あたしは彼女たちの手を握ろうとするように、右腕を伸ばして光の中に飛び込んだ! すると、その先に何かの光景が見えたような気がして、そこに手を伸ばす。でも! 「…………え? ちょ、ちょっと、落ちてる……? え? ええええ!?」 あたしの体が後ろに引っ張られるような感じで、なんか不安定になって来た! そのとき、見えた光景がハッキリとする。それは、椅子に座ったイルザ、その隣に立つシェラ。そして、二人の視線の先にあったのは。 「あたしの体……?」 ベッドに横になってる、あたしの体があった。え、と、死んだってことでいいのかな? で、火葬する前……。そういえば、この国は火葬じゃなくて、棺桶に入れたまんま、土の中に埋める土葬だっけ。 って、ヤバいじゃん!! 火葬はヤバいけど、土葬もヤバい! このままじゃ、あたし生き埋めだわ! あたしは精一杯、自分の体に右手を伸ばす。でも、届かない! かと思ったら、いきなり体がグルリと反転した。 「え? ええええっ!? ちょっと、待って!」 あたしは手足をバタバタさせて、なんとか姿勢を戻そうとしたけど、なんだか分からない強い力に、後ろに向かって引っ張られた。これは落ちるっていうより、明らかに引っ張られてる! 右手を伸ばして何か掴めるものを探したけど見つからず。 あたしを引っ張る力が急に強くなる。 思わず、あたしは叫んだ。
「だうあっはあああああぁぁぁぁ!!!!!!」
気がつくと、あたしは上半身を起こして右腕を伸ばしてた。 「………………あれ? こ、こ……は? あたし……ていうかアストリットの部屋……?」 キョロキョロと辺りを見渡し、ふと、目に入ったのは。 椅子から転げ落ちてビックリしているイルザに、同じく尻餅をついて目を丸くしているシェラ。 「いかがなさいましたか!?」 あたしが状況を把握するより早く、ドアが開いてイザベラが飛び込んできた。そしてあたしを見るなり。 「え? ……え、え? …………え? お、お嬢、さ、ま……?」 信じられないものを見るように(……そうだわなあ、普通)、目をまん丸、口をあんぐり。この人のこういう表情、初めて見たわあ。 んで。 「………………ガブリエラ? 大丈夫かい……?」 あたしが、おそるおそる声を掛けたガブリエラは、ひっくり返って白目剥いて気を失っていた。
とりあえず、部屋の中にいるのはゴットフリートさんとイルザ、シェラだ。ガブリエラはイザベラと他の騎士さんに運んでいってもらった。 ちなみにハインリヒには、使いが出されたそうだ。 一息ついて、あたしは大雑把なところだけ話した。
……とかいって、マルクトがどうのケテルがどうの、あたしの世界とこっちの世界がこうの、なんていうことは話してない。あたし自身がよく理解出来てない、っていうこともあるけど、やっぱり二者択一の選択権をあたしが握っている、なんていうことは言うべきじゃないし。 だから、ここで話したのは、ヒルダさんのこと、女王の“正体”がアンゲリカっていう昔の人のこと、その目的のこと、アンゲリカはヒルダさんの姉だっていうこと、あたしに「ユミルの眼」があったけど今、それはアンゲリカに取られて、非常にまずい状態になってるってこと。
話を聞いてゴットフリートさんがしばらく唸ってから、言った。 「今、国王が替わっていてな」 「…………………………それって、亡くなったんですか?」 首を振ってゴットフリートさんが言った。 「正確には少し違うようなんだが、王位が簒奪(さんだつ)されたらしい」 あたしはギョッとなって聞き返した。 「え? ちょっと待ってください? 王位が奪われたんですか? でも、女王はアンゲリカっていって、昔の魔術師の転生ですよ? 防ごうと思ったら、いくらでも防げた筈じゃあ!? ……あ、もしかして女王自らが……!?」 「それなんだがな」と、ため息を少しついて、ゴットフリートさんが言った。 「昨夕訪れた王家からの伝令によると、新たな王はレオポルト・フォン・マイスナーという者だそうだ」 「へえ、そうなんですか……。え? マイスナー? なんか聞いたような……」 ゴットフリートさんの話を聞いたイルザが、眉間にしわを寄せた。 「領主様、もしや、その名前……」 ゴットフリートさんが頷くのを確認して、あたしはイルザに聞いた。 「ねえ、誰、そのレオなんとか、って人?」 イルザがあたしを見る。 「フォン・マイスナーは、今から百年以上前ですが、選帝侯制度を廃止させて大きな権力を手にしたものの、諸侯の猛反発にあい、国を混乱させた罪で廃嫡となった貴族の家柄です。そのときの当主の名前がレオポルト。病死だと、歴史書には記されています」 「……同姓同名、よね?」 「せんていこうせいど」とか、今ひとつよくわからなかったけど、今は話の腰を折るとややこしくなりそうだったので、あたしは、こうとだけいっておいた。 ゴットフリートさんが言った。 「だと、いいのだがな。今のミカの話を聞くと、あながち同姓同め……」 「あああーッッ!! マイスナーってェーーーー!!」 ゴットフリートさんの言葉を遮っちゃったけど、突然、あたしの脳裏に、電撃的に記憶が甦った。 「…………すみません、ほんと……」 あたしは驚いてるイルザやシェラ、ゴットフリートさんに頭を下げる。 叫ぶクセ、やめないとマジでマズいわ、いろいろと。
あたしは「コホン」と咳払いをしてから言った。 「今、思い出したんですけど。アンゲリカの名前、アンゲリカ・フォン・マイスナーというそうです。なんか、関係ありますかね?」 その言葉に、ゴットフリートさんが応える。 「詳しく系図を調べなければならんが。ヒルデガルトはフォン・ビンゲンからフォン・フォルバッハに嫁(か)してきたそうだが、もしかするとヒルデガルトは元はフォン・マイスナーの出で、アンゲリカは姉かも知れんな」 ……………………。 「? どうしたんですか、ミカさん? 顔が赤くなって引きつってますよ?」 「な、なんでもないわ」 う・そ。実は叫ぶの我慢したんだ。 「ヒルデガルト」っていう名前、どこかで聞いたことがあるなあ、って思ったら、ゴットフリートさんから聞いてたんだわ。
そのときヘルミーナさんがやって来て、ハインリヒが来たっていうのを告げた。
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