灰○はジュースを一口吸って言った。 「組織のボスは、三○吉右衛門よ」 「は? 何言ってんだ、オメー?」 「考えてもみてくれる? あれだけの巨大組織を起ち上げるのに、どれだけの費用が必要か。既存の組織を呑み込むにしても、それなりの『力』が必要。吉右衛門の発明品、そしてそのパテントは十分すぎる『力』になるわ」 「あー。なんとなくわかるけどよ」と、コ○ンはやや呆れながら言った。 「三○吉右衛門っつったら、百四十年も前の人間だろ?」 「もちろん、体は機械化してるわ。あ、もっとも、最初は単なるからくり人形……ギアとか骨格は木製、伝達系はクジラのヒゲだったらしいけど、今はちゃんとしたサイボーグになってるわよ?」 「…………保(も)たねーだろ、脳細胞の寿命とか。確かに、今では脳細胞は再生するっていわれてるけど、保っても百四十年かそこらじゃなかったか、器官としての脳自体は?」 コ○ンが知っている限り、永遠に生きる臓器など、なかったはずだ。 ここで、灰○は意味深な笑みを浮かべる。 「だから、ボスはね、若者の脳を奪って、死んでしまった脳細胞を補っているの」 「はあ? ゾンビじゃあるめえし」 コ○ンが苦笑してそう言うと、灰○は真面目に返してきた。 「そうね、まさに、ゾンビよ。世界各国で計上される若年層の不明者の内、何人かはボスの脳になっているの。元々のボスの脳に、接続しているのよ、シナプスをね」 想像してみる。元々の脳ミソに、いくつもの脳ミソがつなげられているのは、気持ちのいい絵面(えづら)ではない。 微妙な表情を浮かべていると、灰○は言った。 「若者の脳は、もともとのシナプス結合とか脳細胞を残してて、ボスはその記憶を共有しているから、ボスは流行に敏感よ。あたしが組織にいた頃、多分“うっかり”だと思うけど、『チョベリバ〜』とか、『あいつ、マジ、ホワイトキック』なんて言ってたわ」 「………………」 「多分、本来の人格を形成していたニューロンは既に死滅してて、色んな若者の記憶と融合した、別人格になっちゃったんじゃないかしら?」 応えるべき言葉が見つからない。 「そのうちマ○ーみたいになると思うから、ボスを倒したかったら、太陽にでもぶつけるのね」 そう言って、灰○は頬杖をつき、また意味深な笑みを浮かべた。 「よかったじゃない、かつて○モーを倒した大泥棒にコネがあって?」 「おいおい、ヤベーだろ、そのメタフィクションネタは」 困ったような笑みともに、コ○ンは応えた。
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