20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第74回   剛王の帰還・後編
 陽が中天にさしかかる頃、文官武官一同は、謁見の間に集められた。何事か、よくわからない。今日は何かがあるということを聞いてはいない。故に、皆、それは近衛騎士たちも同じであったが、首を傾げ、訝しがり、小声で尋ね合っていた。
 少しして、玉座の右手側の袖から、女王グレートヒェンが現れた。水を打ったように一同は静まる。
 それを確認してグレートヒェンは言った。
「皆のもの、よく聞け、そしてよく見よ! この国に真なる王が降臨なされた! これでこの国は大陸全土を支配したも同然じゃ! さあ、歓喜せよ!」
 その言葉に、グレートヒェンが現れたところから、一人の男が現れる。国王ではなく、貴族の着る服を着ているが、そのデザインはどこか古臭い。百年ほど昔のデザインのように感じる。だが、羽織っているマントは国王のマントだ。
 グレートヒェンは男を見て、一同に言う。
「こちらに御座(おわ)す方(かた)こそ、この国の、いや、世界の真なる王、レオポルト・フォン・マイスナーである!」
 すぐさま、近衛騎士団長が反応した。
「女王陛下、その者は? それに、国王陛下は?」
 だが、それに答えたのは先刻「レオポルト」と紹介された偉丈夫だ。
「キサマ、今の言葉を聞いていなかったのか? 我こそが、この国の真の王である」
「ウヌッ? ……国王陛下は、どうなさったのですか、女王陛下!?」
「この方(かた)こそが、この国の王、そう言ったはずじゃ」
「では、あなた様……いや、お前もグルなのか?」
「グル? どういう意味じゃ?」
 意味深にグレートヒェンはニヤリとする。
「お前もグルになって、国王陛下に不逞(ふてい)を働いたのかと聞いている!?」
 近衛騎士団長の鋭い声に、“レオポルト”が応えた。
「国に王は二人も要(い)らぬ」
「不埒者(ふらちもの)めがッ、毒婦もろとも斬り捨ててくれる!!」
 驚くべき瞬発力であった。近衛騎士団長は、剣を抜き去るや、弾丸の如く飛び出し、剣で男に斬りかかった! 他にも、三人ほどの近衛騎士が斬りかかる。だが!!

 何が起こったか?
 一陣の風が一同の間を吹き抜けたかと思うと、ドサリと音をさせて近衛騎士団長、他三人の体が、“レオポルト”と呼ばれた男の前に転がった。その体には頭部がなかった。
 頭部はどこへ行ったか?
 ややおいて、天井から降ってきたモノがある。それこそが、近衛騎士団長たちの頭部であった。
 文官の一人が裏返った悲鳴を上げる。その頭部を中心にして、悲鳴が広がり一同、遠巻きになった
 剣を使ったのか?
 だが、“レオポルト”の手には剣がなく、鞘に収まったまま。
 皆が直感した。
 これは人間の力ではない。
 この力を言い表すのに、ピッタリの言葉がある。その言葉を、一人の文官が口にした。
「あ、悪魔……」
 静かな中、レオポルトが言った。
「我が名はレオポルト・フォン・マイスナー。本日ここに、王権のすべてを我(われ)が掌握したことを宣言する。異を唱える者は、ここへ出ませい!」


 誰一人として、出る者はなかった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 657