夜。 そうそう、ここにも「夜」があるのよ。でも、眠くならない。ヒルダさんの話じゃあ、一日ほど、ここで過ごすってことだから……。 ここに来たのは、お昼を少し過ぎた頃って感じだった。だから、あと十四、五時間ぐらいかなあ? 時計とか、時間を知る道具がないから、わかんないけど。 ヒルダさんとアストリットは、別の場所にいる。なんか、コテージみたいなものを造ってるんだって。 でも、あたしは一人でこの草原にいることを選んだ。何か危ない動物がいるわけじゃないし、危ない人がいるわけでもないから、一人でいても安全だし、それに。 考えなきゃいけないことで頭がパンパンだったんだ。 だから、一人になって考えたかった。だって、二つの世界のうち、一つしか存続出来ないなら、どうしたらいいんだろう、なんて相談、ヒルダさんたちと出来るわけないじゃん。 「あーあ、ホント、どうしよう……。どうしようっていえば、前回、なんで死んだんだろ? いきなり背中に激痛が走って、息苦しくなったから、背後から攻撃されたんだろうけど、それなら一緒にいたハンナやガブリエラが気づいたはず」 あのときの記憶、ちょっと曖昧になってる部分も確かにあるんだけど、それでもハッキリと覚えてるのは、あたしが攻撃された後でハンナたちが驚いてたってこと。つまりハンナたちの視界に攻撃したヤツ、つまりウンディーネかサラマンダー、あのひょろ長い男や、パトリツィアの姿はなかったってこと。 じゃあ、一体どこからどうやってあたしを攻撃したんだろ? うーん……。 「ダメだわ。あのときのこと、痛くて息苦しかった、ってことしか覚えてないや。他に覚えてることっていったら、何かに対する期待感を抱いてたってこと。……要するに、元の世界に帰れるってこと。そっちの方がインパクト強くて、他のこと、覚えてないわ」 あたしは脚を投げ出し、大の字になって草原に寝転ぶ。 夜空を眺める。星がキラキラとまたたいてて、すっごいキレイ。星の色も青とか赤とか黄色とか、はっきりとわかって、あたしが住んでた街じゃ絶対に見られない光景だわ。 こうやって、きれいな星空を、ただただ眺めていたい、何も考えず。 「うー、あたし、ただの女子高生なのに、なんで世界の命運の決定権とか、背負うことになってんのよう!」 手足をジタバタさせる。 ……なんの意味もないけどね。気も晴れないし。 ふと、右腕を夜空にかざす。 あ。なんか文字とか記号みたいなものが、腕の表面……ううん、中かな、浮いてるのが見える。 そっか、あのときの“アレ”が、こんな風になってるんだ、あたしの右腕の中で。 これは、スルトの剣、ラグナロクを倒せる唯一の武器で、世界を滅ぼす禁断の武器。 あたしは自分の右腕をしばらく眺める。 「……………………よし! 今はラグナロクに専念しよ!」 腕をバタン!って感じで草原に落とす。 目を閉じると、だんだんとあたしの意識が落ちていった。
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