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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第18回   重たいもの、背負わせないでよ……
 夜。
 そうそう、ここにも「夜」があるのよ。でも、眠くならない。ヒルダさんの話じゃあ、一日ほど、ここで過ごすってことだから……。
 ここに来たのは、お昼を少し過ぎた頃って感じだった。だから、あと十四、五時間ぐらいかなあ? 時計とか、時間を知る道具がないから、わかんないけど。
 ヒルダさんとアストリットは、別の場所にいる。なんか、コテージみたいなものを造ってるんだって。
 でも、あたしは一人でこの草原にいることを選んだ。何か危ない動物がいるわけじゃないし、危ない人がいるわけでもないから、一人でいても安全だし、それに。
 考えなきゃいけないことで頭がパンパンだったんだ。
 だから、一人になって考えたかった。だって、二つの世界のうち、一つしか存続出来ないなら、どうしたらいいんだろう、なんて相談、ヒルダさんたちと出来るわけないじゃん。
「あーあ、ホント、どうしよう……。どうしようっていえば、前回、なんで死んだんだろ? いきなり背中に激痛が走って、息苦しくなったから、背後から攻撃されたんだろうけど、それなら一緒にいたハンナやガブリエラが気づいたはず」
 あのときの記憶、ちょっと曖昧になってる部分も確かにあるんだけど、それでもハッキリと覚えてるのは、あたしが攻撃された後でハンナたちが驚いてたってこと。つまりハンナたちの視界に攻撃したヤツ、つまりウンディーネかサラマンダー、あのひょろ長い男や、パトリツィアの姿はなかったってこと。
 じゃあ、一体どこからどうやってあたしを攻撃したんだろ?
 うーん……。
「ダメだわ。あのときのこと、痛くて息苦しかった、ってことしか覚えてないや。他に覚えてることっていったら、何かに対する期待感を抱いてたってこと。……要するに、元の世界に帰れるってこと。そっちの方がインパクト強くて、他のこと、覚えてないわ」
 あたしは脚を投げ出し、大の字になって草原に寝転ぶ。
 夜空を眺める。星がキラキラとまたたいてて、すっごいキレイ。星の色も青とか赤とか黄色とか、はっきりとわかって、あたしが住んでた街じゃ絶対に見られない光景だわ。
 こうやって、きれいな星空を、ただただ眺めていたい、何も考えず。
「うー、あたし、ただの女子高生なのに、なんで世界の命運の決定権とか、背負うことになってんのよう!」
 手足をジタバタさせる。
 ……なんの意味もないけどね。気も晴れないし。
 ふと、右腕を夜空にかざす。
 あ。なんか文字とか記号みたいなものが、腕の表面……ううん、中かな、浮いてるのが見える。
 そっか、あのときの“アレ”が、こんな風になってるんだ、あたしの右腕の中で。
 これは、スルトの剣、ラグナロクを倒せる唯一の武器で、世界を滅ぼす禁断の武器。
 あたしは自分の右腕をしばらく眺める。
「……………………よし! 今はラグナロクに専念しよ!」
 腕をバタン!って感じで草原に落とす。
 目を閉じると、だんだんとあたしの意識が落ちていった。


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