背を打った痛さで声も出ない。
 ロジェが顔を間近にして言う。
「君の行動など、村の誰もが知っている。だから、ちょっと聞けば、土曜日の夜にここに沐浴に来ることを、知ることが出来た。……ああ、もっと早く知っていたならなあ。君のその生まれたままの姿を、どんな芸術家も生み出し得ないその肢体(からだ)を、こうして僕のものに出来たのに」
 そして、さらに顔を近づけてきた。
 必死に顔を背けて悪魔の接吻は避けたが、今度はロジェの舌がメリュジーヌの首筋を這う。おぞましさに、小さく息を引くような悲鳴が漏れる。だが、おかまいなしにロジェはメリュジーヌの肌を蹂躙する。逃れようにも、ロジェの腕はしっかりとメリュジーヌを押さえつけ、体が覆い被さってきている。まるで地に磔(はりつけ)にされたかのようだ。
 やがて、ロジェの舌が白い膨らみにさしかかってきた。世の終わりが来るとしたなら、おそらく今のような心持ちになるだろう、そんな風にどこか冷静に己の心理に気づいたとき、メリュジーヌはようやく悲鳴を上げることが出来た。
 その直後であった。
 地を走る足音がして、急に体にのしかかる不快な重さが消えたのだ。それと同時に、カエルの声にも似た悲鳴もした。
 足音の主も悲鳴の主もわかる。起き上がったメリュジーヌが見たものは、仰向けに倒れたロジェに馬乗りになり、その顔に何度も拳(こぶし)を叩き込むライモンダン。
 枝にかけた布でひとまず体を覆うと、メリュジーヌはライモンダンに駆け寄った。
「もう、もういいわ、ライモンダン! それ以上殴ったら、死んじゃう!」
 怒りにまかせて拳を振るっているライモンダンの背中に抱きつき、ロジェから引き剥がすようにするが、その力にあらがえない。
 しかし、わずかながらでも理性が残っていたようで、ライモンダンは荒い息をつきながらロジェから離れた。
「愛しいメリュジーヌを、一人でこんなところに来させると思っていたのか、ロジェ!?」
 そう、ライモンダンとともに来て、彼はこの近くでメリュジーヌの沐浴が終わるのを待っていたのだ。
 ライモンダンの言葉をどう聞いたか。やがて、のろのろと起き上がったロジェは、二人を睨んだ。
「……このままですむと思うなよ……。貴様ら二人とも、僕にこんなことをしたことを、死ぬほど後悔させてやる……!」
 そう言い残し、ヨロヨロとロジェは去って行った。
 ライモンダンがメリュジーヌを抱き寄せる。
「……すまない、すまないメリュジーヌ。頭に血が上って、俺にもどうにもできなかった」
「いいのよ、ライモンダン。……ねえ、二人で村を出ましょう。領主の息子にあんなことをしてしまった以上、もうここには住めないわ」
 驚いたように、ライモンダンが声を上げる。
「悪いのは俺だけだ! 君まで村を出る必要は」
「ううん。私だけ残っても、あの男の慰み者にされるだけだわ」
 ライモンダンがいっそう強くメリュジーヌを抱く。
 ピエール・ヴァルダンがそうしたように、自分は遍歴の巡回説教者になろう。
 メリュジーヌは、そう決意を固めた。


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