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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第9回   前とはビミョーに違うのよね……
 状況が変わったから、どうなるかと思ったけど連中の優先順位は、あたしの抹殺で間違いないみたい。

 ……改めて言葉にすると、ぞっとしないわね。

 あたしは短剣を鞘から抜いて言った。
「あたし、お屋敷に閉じ込められるのって好みじゃないの」
 通りの前方、大体、十五、六メートルぐらい先に立っているウンディーネも、短剣を構えて言った。
「なんだか、お屋敷は大騒ぎみたいよ? もしかして、あなたが抜け出したからじゃないの?」
 こいつはサラマンダーがお屋敷に潜んでたこととか、知ってんのかな?
 まあ、いいや。とにかく、ここでヤツと闘って、ある程度、時間を稼いだら、運が良ければ。
 クレメンスが助太刀に入ってくれるはず。
 ただ、そのためにはあたしの「ピンチ」を演出しないとならない。クレメンスも「困った人」がどうとか言ってたけど、もしウンディーネを追い詰めてるところに彼が出くわすと、逆にあたしたちの敵に回りかねない。
 さて、そのバランスとかだけど、実は、かなり難しい。前回は水に飛び込んで、そこに船が来て、っていう展開だった。でも、あれは運に左右されたって言ってもいい。水の中の動きなんて、正直、あたしにだって再現できない。下手すると、水路の壁に足を着き、あの驚異的な脚力で跳んでくるウンディーネに、一撃でやられるかも知れない。
 とにかく、出たとこ勝負だわ!
 そう思っていたら、ウンディーネがこっちに向かってきた! 例によって速い! あたしは短剣を構えてそれを受け流そうとして……。
「お嬢さま、危ない!」
 背後でガブリエラのそんな声と同時に、金属音がした。あたしは、本能的に身を屈める。でも、ウンディーネの刃が迫る!
 まずい!
 そう思った瞬間、あたしの前にハンナが出て、その刃を弾いてくれた。
「大丈夫ですか、お嬢さま!?」
「ええ、有り難う、ハンナ!」
 起き上がったあたしは、何が起きたかと、背後を見る。そこには、剣を構えたガブリエラ、そして、同じく剣を構えた、鎧としては軽装の女性騎士(デイム)。その騎士を見て、あたしは言った。
「あなた、パトリツィア、いえ、リタ・フォン・プリルヴィッツね?」
 シーレンベック家でメイドをしていた女性が、そこにいた。
 パトリツィア改めリタが、ニヤついて言った。
「なるほど。サー・ハインリヒから聞いたのね?」
 いやあ、メイドの時は無表情だから、なんか新鮮だわ、ニヤつきでも。
「ええ。お屋敷に来たハインリヒは、ビックリした、って言ってたけど、あなたも、さぞビックリしたでしょうね?」
「ええ、ビックリしたわ。お客様に対して紅茶の給仕をしろって言われた時には、なんとか断れないかって思ったけど、私、メイド仲間では一番、下っ端だったから断れなくてね。バレませんように、って祈ってたんだけど、案の定、バレたわ」
 一番、下っ端か。ここで「ループの話」をしても、理解できないだろうから、理解可能な範囲で。
「あなたに給仕を命じたのは、シェエラザードだったのよね?」
「そうよ。それがどうかしたの?」
「シェラって、フォルバッハ家のメイドだったの。それも、ハインリヒの妹・ヴィクトリア専属の。ヴィクトリアって、今、オーストリア大公国に留学してるそうだけど、あたしが殺し屋に狙われているのを知って、ハインリヒがヴィクトリアの手紙に追加して書いたそうよ、『急いでシェエラザードを帰国させるように』って。あなたより先に、うちのメイドに雇われて、あなたに命令できる立場になるために」
「? あなたが何を言っているのか、さっぱりわからないけど、もしかして、サー・ハインリヒは予知能力を持っているのかしら?」
 あたしは肩をすくめて言った。
「あたしに対する愛の力じゃないかしら? ついでに、いい? あなた、キッチンから食べ物をくすねてたわよね? 鍵、取り替えたって料理長が言ってたけど?」
 リタが、どうということもなさげに言った。
「その昔、鍵開けを特訓させられたわ。いろいろとあるのよ、人の過去には。まあ、それについては触れないのが、礼儀ってものよ」
「そう。で、くすねた食べ物、ぶっちゃけ何のため?」
 見当はつくけど、一応聞いてみると、リタがニヤリとし、言った。
「私、育ち盛りなの」
「……率直に聞くわ。サラマンダーは、今どこ? どういう格好? 性別は? 年齢は?」
 リタが剣で陽光を閃かせながら言った。
「女に気持ちよく口を割らせたければ、それなりの方法があるでしょ? あなたも女ならわかると思うけど?」
「ねえ、もういい? いい加減、焦(じ)れてきたんだけど!?」
 不機嫌そうなウンディーネの声がした。ガブリエラがリタの方を見たまま、言った。
「お嬢さま、リタは私が引き受けます! お嬢さまは可能ならばお逃げください!」
「うーん、逃がしてはくれないと思うわよ?」
 あたしは、ウンディーネに向いて、短剣を構えた。


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