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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第27回   決斗!・V
 言うや否や、レオポルトが下げていた剣を、左腕で逆袈裟斬りに振り上げる。目に見えぬ刃が襲い来る。感じられる刃は先のモノよりも長いようだ。事実、レオポルトが立っている台に裂け目が走り、地面を抉(えぐ)るように線が走る。
 クーフリンは本能にも近い感覚に従って、横跳びに跳び、地に転がって起き上がる。
 間一髪、避けることが出来たが、すでにレオポルトは次なる体勢に入っていた。顔の右横に剣を据え、その切っ先をこちらに向けている。
 突きが来る!
 かわそうとしたときには、既にレオポルトは突きを放っていた。先刻までの戦いで舞い上がっていた土くれが、高速の渦を巻いてこちらに向かってくるのが見えた。
 お陰で心臓への命中は避けられたものの、左肩を抉るようにして螺旋の一撃が去って行く。
“骨まではやられていないが……”
 左腕に強烈な痛みとともに、痺れが走る。一時的なものだろうが、この場ではその「一時的」が命取りだ。
 ガエ・ボルグを右腕一本で持つ。
 戦場では、負傷などで片腕一本で戦うこともあったし、それでも十分しのげていた。
 だが、相手が「ユミルの力」を使えるとなると、事情は変わる。己に付与された「ユミルの耳」で、相手の動きを、その音を探る。少しでも相手の“先回り”が出来れば。
 そう思ったが。
「おお、そうであった。クーフリンよ、お前に貸し与えていた『ユミル』の力の一部、返してもらうぞ?」
 王妃が妖しい笑みを浮かべる。その口元が動いている。呪文の詠唱だろう。そう思う間に、一瞬、耳を塞がれるような感覚、口の中が痺れるような感覚が起きたかと思うと、先ほどまで大きく聞こえていた、夕刻の街、その喧噪が聞こえなくなった。
 クーフリンを見る王妃が、やはり妖しい笑みを浮かべて言う。
「お前が『ユミル』の力を使おうとすれば、妾にもそれが伝わる。もっとも、それを使ったところで、お前など、お父様の敵ではないがのう?」
 王妃の言葉から察するに、クーフリンが持っていた「ユミルの力」は取り返されたのだろう。事実、意識を合わせても遠くの音が……否、どうやって「意識を合わせていた」のか、それすら思い出せない。
 直後、レオポルトが剣を横薙ぎにした。かわす間もなく、その一閃がクーフリンの両の大腿に鮮紅の裂け目が走る。
「グッ……!」
 呻いて、クーフリンは両膝を折り、両膝立ちになった。
 どうにか立ち上がろうとして、ガエ・ボルグを支えにするが、うまくいかない。
 それでも立ち上がればならぬ……!
 その想いが、クーフリンを突き動かしている。
 なんとかよろけながらも立ち上がり、ガエ・ボルグを構える。だが、立っているのがやっと、それもフラフラと姿勢が定まらない。
 台から下りたレオポルトが、不敵な笑みでこちらに近づいてくる。
 イチかバチか、差し違えてでも死んでいった者たちに、報いよう。それが、この地に住まうことと引き換えだったとはいえ、このような非道を行う輩どもに助力した己の不明、その罪の償い方。
 そう思ったとき、上空から唸る風とともに、クーフリンの傍に人間ほどもある大鴉(オオガラス)が舞い降り、クーフリンを足で掴んで、そこから数十エル離れた場所まで連れ去った!


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