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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第12回   まさか、そんなことって!?
 気がつくと、あたしは淡い緑色と青色がマーブル模様を描く、トンネルの中を飛んでいた。
 んで、すっぱだか!

 …………ま、いっか、あたしの他に誰もいないようだし。
 ていうか、あたし、どこに向かってんだろ? 飛んでるの、あたしの意志じゃないのよね。まるでエスカレーターのように、自動的にどこかに運ばれてる感じ。
 仕方ないので、あたしは周囲を見る。もしかして、初めてアストリットの“中”に呼び込まれたときも、あたし、ここを通ったのかな? 全然、覚えてないけど。
 しばらく飛んでいると、一つのドアが見えてきた。色は目の覚めるようなブルー。どうやら、あのドアに向かってるみたい。
 やがてドアの前まで来ると、移動は止まった。あたしは着地し(床みたいなものはないけどね)、ドアノブに手を掛けた。

 ドアを開けると、白い部屋。そこに、小さめの茶色い丸テーブルが一つ。そのテーブルの上に、一冊の赤い本。女性週刊誌ぐらいの大きさと厚さがある。
 あたしはその本の表紙を開く。
 ……んあ、外国語……。何語かしら? 少なくとも、英語じゃないわ。
 そんな風に思っていたら。
 …………あ、日本語になった。どういうこと?
 えっと、これ、名前かしら?
「なになに……? この書を読む者へ。僕が知り得た知識を、ここに記す。ローラント・リッテンバウム。あ、この名前!」
 あの夢に出てきたドイツの人の名前!
 っていうことは、あたしが知らないことも書いてあるかも!?
 あたしはページを開いて、読み進める。あたしが知らない言葉があったけど、その言葉に対する注意もあったんで、問題なく読み進めることが出来た。……全部じゃないけどね?
 本には挿絵もたくさんあって、中にはちょっと理解に時間がかかるようなものもあったけど、どうにか最後まで読んで、あたしは理解した。
「まさか、そんなことって……。まさか、そんなことが……。そうか、だから、あのローラントって人、『この世界を託す』って言ってたんだ……」
 あたしは本を閉じる。
 そしてあたしの中に染みこんだ知識を反芻した。
 あたしは目を閉じて、何度も深呼吸する。
 決断しないとならない。
 でも、簡単に決めていいことじゃない。

 どのくらい悩んでたか分からないけど、やがて、あたしの体が浮き上がり、何かに引っ張られ始めた。
「そうか、ここで使える時間は、ここまでってことか」
 あの時計が、今、あたしの時間を刻んでるんだ。
 白い部屋がいつの間にか、青と緑のトンネルになる。またあたしの体が一方向に向かって、飛び始めた。

 しばらく飛んでいると、前方に丸くて白い穴があるのに気がついた。あたし、あの穴に引き寄せられてるみたい。穴に近づくにつれ、飛行スピードが遅くなる。そして、穴の中に二人の人物が、向き合っていることに気がついた。二人は一メートルぐらい離れて座ってる。白いバックに黒いシルエットだけど、二人とも、女性っぽい。
 あれ? この光景、なんか見たことが……。

 あ! あのとき! あの朝、初めてサラマンダーに殺されて、ループする前に見た光景だわ!
 あのときは斜め上からの視点で、胡座かいて座ってるように思ったけど、違ったわ。椅子の座面の前側が広くなってる。斜め上からの影だけで見たら、胡座かいてるように見えたんだね。
 座ってる女性の一人がこっちを向いた……ように頭を動かす。すると、あたしの体がその穴をくぐって、二人の間に立っていた。

 今あたしがいるのは、青空のもと、静かに風がそよいでいる草原。あたしはマッパじゃなくて、薄手のワンピースみたいなヒラヒラの服を着てた。
 二人の女性の片方は、すぐにわかった。
「あなた、アストリットね?」
 毎日、鏡、見てたから、わかる。一人はあたしと一体になっていたアストリットだ。
 アストリットが、もじもじしながら頷く。
 で、もう一人は……。
「……誰?」
 見た感じ、あたしより一回りぐらい年上かな?
 女性が微笑み、立ち上がった。そして、あたしに一礼して言った。
「初めまして。あたしの名前は、ヒルデガルト・フォン・フォルバッハ。何度も会ってるんだけど、あなたが覚醒した意識を持って会うのは、これが初めて。だから、初めまして、かな?」
 ヒルデガルトと名乗った女性が、なんか言ってるけど、何が何やら、さっぱりだわ。

 ていうか。

 なぁーんか、聞いた覚えがあるのよねえ、「ヒルデガルト」っていう名前。

 どこで聞いたんだったっけ?


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