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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第68回   親書に書いてあったこと
 親書を読み終えると、ゴットフリートは深く息を吐いた。
「ヨハン、とかいったな、この内容は本当か? ……いや、本当なのだろうな」
「はい」
 ヨナタンの密偵というヨハン・ブレッカーは頷く。
 ゴットフリートはもう一度、親書に目を落とす。
 その時、紅茶を持ってヘルミーナともう一人のメイドがやって来た。
「うむ、紅茶が来たか。まあ、座りたまえ、ヨハン」
 ゴットフリートはヨハンに応接セットに座ることを勧める。自身も親書を手に、向き合う形でソファに座る。
 親書に書いてあったのは、大雑把にいうと、こういうことだった。

 およそ一ヶ月前、ヨナタンとその妻ダニエラは、ともに病(やまい)の床に伏した。二人揃って病床につくというのは尋常ではない。そこで何者かが毒を盛ったのではないかと、屋敷内のチェックが行われた。まず疑われたのは、料理の毒味役だ。次に料理人。だが、どちらも無実とわかった。
 ヨナタンが病にある間は、長子(ちょうし)であるイザークが領内の政治を取り仕切ることになった。
 だが、ここで妙なことになった。何かと理由をつけ、イザークは領主夫婦との面会を禁じたのだ。来客はもちろんのこと、次子であるイザークの弟・ヤーコブも例外ではなかった。面会できたのは、イザークだけ。そして身の回りの世話は、ヨナタンたちが倒れるしばらく前にイザークが雇うようにと進言してきた、パトリツィアというメイドだけ。
 以前からイザークが「早くヨナタンを隠居させて領地の実権を握る」という野望を抱いていることを知っていたヨハンたち密偵は、さすがにおかしいと思い、まずは屋根からロープを垂らし、屋敷三階にあるヨナタンの部屋の様子を、外から覗(うかが)おうとした。だが、窓掛(カーテン)が締められており、覗うことは出来ない。かといって窓を割って中に侵入するなど、密偵に許されたことではない。そこで秘密の通路を使ってヨナタンの部屋へと向かったが、その出入り口は何かによって塞がれていた。
 ヨハンたちは協議の上で、まずパトリツィアに話を聞いた。彼女によると、ヨナタンもダニエラも、意識はあるようだが、どこか混濁気味に思えたという。密偵の中に毒物に詳しい者がおり、その者によるとヨナタンが嗜(たしな)む水タバコを悪用したのではないか、という。

「水タバコを悪用、とあるが、キースリング侯は水タバコを愛用していたのかね?」
「はい。中東方面を巡っていた商人から勧められ、お気に召したようです」
「その水タバコを悪用した、と?」
「タバコの生産者の間では、収穫時、濡れたその葉に触れることで病に罹ることがあるのは、周知の事実だそうです。おそらくは、ヨナタン様が愛用なさっているおタバコを悪用したのだろうと」
「そこで君たちは、ヤーコブ卿はじめ、異変を察知した心ある者たちと協力し、イザーク卿とその一派を拘束、キースリング侯の軟禁を解いた。そして、侯があとで聞いたことを、この親書にしたためた、と」
「はい」
 と、ヨハンは頷く。
 そしてまた、親書に目を落としてからヨハンを見てゴットフリートは言った。
「イザーク卿は邸宅敷地内の、ある屋敷に軟禁、事件については、外部には知られぬように細心の注意を払った。ことに王家に知られると、イザーク卿は国法に則って処罰される怖れもある。だから、箝口令(かんこうれい)が敷かれた。パトリツィアについては、まったくの無関係。屋敷内のメイドだと不都合なので、外から連れてきただけだった。パトリツィアは、暇(いとま)を願い出てきた。機密保持のためには屋敷に留め置くのが最良だが、最終的にはそれを受け入れた。新しい勤め先として、シーレンベック邸、つまり我が邸宅を希望したので、紹介状を書いた。だが、その後の調査で、パトリツィアは近衛騎士リタ・フォン・プリルヴィッツ卿の可能性が高くなったので、ここに注意を促すものである。……これがキースリング侯の親書の中身だな」
「はい。そして私から補足を」
「補足?」
「はい」
 と、ヨハンは頷いた。


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