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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第7回   シェラとの「再会」
「そのスパイについては、あとで。まずは、彼女の紹介だ。彼女は中東地方の出身で、その地方の魔術を使うことが出来る。『イグドラシルの秘法』が実行されて、アストリットの中に別の魂が入っていることに気づいた時、殺されてしまう危険を減らすために、その魂が意識を浮上させる際に、敵の攻撃を防ぐ方法を考えておくように、語りかけてもらったんだ」
「………………。んーと、ちょっと待ってね。なーんか、頭の端っこに引っかかってるものがあるのよねえ。なんだったかなあ?」
 考えているあたしに、シェエラザードが蠱惑的な笑みを浮かべて言った。
「あなたにとって、最善の行動は何?」


 …………………………………………。


「んがぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 思い出したぁぁぁぁぁ!!」
 奇声を発して、椅子を「ガタッ!」とさせて立ち上がったあたしに、みんながビクッとしたけど、構ってられない!
「いろいろ思い出したわ! ここで出会った時、なんで忘れてたのかしら!?」
「それはおそらく、『忘却の呪文』の効果だと思います」
 と、シェエラザードが答える。
「なまじ、覚えていらっしゃった場合、いろいろと不都合があるかも知れませんので、こちらにご奉公に上がる際、夢を通じてお嬢さまに、『忘却の魔術』をかけておきました」
「ああ、そうなんだ。ああ、そう、あたしのことは『未佳』でいいわよ?」
「は?」
 首を傾げたシェエラザードに、あたしは自分の名前を教える。
「かしこまりました。では、以降、公式の場以外ではミカ様と呼ばせていただきます」
 一礼したシェエラザードは、「ハインリヒ様」と声をかけ、ハインリヒに耳打ちした。
「そうか」と答えたハインリヒの表情が、どこか深刻そうだ。
 ゴットフリートさんとフェリクスさんの話がひと段落したのを見て、ハインリヒが言った。
「シーレンベック卿、先ほど私がお話ししかけたことなんですが」
「ああ、そうだったな。なんだね?」
「実は……」
と、ハインリヒはあることを話す。

 場の空気が凍り付いた。でも、あたしには、なんとなく繋がるものがあった。
「今、ハインリヒが言ったことのうち、シェラから聞いたっていう話。あたしも心当たりがあるんだ……」
 と、あたしも気になったことを話した……。


 深夜。
 ある人物が屋敷の裏庭に出てきた。
 そしてしばらく歩いたものの、突然、歩を止める。かすかに頭(こうべ)を巡らせ、再び歩き始めた。
 その人影は周囲を確認しながら、ある木立の根元に腰掛け、何かを始めた。その行為は、持参した籠(バスケット)から取り出した何かを、食べているように見えた。

 やがてその行為を終えた人影は裏庭から屋敷に戻って行った。
 直後、あちこちの茂みや灌木(かんぼく)、立木の近くからたくさんの人影が現れた。ある影がランタンに火を点(つ)ける。
 その人物はアルブレヒト・フォン・トラウトマン。この屋敷の警護長である。
「さすが、簡単には尻尾は出さんか」
 アルブレヒトは呟く。辺りに潜んでいた影が、アルブレヒトに集まってきた。みな、この屋敷の警護を担当する騎士たちである。アルブレヒトは集まってきた騎士たちに言った。
「シェエラザードが料理長から聞いた話、及びアストリットお嬢さまがご覧になったことから考えて、メイド・パトリツィアが食材を不正に持ち出していることは明らか。そして、同じくお嬢さまのお話から、その食材は、この屋敷の敷地内に潜伏している何者かに、供給されていると思われる。そしてその何者かは」
 と、アルブレヒトは一同を見回して言った。
「殺し屋サラマンダーの可能性が高い」
 騎士の一人が言った。
「なぜ、パトリツィアがそのようなことを?」
「ハインリヒ・フォン・フォルバッハ卿(きょう)の話だが。卿(きょう)は先月、王都で行われた御前試合の折、近衛騎士隊の隊員と剣を交えたそうだ。その相手の名前はリタ・フォン・プリルヴィッツ。その面相は、ほくろの位置まで、パトリツィアと瓜二つだそうだ」
 一同が息を呑む。
「そして先月から出現している殺し屋ども、どうやら王家が差し向けたものらしい」
 一同がざわついた。中の一人が、小声で、それでも興奮したように問う。
「なぜ、王家がお嬢さまを!?」
「わからん。とにかく、サラマンダーは敷地内(ここ)に潜んでいる。夜明けとともに、捜索をかける。なお、敵はオレンジのような香(こう)でこちらを麻痺させ、クロスボウで矢を撃ってくるということだ。捜索の際、オレンジの香りがしたら、急いで風上に回るように。詳細は明朝のブリーフィングで説明する。解散!」


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