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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第56回   イルザ、その想い
 イルザは、ゴットフリートの執務室に赴いた。叩扉し、入室の許可をもらうと、イルザは「失礼します」と、中に入る。そして一礼。ゴットフリートは既に鎧を着込んでいた。
「どうした、イルザ?」
「はい。ノルデンへウンディーネ討伐に向かわれるとか?」
「ああ、耳が早いな」
「ミカさんから、伺いました」
「そうか」
 そして、ゴットフリートはデスクの上の書類を手に取り、壁際に行って紐を引く。
 少しして、ドアをノックし「失礼します」とメイド長・ヘルミーナが入ってきた。
「ああ、ヘルミーナ、すまんな。これをバルリング卿へ渡してくれ。部隊の編成表だ。これを元に、市中の騎士たちに召集をかける。二枚目が召喚状だ。召集ラッパ・鐘(かね)の使用も許可する」
「かしこまりました」
 書類を受け取り、ヘルミーナは一礼して部屋を出る。
「で、どうかしたのか、イルザ?」
「はい。私も、お供させてください」
 イルザは一礼する。
「お前を?」
 頭を上げると、ゴットフリートは何か考えているようだったが。
「いや、ダメだ。今回の討伐には、ヴィンフリートも参加したいといってきかぬのでな。それに、市街戦の経験を積ませる、いい機会のようにも思う。だから、お前まで連れて行くわけにはゆかぬ」
 自分は、そもそもヴィンフリートの影武者、ヴィンフリートと一緒に出陣するという訳にはいかない。
「そうですか……。そう、お決めになったのであれば、私は従います。……ゴットフリート様、おそらく敵はウンディーネだけではないと思います。先(せん)の一戦で、ウンディーネは、我々が奴の脚を封じる行動を取りうると知ったはず。ですから、なんらかの手段でサラマンダーとも連絡を取り、連携を取る可能性があります」
「うむ……。確かに、その怖れはあるか……」
 ゴットフリートは右手を顎にやる。
「ですので、ゴットフリート様、二つほど、ご提案が……」
 と、イルザは「ある策」を伝える。
「なるほど。元々はアストリットを護るためのことだったが。よし、その手配をしよう。もう一つの『策』についても、その手配をする。助かったぞ、イルザ」
 ゴットフリートが微笑む。その笑みに胸の中が暖かくなるのを感じながら、イルザは言った。
「ゴットフリート様、どうかご無事で。ご武運を……」
「うむ」
 凜々しい表情で微笑むゴットフリートを見ていて、イルザはふと我に返った。

 今の視線に、自分の「本当の想い」が乗ってしまわなかっただろうか。
 決して知られてはならない、熱く、そして許されない「本当の想い」……。

 ゴットフリートの表情を見る限り、特に変わったところはない。
 それに安堵と落胆の、両立し得ない感情を抱きながら、イルザはもう一度、言った。
「ご武運をお祈りいたします。どうかご無事で」
 ゴットフリートがまた笑顔になって頷いた。


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