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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第8回   予定通り
 朝、メイドさんが起こしに来た。この声はシェラだ。
 あたしはベッドから起き上がり、背伸びをする。そしてベッドから下り、鏡台の前に行ってドレッサーカバーをめくり上げる。
「……………………誰? ていうか……」
 鏡に映る顔。それは、もろ西洋人の顔で、あたしが知らない顔。あたしは顔に触ったり、口を開けたり、表情を変えたりして確認する。
「ええええええええッ!? ちょっと待って待って! これ、あたし!?」
 なんで、いきなり西洋人になってんの!?
 ちょっとして。
「あ、もしかして、ずっとこの顔だったけど、これを自分の顔だって思い込んでたってことかな?」
 そう、気づいた。
『失礼します!』
 と、ドアが開いて、シェラが飛び込んできた。
「いかがなさいましたか、お嬢さま!?」
 その表情は、仰天そのものだ。
「ああ、ごめん、シェラ、ちょっと自分の顔見てびっくりしちゃって」
「……はい?」
 あたしは、自分の顔の違和感について話した。
 少し考えて、シェラが言うのに。
「そうですか。……もしかしたら、こちらの皆様とお話をして、ご自分のアイデンティティーについて明確な認識をお持ちになったが故に、本来のお顔を思い出して違和感を覚えられたのでは?」
「……………………うん。きっと、そうね」
 と、言っておくに限るわ。下手に「どういうこと?」なんて聞いたりすると、頭がこんがらがっちゃうと思うから。
 でも。

 なんか、いいかも〜。
 いかにもお嬢さま、って感じだし、それに、美少女だし。

 ふと、気がつくと、鏡に映るシェラが同じく鏡に映ったあたしのアホ面を、奇っ怪な生物を発見したかのような表情で、見ていた。

「ところで、ミカ様」
「なに?」
「今朝ほどからパトリツィアの姿が見えません」
「え……?」
 ちょっと驚いた。彼女については、ハインリヒから「王都にいる近衛騎士隊の一人と、ほくろの位置まで顔が同じ」って聞いたし、シェラの話とかあたしの記憶とかで、キッチンから食べ物を持ち出してるし、サラマンダーがここの敷地内にいるのは確実だから、おそらく。
「サラマンダーに食料を運んでいるのを気づかれたんで、逃げた、とか?」
「警護長のトラウトマン様も、そのように仰っておりました」
 これは、ちょっとややこしい事態になるかも知れない。
「トラウトマン様からの、ご伝言です。本日は、敷地内で一斉捜索をかけるので、外出を控えていただきたい、と」
「うん、わかったわ」
 本来なら、今日、ウンディーネに遭遇し、旅の武芸者・クレメンスに出会うことになってたんだけど。
 随分と予定が変わってしまったわ。この先、何があるか、まったく予測できない。

 ならば。


「よろしかったのですか、お嬢さま?」
 ガブリエラが、恐る恐るって感じで、あたしに聞いてくる。一緒にいるハンナも、
「本当に大丈夫なんでしょうね?」
 って聞いてきた。ガブリエラは、お屋敷の捜索を抜けてここに来てるから、命令違反、ってことで不安なんだろうけど、ハンナは単純に。

 報酬が減らされるかも、って思ってるんだろうなあ。

 まあ、それはさておき。
 あたしは予定通り、水路沿いの道に来ていた。これが最良だと思ったからだけど、ただねえ。
 パトリツィアが逃げ出したとなると、もしかするとウンディーネに連絡を取っている可能性がある。そうなると、当然、ウンディーネの行動も変わってくる。
 ぶっちゃけ、今日一日は様子見で、どこかに潜伏するかも知れないのよね。
 だから、あたしがここへ来ても、無駄な可能性があるんだけど。

「あら? こんなところに出てきても、いいのかしら、お嬢さま?」

 …………かかった。


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