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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第69回   ヨハンの推理
 紅茶を一口、飲んだ後、ヨハンは言った。
「イザーク様は、事件からしばらく経って、実は自分は操られていたと主張なさったのです。最初は誰も相手にしませんでしたが、何度も仰るので、一度ぐらいは話を伺おうということになりました。イザーク様のお話では、パトリツィアとは領内の歓楽街、その賭場(とば)で知り合ったとのこと。何度か会う内に、彼女の言葉に惑わされるような感じになったと。ここへ来て、ようやく正気に戻った、と」
「ふむ……」
「そこで我々は極秘裏に動いて、パトリツィアのことを調べることにし、身元を洗うために調査を行いました。……結果的には断定できるほどの材料は揃いませんでしたが、王都で行われた御前試合で、似た者を見たという、市壁外に住むある騎爵の言葉を信じるなら」
「パトリツィアは、近衛騎士リタ・フォン・プリルヴィッツである、と」
「はい」と頷いてから、少ししてヨハンはかすかに首を傾げる。
「おや? 驚かれないのですね?」
 さて、どう答えたものか。そう考えたが、ゴットフリートは素直に答えることにした。
「ああ。パトリツィアは、今、話に出た近衛騎士だ。間違いない」
「なるほど、ご存じでしたか。それは例の」
 そう言ってから、ヨハンはかすかに目を細めた。
「アストリット様のお命が狙われていることと、何か関係が?」
 一気に心拍が上がった。
 まずい、明らかに動揺が出た。抑えたつもりだが、間違いなく顔に出てしまったことだろう。だが、ソファの向かい側で控えている二人の騎士は、ヨハンと顔を合わせていないということからか、驚愕の表情さえ浮かべている。
 ややおいて呼吸を整え、ゴットフリートは言った。
「さすがは密偵だな」
「恐れ入ります」
 一礼してから、ヨハンは言った。
「なぜ近衛騎士が名と身分を偽り、我が領主のところに現れ、さらには何故(なにゆえ)閣下のところへの紹介状を求めたのか。パトリツィアがリタ・フォン・プリルヴィッツ卿であるという前提で、閣下の領地のことを調べさせていただきました。その結果、一ヶ月半程前から、邸宅敷地内に入る際のチェックが厳しくなったことを知りました。私どものような者としては、これは外部から来た者による何か大それたことが、お屋敷で起きたからであると、考えざるを得ません。パトリツィアは、すんなりとこちらへ入り込むために、ヨナタン様の紹介状が必要だった。そして、それは『大それたこと』と無関係ではないはず。では何が起きたのか。なかなか掴めませんでしたが、七、八日程前、この近くにある町で、一枚の人相書きを拾いました。その人相書きは閣下の名前で公布されたもの。また、閣下の庇護下にあるノルデンで、大(おお)騒動(そうどう)があったということ。そしてバザールで騒ぎがあり、その中心にアストリット様がいらっしゃったという、市井での証言。これらを一本の線で繋ぐと」
 そして、ここで一息置き、ヨハンは言った。
「アストリット様を狙う何者かがいて、その事件には人相書きの女と近衛騎士、そしてその部下の一個小隊程度が絡んでいる」
 一個小隊というのは的外れだが、仕方がない。ヨハンは、こちらの「敵」について知らないのだ。だが確かにそれと同等、もしかしたらそれを凌駕する戦力が相手であるのは間違いない。また、ノルデンでのウンディーネ討伐の際、こちらが一個小隊……四十人以上の人数を組織したのは事実だ。
「見事だ、ヨハン。君たち、いや、君の頭脳に感服したよ」
 嫌味ではなく、素直に賛辞を送る。ヨハンもどこか嬉しそうに笑みを浮かべて一礼する。
 顔を上げ、ヨハンは真剣な表情で言った。
「閣下。これは私の独断で報告申し上げるのですが」
 そう言って、ヨハンはウンディーネの人相書きをポケットから出して言った。
「この者、キースリング領におります」
「なに!?」
 思わず大きな声を上げ、ゴットフリートは身を乗り出した。


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