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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第30回   メリュジーヌ
 ある国の南部に、アルビィという名の都市があった。この都市を治めていたのはトゥールーズ伯レイモン六世。領民たちには懐の深い善政を敷いていたものの、やや権威に弱いところがあるというのが、風説であった。
 そしてアルビィの外れに、小さな村「リョーン」があった。

 その朝、少女はいつものように教会の中で、聖なるシンボルの前にひざまづき、祈りを捧げていた。少女の年齢は今年で十七歳だったが、もう少し大人びて見える。

“天の大いなる父よ、父が使わした御子よ、そして聖なる命よ、今日もこの御恵みに感謝いたします”

 一通りの祈りを終えた後、充実した心で少女は立ち上がる。そして教会を出て、近くに建てられた建物に向かう。その建物は標準的な民家の倍ほどの広さを持った平屋。丸太を組んで作り上げた、簡素な建物だ。
 少女が扉を開くと、中に七人の子ども達。少女が入って行くと、それに気づいた子どもの一人が弾けるような笑顔で声を上げた。
「せんせー、おはよー!」
 少女も笑顔でそれに応える。
「おはよう、ジョフロワ!」
 すると、次々に子ども達も挨拶を始める。そして、少女は点呼を始めた。
「おはよう、みんな。……ミシェル、アニエス、エクトル、サビーナ、ジョフロワ、ベルナール、アポリーヌ、ルシアン。……ルシアン?」
 ルシアンは、十歳の男の子で、とても元気だ。ここへもよく来る。もしかしたら、体を壊したのだろうか?
 各々(おのおの)の席についた一同を見渡すと、どうも様子がおかしい。皆は気まずそうに顔を見合わせている。
 やがて、最年長で十三歳の女の子・ミシェルがおずおずと口を開いた。
「昨日の夕方、ルシアンの家に教区の人が来て、話をしてて、それでルシアン、カソリカの教義に改宗するって……。表向きは入信だけど」
 その言葉が、かすかな衝撃を少女の胸に打ち込む。皆を見渡すと、皆、落ち着きがない。
 ルシアンと同じく、十歳の男子・エクトルが言った。
「先生、教会の方が間違ってるんだよな? 教会は堕落してるんだよな? おれたちの方が、神の御心に適(かな)ってるんだよな? ……おれたち、異端なんかじゃないよな?」
 エクトルの表情は、やや不安げだ。そのあとに最年少の女の子、五歳のアポリーヌが言う。
「せんせー、“いたん”は、ころされちゃうの?」
 瞳には不安を通り越して、恐怖の色が浮かんでいた。おそらく親から聞かされているのだろう。
 無理にでも笑顔を作らねば、と思いつつ、少女は答えた。
「大丈夫よ、アポリーヌ、殺されたりなんかしないわ。そもそも同じ、天の大いなる父と御子を信ずる者、それに教義にもあるでしょ、“隣人を愛しなさい”って」
 うまく笑顔を浮かべて、子ども達の不安を取り除けただろうか、いや、自分自身の不安を打ち消せただろうか。
 そんな風に思いながらも、少女は言った。
「さあ、みんな、聖典を開いて」
 やや暗い雰囲気の中で、子ども達も袋やカバンから聖典を出す。
 それを確認し、少女は聖典を開いた。
「それじゃ、『ルークの福音』の続きを……」


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