20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第22回   希望の帰還・U
 あたしは彼女たちの手を握ろうとするように、右腕を伸ばして光の中に飛び込んだ!
 すると、その先に何かの光景が見えたような気がして、そこに手を伸ばす。でも!
「…………え? ちょ、ちょっと、落ちてる……? え? ええええ!?」
 あたしの体が後ろに引っ張られるような感じで、なんか不安定になって来た! そのとき、見えた光景がハッキリとする。それは、椅子に座ったイルザ、その隣に立つシェラ。そして、二人の視線の先にあったのは。
「あたしの体……?」
 ベッドに横になってる、あたしの体があった。え、と、死んだってことでいいのかな? で、火葬する前……。そういえば、この国は火葬じゃなくて、棺桶に入れたまんま、土の中に埋める土葬だっけ。
 って、ヤバいじゃん!! 火葬はヤバいけど、土葬もヤバい! このままじゃ、あたし生き埋めだわ!
 あたしは精一杯、自分の体に右手を伸ばす。でも、届かない!
 かと思ったら、いきなり体がグルリと反転した。
「え? ええええっ!? ちょっと、待って!」
 あたしは手足をバタバタさせて、なんとか姿勢を戻そうとしたけど、なんだか分からない強い力に、後ろに向かって引っ張られた。これは落ちるっていうより、明らかに引っ張られてる! 右手を伸ばして何か掴めるものを探したけど見つからず。
 あたしを引っ張る力が急に強くなる。
 思わず、あたしは叫んだ。

「だうあっはあああああぁぁぁぁ!!!!!!」

 気がつくと、あたしは上半身を起こして右腕を伸ばしてた。
「………………あれ? こ、こ……は? あたし……ていうかアストリットの部屋……?」
 キョロキョロと辺りを見渡し、ふと、目に入ったのは。
 椅子から転げ落ちてビックリしているイルザに、同じく尻餅をついて目を丸くしているシェラ。
「いかがなさいましたか!?」
 あたしが状況を把握するより早く、ドアが開いてイザベラが飛び込んできた。そしてあたしを見るなり。
「え? ……え、え? …………え? お、お嬢、さ、ま……?」
 信じられないものを見るように(……そうだわなあ、普通)、目をまん丸、口をあんぐり。この人のこういう表情、初めて見たわあ。
 んで。
「………………ガブリエラ? 大丈夫かい……?」
 あたしが、おそるおそる声を掛けたガブリエラは、ひっくり返って白目剥いて気を失っていた。

 とりあえず、部屋の中にいるのはゴットフリートさんとイルザ、シェラだ。ガブリエラはイザベラと他の騎士さんに運んでいってもらった。
 ちなみにハインリヒには、使いが出されたそうだ。
 一息ついて、あたしは大雑把なところだけ話した。

 ……とかいって、マルクトがどうのケテルがどうの、あたしの世界とこっちの世界がこうの、なんていうことは話してない。あたし自身がよく理解出来てない、っていうこともあるけど、やっぱり二者択一の選択権をあたしが握っている、なんていうことは言うべきじゃないし。
 だから、ここで話したのは、ヒルダさんのこと、女王の“正体”がアンゲリカっていう昔の人のこと、その目的のこと、アンゲリカはヒルダさんの姉だっていうこと、あたしに「ユミルの眼」があったけど今、それはアンゲリカに取られて、非常にまずい状態になってるってこと。

 話を聞いてゴットフリートさんがしばらく唸ってから、言った。
「今、国王が替わっていてな」
「…………………………それって、亡くなったんですか?」
 首を振ってゴットフリートさんが言った。
「正確には少し違うようなんだが、王位が簒奪(さんだつ)されたらしい」
 あたしはギョッとなって聞き返した。
「え? ちょっと待ってください? 王位が奪われたんですか? でも、女王はアンゲリカっていって、昔の魔術師の転生ですよ? 防ごうと思ったら、いくらでも防げた筈じゃあ!? ……あ、もしかして女王自らが……!?」
「それなんだがな」と、ため息を少しついて、ゴットフリートさんが言った。
「昨夕訪れた王家からの伝令によると、新たな王はレオポルト・フォン・マイスナーという者だそうだ」
「へえ、そうなんですか……。え? マイスナー? なんか聞いたような……」
 ゴットフリートさんの話を聞いたイルザが、眉間にしわを寄せた。
「領主様、もしや、その名前……」
 ゴットフリートさんが頷くのを確認して、あたしはイルザに聞いた。
「ねえ、誰、そのレオなんとか、って人?」
 イルザがあたしを見る。
「フォン・マイスナーは、今から百年以上前ですが、選帝侯制度を廃止させて大きな権力を手にしたものの、諸侯の猛反発にあい、国を混乱させた罪で廃嫡となった貴族の家柄です。そのときの当主の名前がレオポルト。病死だと、歴史書には記されています」
「……同姓同名、よね?」
「せんていこうせいど」とか、今ひとつよくわからなかったけど、今は話の腰を折るとややこしくなりそうだったので、あたしは、こうとだけいっておいた。
 ゴットフリートさんが言った。
「だと、いいのだがな。今のミカの話を聞くと、あながち同姓同め……」
「あああーッッ!! マイスナーってェーーーー!!」
 ゴットフリートさんの言葉を遮っちゃったけど、突然、あたしの脳裏に、電撃的に記憶が甦った。
「…………すみません、ほんと……」
 あたしは驚いてるイルザやシェラ、ゴットフリートさんに頭を下げる。
 叫ぶクセ、やめないとマジでマズいわ、いろいろと。

 あたしは「コホン」と咳払いをしてから言った。
「今、思い出したんですけど。アンゲリカの名前、アンゲリカ・フォン・マイスナーというそうです。なんか、関係ありますかね?」
 その言葉に、ゴットフリートさんが応える。
「詳しく系図を調べなければならんが。ヒルデガルトはフォン・ビンゲンからフォン・フォルバッハに嫁(か)してきたそうだが、もしかするとヒルデガルトは元はフォン・マイスナーの出で、アンゲリカは姉かも知れんな」
 ……………………。
「? どうしたんですか、ミカさん? 顔が赤くなって引きつってますよ?」
「な、なんでもないわ」
 う・そ。実は叫ぶの我慢したんだ。
「ヒルデガルト」っていう名前、どこかで聞いたことがあるなあ、って思ったら、ゴットフリートさんから聞いてたんだわ。

 そのときヘルミーナさんがやって来て、ハインリヒが来たっていうのを告げた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 234