「続けるわよ、○藤くん? 事件が変わるにつれて、周辺の事情も変わってきた。そして、あなたに関わる人間も変わってきたの。FBI、CIA。そして、一番大きな変化が月下の奇術師、怪盗キッ○」 「え? どういう意味だ?」 「彼は本来、別の世界の存在だった。……いえ、別の世界の『あなた』というべきかしら?」 「何言ってんだ、お前?」 意味不明なことを灰○は言い出した。 「豊富な知識、明晰な頭脳。ほかにも容姿や年齢など、似ている点は多いわ。そして、こっちの世界で○藤くんが消滅に近い状態になったために、それを補完するため、別の世界の『あなた』が、こちらに引き寄せられたの、周辺人物、状況もろともにね。今、二つの世界は、重なり合ったような関係にあるわ。そのせいで、街並みも変わっていってる。それに、警察のシステムにも変化が加わってしまってる。本来、盗犯は捜査3課、でも、怪盗キッドを追っているのは知能犯専門の捜査2課。もっとも、あなたは前の周回の記憶を完全な形で持ち越せていないようだから、違和感を覚えないでしょうけど」 「………………」 もはや、コ○ンの理解を超えてしまった。 だが、その中でも疑問を抱くことは出来た。 「組織は……ボスはなんで、そんな薬を作らせたんだ?」 少し呼吸を置き、ジュースを一口飲んで、灰○は言った。 「ボスはね、ある難病にかかっているの。それは現代の医学では治せない。最初、ボスはエジプトのミイラのように、未来の科学に期待して、それまで自分の時間を止めることを考えたみたい。でも、ある時、サンジェルマン伯爵に目を留めた」 サンジェルマン伯爵。それは。 「サンジェルマン伯爵っていうと、博識の錬金術師、一部ではタイムトラベラーだっていわれてる、稀代のペテン師だったよな?」 「ええ。でも、ボスはサンジェルマン伯爵が服用していたという丸薬に注目した。そして、それこそが賢者の石であり、時間を移動する力を持つ秘薬。そう考えて、開発を命じたの」 「じゃ、じゃあ、あの解毒薬は……」 「本来、作るべきだった薬。電荷のマイナス化を止めて加速させ、時を進める未来行きの、『飲むタイムマシン』。でも、そこまではまだできないから、単純に細胞の成長を促進させるだけの薬。それでもAPTX4869の方が効力が強いから、短時間しかその力を及ぼせないけど。……時を進めることが出来て、あるいは両方揃って、初めてボスのオーダーに応えたといえるの。もちろん、その際には細胞の変化のない、完全なものにしないと意味はないけど」 にわかには信じがたい話だ。だが、コ○ンの困惑に構うことなく灰○は言った。 「そうやって周回を繰り返すと、実は大きな問題がある。肝心の科学も、逆行してしまうの。そこで、ボスは技術者を選び、その時点で最先端の科学や医学を、その時点で最先端の外部記憶媒体、例えばMOディスクやUSBメモリといったものにデータとして保管させた。そしてそれを次の周回に持ち越すようにしたの。最初の頃は、うまくいかなかったようだけど、ある時から、成功し始めたみたい」 「つまり、ある周回のゴールが、そのまま次の周回のスタートになるってことか」 「ええ。だから、科学技術も順調に発展していった。ああ、いうまでもないけど、“本当の最先端技術”は組織が独占してるわよ? ……ところで○藤くん、あなた、スマホ使ってるわよね?」 「ああ」 「最初の頃はね、そんなもの、なかったのよ?」 「はあ?」 「完全には記憶を持ち越せないあなたには、理解できないでしょうけど、最初の頃は携帯電話にカメラ機能やGPS機能を持ったものなんてなかったから、あなたも事件解決に手間取ることがあったみたいね。昔は街のいたる所に監視カメラが設置されていなかったから、警察も捜査が難航したこともあったわ」 まったく覚えも自覚もない。 「あとね、面白いこと、教えてあげるわ」 「面白いこと?」 「ええ」 この場合「面白いこと」は、間違いなく「混乱するような事実」だ。
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