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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第三部 作者:ジン 竜珠

第11回   さあ、ここから始めるわよ!
 あたしは夢津美の家に行った。迷惑とは思ったけど、夢津美のお母さんに家に上げてもらって、夢津美の部屋の前に行く。
 おばさん……夢津美のお母さんが言った。
「学校へ行かなくなってから、あんまり食べなくなって。随分と痩せちゃったの。家からも出たがらないし、だから病院にも連れて行けないし。うちの人とも相談して、入院させようかって。ねえ、あの子に何があったのか、未佳ちゃん知らないかな?」
 そうか、夢津美、イジメのこと、話してないんだ。
 そりゃあそうか、心配するもんね、親御さん。
 ……ううん、おばさんのこの目、具体的には分からないだろうけど、おぼろげにも察してるっぽい。
 あたしは、おばさんに言う。
「おばさん、夢津美ちゃんと、二人きりにしてもらえますか?」
「……いいけど、あの子、ドアを閉め切ってて。鍵、つけてないのに外から開けられないから、多分、何かで内側から押さえてるんだと思う」
「いいです、ドア越しで」
 おばさんが頷いたんで、あたしは階段を上がって夢津美の部屋の前まで来た。

 つい、この間まで遊びに来てたのに、今は、まるで別の場所に来たみたい。
 見たことのないドア、壁。そっとドアに触れる。まるで氷の表面をなぞったかのように冷たい。
 あたしはドアをノックする。
「夢津美、いるよね? 美佳だけど」
「…………」
 息づかいのようなものは感じられるけど、声までは聞こえない。あたしは、ドアの前で座り込み、半ば独り言のように話し始めた。


 ごめんね、夢津美。夢津美のこと、護ってあげないとならなかったよね? 言い訳になっちゃうけど、あたし、怖かったんだ。夢津美のことかばうと、あたしのことも無視されるんじゃないかって。
 ほんとにごめんね。夢津美、辛かったよね?

 あたしが今から話すこと、夢か何かだって思ってくれていいわ。なんなら、ゲームの話だって思ってくれていい。
「ループ」ってあるわよね、同じこと、何度も繰り返すやつ。あたしさ、今、それに巻き込まれてるの。
 あ、今、笑ったでしょ? ……いいよ、笑っても。
 それでね、あたし、そこで命を狙われてるの。実際、何度も死んで、生き返って。
 最初は、何これ?イヤだ!、って思ったわ。でも、何度か繰り返してる今、思うと、ちゃんと意味があるんだなって。

 最初はさ、あたし、死にたくない一心で自衛のことばかり考えてた。でも、いろいろと事情が分かって、何度も死んでは生き返って、なんてことをやってるうちに、生きなきゃ、生きてみんなのためになんとかしなきゃ、っていう気持ちになったの。

 もちろん、これは死んでも生き返ることが出来るっていう、無敵な能力のおかげ。でも、その中で、ものすごく頑張ってる人たちに出会ったの。その子たち、多分、あたしと同じか、少し下なんだけど、ものすごい努力家で。その子たち、きっととっても強い信念を持ってて、周りの雑音を跳ね返しちゃうんだな、って思ったの。

 ……今のあたし、そこまで強くない。
 でも、少なくとも、あの頃のあたしより強くなってるって思う。殺されるときの痛さに比べたら、少し引っぱたかれるぐらい、なんでもないわ。
 だからさ! あたし、今度は夢津美のこと、護る! 何があっても、絶対に護るから!

 あ、でも、そのループって、まだ終わってないんだ。きっと終わらせて戻ってくるから、それまで待ってて?
 だから、また一緒に学校に行こ?

 じゃあ、また、来るから。


「それじゃあ、おばさん、こんな時間にすみませんでした」
 おばさんに挨拶して、家を出ると、あたしは公園に向かう。
 そして花壇の、あの時計があったところを見る。そのときだった。
「ん? メール?」
 あたしのケータイがメールの着信をしらせてくる。開いてみると。
「!? 夢津美からだ!」
 夢津美から、メールが来てる!

『ループの続き、楽しみにしてる』

 絵文字も顔文字もない、素っ気ない文章だったけど、あたしには希望のメールだ!
「……よし! 西原さんに気持ちよくノートを返したいし、何より夢津美に、このループのラストを教えないと!」
 あたしはスカートのポケットにスマホを戻し、両手で頬をピシャリと張った。
「お願い! あたしを、あの場所あの時間へ連れて行って! アストリットの時間、まだ残ってるでしょ? 残ってなかったら、あたしの時間、一ヶ月ぐらいだったら、あげるわ! だから……!」
 あたしが言い終わる前に、花壇に金色の光が現れ、そこに懐中時計が現れた。両脇に閉じた翼がついてる、あの時計だ!
 時計の文字盤が淡く光り、時計自体が空中に浮かび上がる。すると、長針が右回りに、短針が左回りに回り始めた。グルグルと何度か回った後、今度は長針が左回りに短針が右回りに回る。そしてまた逆転……。
 そんな回転を何度か繰り返すうちにその速度が上がっていき、文字盤だけじゃなく時計そのものが光り始めた。
 その光が強くなってあたしを包む。
 また、あの世界に行く。
 そんな自覚があたしの中に生まれた。

 さあ、ここから始めるわよ!


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