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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第14回   生命の樹
 世界の初めの初めがどうだったか、そんなことは分からない。いつの頃からか、創造の光がいくつも存在していた。
 その光の名は「ケテル」っていうセフィラ。そのケテルから径(みち)が延びて、また一つセフィラが出来た。それが「コクマー」。ここに知恵が結集された。コクマーから径が延びて次のセフィラ「ビナー」が生まれた。コクマーの「知恵」が、ここで「理解」された。ビナーから延びた径の先にあるのが「ケセド」……「慈悲」。
 そして次々に径が延びてセフィラが形作られた。「ゲブラー」……「峻厳」、「ティファレト」……「美」、「ネツァク」……「勝利」、「ホド」……「栄光」、「イェソド」……基盤」。
 最後に「マルクト」……「王国」、つまり、あたしたちが住んでいる世界だ。この「世界」が、あたしたちが住んでいる地球なのか、太陽系なのか、それとも宇宙そのものなのか。そこまではローラントさんの本に書かれてなかったから、わからない。だから、ただ単に「世界」ってしておく。
 この径は一直線じゃなくて、ジグザクを描いてる。形としては、三本の柱があって、左の柱にビナー、ゲブラー、ホドの三つが、右の柱にはコクマー、ケセド、ネツァクの三つがある。
 中央の柱には、てっぺんにケテル、最下にマルクトがあって、その間にティファレト、イェソドの二つがある。
 これを「生命の樹」って呼ぶ。

 で、肝心なのは、ここから先。
 ケテルから出た径を通じて根源の光とエネルギーが流れ、それぞれのセフィラの徳目を獲得しながら、マルクト、つまりあたしたちの世界で結実し、発展していく。やがて世界は円熟し、マルクトが次の新たなケテルになって、生命の樹を描き、前のマルクトで獲得したものを一部、前提にしてマルクトはスタートする。
 こうやって、世界は緩やかだけど、確実に進歩発展していくそうだ。
 こういう知識をローラントさんが得られたのは、ビナーからケセドの間に存在する「ダァト」っていうセフィラにアクセス出来たから。ダァトが象徴するのは「知識」。ここには、コクマーで知恵となり、ビナーで理解されたケテルの光と情報が、人間に理解可能な「知識」として収蔵されているという。ただ、このダァトは潜在的なセフィラで、普通に瞑想した程度じゃ認識出来ないという。ローラントさんがアクセス出来たのは、まさに死ぬか生きるかのギリギリだったから、らしい。

 そして今、あたしたちのマルクト……「世界」は崩壊に向かっているそうだ。
 原因とか、理由は分からない。
 ていうか、環境破壊とか核兵器とか、思い当たることが多くて特定出来ないし、全部ひっくるめて原因になってるのかも知れない。
 マルクトの崩壊は、ケテルにとって望ましいことじゃない。ローラントさんにも分からないそうだけど、ケテルには「世界を進歩発展させよう」という意志っていうか、願いみたいなものがあるらしい。でも今、あたしたちの世界は崩壊に向かってる。
 そこでケテルは非常措置をとった。
 それが……。

 新たな生命の樹の生成と新たなマルクトの創造。

 そう、ヒルダさんやアストリットの世界は、新しく作られたマルクトなんだ。その新たなマルクトは、あたしたちの世界の技術や歴史が少し反映されてて、そのせいで中世の世界なのに近世の技術や、他国の文化がゴチャゴチャに混ざってるらしい。本を読んだときには、その辺に今ひとつわからないところがあったけど、さっきの「“次元”が違う」っていう言葉で、すっきりと理解出来た。
 ヒルダさんの世界は、あたしたちの世界をお手本にしてるんだ。それも、お互いの世界は絶対に関わらない形で。
 そして、このままだと新しいマルクトが育っていって、あたしたちの世界を成立させるマルクトや生命の樹が消滅するという。
 実はもう、その消滅は始まっていて、マルクトの一歩手前「イェソド」が象徴する基盤が崩れ始めてるそうだ。その「基盤」っていうのは霊的なものだそうで、マルクトと互いに影響を与え合っているっていう。
 つまり、マルクトが崩れ始めたんで霊的な基盤であるイェソドが崩れ始める、イェソドが崩れるんで、マルクトが崩れて、マルクトが崩れるから……。

 ローラントさんは、それを防ぎたいって思ってる。そして必ず防げるって思ってる。でも、それには時間がかかる。その間に、もう一つのマルクトの方にケテルのエネルギーが、100パーセント注がれてしまうかも知れない。そうなると、あたしたちの「世界」は滅びてしまう。
 それを防ぐ唯一の手立てが「スルトの剣」。スルトの剣はアストリットたちにとっては、ラグナロクを倒す武器だけど、同時にあたしたちにとってもアストリットたちの世界を焼き滅ぼす、最終兵器でもある。

 君にこの世界を託す

 ローラントさんの言葉の真意が、あたしの中で拡散し、染みこんでいってる。
 細胞レベルであたしにメッセージを寄越してくるんだ。
“さあ、決断しなさい”って。

 あたしは、もちろん自分の世界を護りたい。
 でも、彼女たちの世界にも人々が間違いなく生きている。あたしたちと変わりない人たちが、日々を送っているんだ。ときに希望を持って、必死に頑張って。

 あたしは、一体どうすれば…………。

※「生命の木」の解釈、調べはしたけど、メチャクチャでスマヌ。


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