陽が中天にさしかかる頃、文官武官一同は、謁見の間に集められた。何事か、よくわからない。今日は何かがあるということを聞いてはいない。故に、皆、それは近衛騎士たちも同じであったが、首を傾げ、訝しがり、小声で尋ね合っていた。 少しして、玉座の右手側の袖から、女王グレートヒェンが現れた。水を打ったように一同は静まる。 それを確認してグレートヒェンは言った。 「皆のもの、よく聞け、そしてよく見よ! この国に真なる王が降臨なされた! これでこの国は大陸全土を支配したも同然じゃ! さあ、歓喜せよ!」 その言葉に、グレートヒェンが現れたところから、一人の男が現れる。国王ではなく、貴族の着る服を着ているが、そのデザインはどこか古臭い。百年ほど昔のデザインのように感じる。だが、羽織っているマントは国王のマントだ。 グレートヒェンは男を見て、一同に言う。 「こちらに御座(おわ)す方(かた)こそ、この国の、いや、世界の真なる王、レオポルト・フォン・マイスナーである!」 すぐさま、近衛騎士団長が反応した。 「女王陛下、その者は? それに、国王陛下は?」 だが、それに答えたのは先刻「レオポルト」と紹介された偉丈夫だ。 「キサマ、今の言葉を聞いていなかったのか? 我こそが、この国の真の王である」 「ウヌッ? ……国王陛下は、どうなさったのですか、女王陛下!?」 「この方(かた)こそが、この国の王、そう言ったはずじゃ」 「では、あなた様……いや、お前もグルなのか?」 「グル? どういう意味じゃ?」 意味深にグレートヒェンはニヤリとする。 「お前もグルになって、国王陛下に不逞(ふてい)を働いたのかと聞いている!?」 近衛騎士団長の鋭い声に、“レオポルト”が応えた。 「国に王は二人も要(い)らぬ」 「不埒者(ふらちもの)めがッ、毒婦もろとも斬り捨ててくれる!!」 驚くべき瞬発力であった。近衛騎士団長は、剣を抜き去るや、弾丸の如く飛び出し、剣で男に斬りかかった! 他にも、三人ほどの近衛騎士が斬りかかる。だが!!
何が起こったか? 一陣の風が一同の間を吹き抜けたかと思うと、ドサリと音をさせて近衛騎士団長、他三人の体が、“レオポルト”と呼ばれた男の前に転がった。その体には頭部がなかった。 頭部はどこへ行ったか? ややおいて、天井から降ってきたモノがある。それこそが、近衛騎士団長たちの頭部であった。 文官の一人が裏返った悲鳴を上げる。その頭部を中心にして、悲鳴が広がり一同、遠巻きになった 剣を使ったのか? だが、“レオポルト”の手には剣がなく、鞘に収まったまま。 皆が直感した。 これは人間の力ではない。 この力を言い表すのに、ピッタリの言葉がある。その言葉を、一人の文官が口にした。 「あ、悪魔……」 静かな中、レオポルトが言った。 「我が名はレオポルト・フォン・マイスナー。本日ここに、王権のすべてを我(われ)が掌握したことを宣言する。異を唱える者は、ここへ出ませい!」
誰一人として、出る者はなかった。
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