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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第13回   真実は、ときに残酷なのよね……
 あたしは、ヒルデガルトさんがどこかからか出した椅子に座る。
 ヒルデガルト(本人が「ヒルダでいい」っていうんで、以降、ヒルダって呼ぶ)さんが、言った。
「そもそも、様々な魔術をもたらしたのは、あたしの姉、アンゲリカ・フォン・マイスナー。今、転生を遂げて、王妃グレートヒェンになってる。ここまでは、いい?」
「……はい? ゴメン、ちょっと前提が分からない。何がどうなってるの?」
 ヒルダさんはアストリットと顔を見合わせ、肩をすくめてため息をつく。そして、言った。
「あなたとは、何度か“記憶”を共有出来るようにしたつもりだったけど、やっぱりうまくいかないわね。異なる“次元”の存在とは、うまくアクセス出来ないのかしら? まあ、いいわ。……それじゃあ、目を閉じてくれる?」
 何が何だか分からないんで、あたしはヒルダさんが言うとおりにした。
 ヒルダさんが小さく呪文を唱えているのが聞こえる中、閉じたあたしのまぶたの裏に、ぼんやりと光が浮かび、まるでスクリーンのようになった。そこに、いろいろな場面が、ときに無音で、ときに音入りで、映画のように展開されていく。
 本当に映画のようで、なんだか現実感がないけど、これがヒルダさんの知識・記憶だっていうのは、はっきりと実感出来た。

 スクリーンが消えて、まぶたの裏が暗くなった頃、ヒルダさんが言った。
「……どうかしら? おおよそのところ、わかってくれた?」
「ええ。とりあえず、だけど。でも、今見たことが本当なら、アンゲリカは転生してまで、実のお父さんと添い遂げたかった、ってこと?」
 ヒルダさんが、首を横に振りかけて考える仕草をする。そして。
「そうね、それが第一の願いかも知れないけど。でも、もう一つの目的は、ユミルの力を使って、世界を自分たちの思うままに改造すること」
「はい? 世界を改造? それって、世界を征服するっていうことかな?」
 あたしの言葉に、ヒルダさんは首を横に振る。
「いいえ、文字通り、改造。ユミルは世界創世の巨人、その力を使えば、本当に世界を改造出来るの。……そうね、専門的になるから、あなたには、誤解を怖れずに喩え話をするわ」
 そう言って、ヒルダさんは空を見上げる。

「遙かな昔、世界はギンヌンガガプという、冥い奈落だけがあった。そこに、霜が生まれ、霜に炎が熱風を吹き付けて溶かし、溶けた霜から巨人ユミルが生まれた。ユミルの体から、オージン、ヴィリ、ヴェイの三兄弟が生まれ、三兄弟はユミルを殺して、その体から世界を作った」
「へえ、なんか、神話みたい」
「そうね。でも、あなたの“次元”での神話とは違うと思うわ」
「あたしの“次元”とは違う……。なるほど、そういうことなんだ」
 あの本に書いてあった知識が、また別の角度から理解出来た。
 あたしの呟きを聞いて、ヒルダさんが、すうぅって感じで目を細める。
 ? なんだろ?
「話、続けるわね? 今の話は、魔術的には、こう解釈出来るの。……ユミルは、世界を成立させる根源。ユミルを制御出来れば、この世界の根源にアクセス出来る。それは物質的なものにとどまらず、霊的なものにも作用する」
 あの本に書いてあったことを、頭の中で思い出しながら、今の話を当てはめる。
 少しして、ヒルダさんが言った。
「あなた、もしかして、隠されし十一番目のゼフィラ・『ダァト』にアクセスしたのかな?」
「うん。いろいろと本にまとめてくれた人がいたの。ローラント、って人だけど」
「ローラント? ……そうか、アイヒェンドルフ公爵にいろいろと教えたのは、その人物ね? なら、気づいているんでしょ、こちらの世界と、そちらの世界との関係について?」
 あたしは頷いて答えた。
「ええ。あたしの世界とそちらの世界、二つ同時には存在出来ない。存在出来るのは、どちらか一つだけ」
 そう、あたしの世界とヒルダさんたちの世界は、平行世界とかじゃない。
 もっとシビアな関係にあるんだ。


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