夜。 なんとなく眠れなくてベッドの上でゴロゴロしていると。
ゴトゴトッ!
また、あの音がして、アストリットの白い影が現れた。 うん、今夜こそ、彼女があたしを裏庭に連れて行きたい真意を掴むんだ! そう思い、あたしはベッドから出て灯りをつけ、短剣を手にドアを開けた。今日の護衛はイザベラだ。うわぁ、あたし、この人、苦手なのよねえ。 「どうかなさいましたか、お嬢さま?」 「う、うん。ちょっとね」 あたしはイザベラの肩越しに、アストリットの白い影を見た。ゆっくりとだけど、歩いてる。もうすぐ階段を降りるタイミングだ。 あの白い影のことを説明するには、ちょっと時間が足りない! あたしは意を決して言った。 「イザベラ! 今からあたしが言うこと、何の疑問も挟まないで聞いてね!」 「は、はい」 あたしの勢いに飲まれたか、珍しくイザベラがビックリしたように目を見開いた。 「裏庭に、怪しい何かがあるかも知れないの! だからそれを確認しないとならない!」 イザベラは黙ってあたしを見ていたけれど。 「わかりました。ですが、お嬢さまお一人を向かわせることは出来かねます。このイザベラも、お供いたします」 彼女の言葉は、本当に力強かった。
裏庭へのドアを開け、あたしは白い影を追う。その影は例の武器庫がある林の中の道を進んでる。一応、月が出てるから、真っ暗じゃないけど、あの道を進むのは不安かなあ? 「少々、お待ちください、お嬢さま」 イザベラはいったんお屋敷の中へ戻り、すぐに何かを手にあたしのところに来た。 それは火のついたランタン。 「詰め所から持って参りました。あった方がよろしいかと思いまして」 あたしは笑顔で言った。 「グッジョブ、イザベラ!」 「グッ……ジョブ……? なんですか、それ?」 「え? ええっと、いい仕事してるねえ!って意味よ!」 あたしの言葉にイザベラが真面目な顔でかしこまる。 「恐縮です、お嬢さま!」 ああ、いやあ、そう真面目に取られると、かえって申し訳ないわ……。
白い影を六、七メートルぐらい先に捉えて、林の中の小道を歩いていて、あたしはなんとなく聞いた。 「ねえ、この先はどうなってるの?」 「道なりに左へ行きまして、少し右へ曲がりますと、林を抜けます。その先に、石造りの高い塀があって、その向こうに、独房がございます」 「独房? ああ、そういえば、敷地の西側に牢屋とかしょけ……」 なんか「処刑場」って言おうとして言葉、詰まっちゃった。 咳払いをして、あたしは続けた。 「つまり、この塀の向こうに牢屋とかあるのね?」 「はい。その中でも、重大な罪を犯した者が収監される独房が、この先にございます。位置的には、奥まったところになりますので」 「重大な罪……。今、誰か、入ってる、と、か……?」 恐る恐る聞くと、イザベラは頷いて言った。 「詳しいことは、私の身分では聞かされておりませんが、王都で重罪を犯した者が、なんらかの理由で当領地の、この独房にいるのだとか」 なんかこういう政治的な話は、わかんないや。 あたしはなんとなく、辺りを見ていて。 白い影・アストリットが立ち止まるのを視界の端に止めたのと同時に、ある樹の上に人影があるのに気づいた。 「イザベラ!」 叫ぶのと同時に、あたしは、ダッシュして右手でその樹にチョップした! 鈍い音がして、樹の幹がへし折れ、枝がバサバサーッて音を立てる。 すると樹の上からその影が、跳び下りてきた! イザベラはランタンを地面にたたき落として足で火を踏み消すと同時に、剣を抜いて影に斬りかかる。でも、影は軽くその刃を避(よ)けた。枝のせいで月明かりは完全には届かないけど、それでもシルエットぐらいは分かる。その影は。
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