イルザは、ゴットフリートの執務室に赴いた。叩扉し、入室の許可をもらうと、イルザは「失礼します」と、中に入る。そして一礼。ゴットフリートは既に鎧を着込んでいた。 「どうした、イルザ?」 「はい。ノルデンへウンディーネ討伐に向かわれるとか?」 「ああ、耳が早いな」 「ミカさんから、伺いました」 「そうか」 そして、ゴットフリートはデスクの上の書類を手に取り、壁際に行って紐を引く。 少しして、ドアをノックし「失礼します」とメイド長・ヘルミーナが入ってきた。 「ああ、ヘルミーナ、すまんな。これをバルリング卿へ渡してくれ。部隊の編成表だ。これを元に、市中の騎士たちに召集をかける。二枚目が召喚状だ。召集ラッパ・鐘(かね)の使用も許可する」 「かしこまりました」 書類を受け取り、ヘルミーナは一礼して部屋を出る。 「で、どうかしたのか、イルザ?」 「はい。私も、お供させてください」 イルザは一礼する。 「お前を?」 頭を上げると、ゴットフリートは何か考えているようだったが。 「いや、ダメだ。今回の討伐には、ヴィンフリートも参加したいといってきかぬのでな。それに、市街戦の経験を積ませる、いい機会のようにも思う。だから、お前まで連れて行くわけにはゆかぬ」 自分は、そもそもヴィンフリートの影武者、ヴィンフリートと一緒に出陣するという訳にはいかない。 「そうですか……。そう、お決めになったのであれば、私は従います。……ゴットフリート様、おそらく敵はウンディーネだけではないと思います。先(せん)の一戦で、ウンディーネは、我々が奴の脚を封じる行動を取りうると知ったはず。ですから、なんらかの手段でサラマンダーとも連絡を取り、連携を取る可能性があります」 「うむ……。確かに、その怖れはあるか……」 ゴットフリートは右手を顎にやる。 「ですので、ゴットフリート様、二つほど、ご提案が……」 と、イルザは「ある策」を伝える。 「なるほど。元々はアストリットを護るためのことだったが。よし、その手配をしよう。もう一つの『策』についても、その手配をする。助かったぞ、イルザ」 ゴットフリートが微笑む。その笑みに胸の中が暖かくなるのを感じながら、イルザは言った。 「ゴットフリート様、どうかご無事で。ご武運を……」 「うむ」 凜々しい表情で微笑むゴットフリートを見ていて、イルザはふと我に返った。
今の視線に、自分の「本当の想い」が乗ってしまわなかっただろうか。 決して知られてはならない、熱く、そして許されない「本当の想い」……。
ゴットフリートの表情を見る限り、特に変わったところはない。 それに安堵と落胆の、両立し得ない感情を抱きながら、イルザはもう一度、言った。 「ご武運をお祈りいたします。どうかご無事で」 ゴットフリートがまた笑顔になって頷いた。
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