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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第3回   グレートヒェンとヘルモーズ・T
 アイヒェンドルフ公ヘルモーズは二十八歳でありながら、領地を治めていた。父ローラントが病(やまい)で急逝したからである。彼の政務能力は優れたものであり、その名は王都でも評判だった。いずれは王女フロレンツィアを娶(めと)るのではないかといわれているほどだ。
 そして今、彼は王城にいた。昨日の夕刻にやって来た王城の使者からの伝令によると、昨日の昼に、不埒者が王を弑逆(しいぎゃく)し、王位を簒奪(さんだつ)したという。そればかりか、王妃もそれに荷担(かたん)していた。あまつさえ、その簒奪者を処断しようとした近衛騎士数名を殺害した。
 もちろん、直接的には、このような文言(もんごん)ではない。あくまで「意訳」だ。だが、伝令の者は口止めをされていなかったようで、それとなく先のような話を匂わせた。
 その殺害に際し、悪魔が関わっていたという話も聞かれたが、アイヒェンドルフ領の大部分のものは、さすがに信じてはいない。何かの喩えだと、ヘルモーズの老秘書官ローベルトは言っていたが、ヘルモーズはそれが真実であると知っていた。
 朝、急いで王城へ赴き、王妃グレートヒェンとの面会を求める。自分の名を出すと、グレートヒェンは、会うと答えたという。それにある種の確信を持ちながら、衛兵に案内され、グレートヒェンの私室に通された。
 王妃は窓際にある椅子に腰掛け、外の景色を眺めていた。
 部屋に入り、ヘルモーズは時候の挨拶を終えた後、言った。
「陛下、お人払いを願います」
 ニヤリとして、グレートヒェンは言う。
「ほう? 余人に聞かれては、まずいことかえ?」
 ヘルモーズは答えない。それが何よりの答と悟ったか、グレートヒェンはヘルモーズと二人きりになる。
「さて、サー・ヘルモーズ、お望みの二人きりじゃ。いかなる用向きであるのか?」
 やはり蠱惑的ともいえる笑みを浮かべ、グレートヒェンは問う。
 重大な決意を抱きながらも、ここへ来て、行動がやや鈍る。
 何をしに来たのだ!と、心の中で己を叱咤し、ヘルモーズは言った。
「長々と話をするのは、いかがなものかと思います。そちらの方が、『この事態』について、お詳しいようですからな」
「貴公が何を言っているのか、妾には、まるでわからぬが? あるいは、昨日(さくじつ)の王の宣言であるか? ならば、そちらも見たであろう、教皇による金印勅書を? 今頃は、すべての領主が知った頃であろうなあ?」
 どこまでも、空(そら)とぼけるつもりらしい。それならそれでもいいだろう。実力行使あるのみだ。
「王妃グレートヒェン、いや魔女ラグナロク! これまではお前に、ここまで近づくことは出来なかったし、二人きりになることも出来なかった! だが、野望が完遂(かんすい)できる直前ならば、お前は必ず油断すると踏んだのだ! 魔女め、地獄へ堕ちろ!」
 椅子に腰掛けるグレートヒェンに駆け寄りながら、上着に隠し持っていた短銃を抜き、引き金を引く。
 銃声が轟いた。


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