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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第58回   〔長尺版〕ノルデンでの襲撃・U
 ウンディーネは、ノルデンのやや北寄りにある住居区にいた。そして、一軒の空き家の中で、拾ってきた干し肉をかじりながら考えていた。
“このまま、バックレてやろうかしら? でも、依頼主は不思議な『目』を持っているらしい。私がいる場所を正確に把握して、あのひょろりと背の高いメッセンジャーを寄越してくる。アストリットのいる場所も正確に捉えている。どこへ逃げても、見つかるわね。となると、誰か別の奴がアストリットを殺すのを待つか。……いや、それは自分の沽券に関わる。あのリタという先代のウンディーネを名乗った騎士は、お屋敷に潜んだ殺し屋を補佐する役目だと言っていたけれど、あの様子を見ると、もしかすると依頼主は、王族に連なるほどの貴族かも知れないわ。そもそも自分と専属契約し、『ウンディーネ』というコードネームを名付けてきた仮面の男。仮面をつけているっていうところで、すでに『やんごとない身分』っていうことがわかるけど、ひょっとしたら、依頼人は、あの男と繋がっているのか……。だとすると、ますます依頼を放って逃げることは出来ないわね。私の評判が下がって、クビ、切られかねない。そうなったら、『この世界』じゃ、やってけないわ”
 どうあっても、依頼を完遂するよりほか、道はない。貴族の依頼人は金払いも良く、また別の依頼にも繋がりやすい。
 貴族どもは下世話な話が好きなのだ、誰それが殺し屋を雇ったなどという話は、あっという間に広まる。例え本人が否定しても、それを聞きつけた者は、様々な手蔓(てづる)を手繰(たぐ)って殺し屋に依頼してくるのだ。それが「貴族」という下賤(げせん)の輩(やから)である。

 どうにか次の手を、と考えていると、扉(ドア)が叩扉(ノック)された。
 おかしい!? ここは空き家だ。しかも、ひと目で人など住んではいないとわかるボロ屋だ。叩扉する必要など、まったくない。
 ウンディーネは今いる部屋から、奥の部屋へ行く。そしてそのまま、その部屋の細工しておいた壁板を一枚外す。そしてそこから外へ……と思った時!
「こっちだ!」と男の声がした。
 思わず、外を見ると、軽装兵が一人。その瞬間、ウンディーネは理解した。この家は包囲されていたのだ! おそらく、潜伏していそうな空き家を、一軒一軒、同じような手で調べていったのだろう。
「チィッ!」
 舌打ちをすると、ウンディーネは一気にダッシュし、その軽装兵を体当たりで突き飛ばす。そしてそのまま走り抜けようとしたが、幅広の木の板の数枚で、前方に壁が作られた。
 反射的に制動をかけ、止まる。だが、一瞬でそれが自分を止めるための罠だと理解し、板を蹴り飛ばした。悲鳴を上げて、板もろとも数名の軽装兵が吹っ飛ぶ。
「かかれ!」
 野太い声がして、鎗を持った数名の騎士が向かってくる。ウンディーネは跳躍し、近くの空き家の屋根に飛び移る。このまま屋根伝いに逃げよう。そう思ったら。
「射かけよ!」
 別の男の声がして、複数の方向から、矢が何本も飛んできた!とっさに避(よ)けたつもりだったが、そのうちの一本を、左肩に受けてしまう。
「ウグッ!? クソッ、騎士どもがッ!」
 毒づいて矢を抜き、投げ棄てると、矢を避けながら、騎士たちの姿が見えない道を探す。ほどなくして、一本の石畳の道が見えた。それなりに広いが、横道があるようだ。いったん、そこへ降りて矢を避け、それから逃走するのが得策だろう。
 ウンディーネは、飛んでくる矢を避けつつ、屋根からその道の傍(そば)にある家の屋根に飛び、さらにその道へ飛び降りるために跳躍した、その刹那!


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