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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第50回   まるで「NEW GAME」だわ……
「……ていう夢を見たの。怖かったぁ」
 朝食後のティータイム、あたしはアメリアの夢を見たっていう話をした。すると、ヴィンフリート(真)が面白くもなさそうに言った。
「へえ、そうですか。で、誰ですか、アメリア、って?」
 ゴットフリートさんが答えた。
「しばらく前に雇い入れたメイドだ。殺し屋シルフだった」
「へえ、そうなんですか」と、相変わらず面白くなさそうに言ってから、ヴィンフリート(真)はゴットフリートさんに聞いた。
「そういえばゲルデの姿が見えないのですが?」
「誰、ゲルデ、って?」
 首を傾げたあたしに、マクダレーナさんが答えてくれた。
「以前、お屋敷に奉公していたメイドよ。この街の大体、中央辺りにあるシュターデ商会っていう、王国でも指折りの商店のお嬢さん」
 そのあとを続けるように、ゴットフリートさんがヴィンフリート(真)に答える。
「お前が出立してから、一ヶ月ほどして、ここを辞めた。実家の商会がいよいよ王宮にも商品を納品するということになったそうでな、仕事が忙しくなったからと、その手伝いのために」
「そうですか」
 と、ヴィンフリート(真)は少し残念そうに、ティーカップを口に運ぶ。

 ……………………。

 ぐわああぁぁぁぁ。
 共通の話題がないから、ヴィンフリート(真)と話が続かないわあ。ていうか、ものすごくよそよそしい! まるで、ゲームで、ものすごく親密になってクリアした男の子が、「NEW GAME」になったら、好感度が初期値に戻っちゃったみたいだわあ!
 ……無理! ここから親密になるのって、絶対、無理! ヴィンフリート(真)って、なんでかあたしに敵意みたいなもの、抱いてるように感じるし! いや、敵意っていうのとは違うかな? まあ、少なくとも、好意は持ってないのは分かる。
 ヴィンフリート(偽)……っていうか、イルザが恋しいよう(泣)。
 ……そうよ、イルザはどうなったの?
「ゴットフリートさん、イルザはどうなったんですか?」
「彼女は、ヴィンフリートの影武者だ。だから、こうしてヴィンフリートがいる時は、敷地の北東部にある、林の中に立てた家に、一人で住んでいる。誰にも見られないようにするために」
 ……。それって、なんか、切ないな。
 そうだ! あとでなんか、差し入れに行ってあげよ!
 そう思った時、ハインリヒがやって来た。
 随分と早い時間にやってくるんだな、この人。でも、なんか、助かった気がする。このままヴィンフリート(真)と顔をつきあわせてるのって、ちょっと辛い。

 あたし、ゴットフリートさん、ヴィンフリート(真)を前に、会議室でハインリヒが言った。
「まず、ここで確認しておきたい。『ユミル』は十のパーツで構成されている。脳髄、眼、耳、口、心臓、右腕、左腕、性器、右脚、左脚。このうち、眼と右腕は、こちら側にある」
 ハインリヒがあたしを見たんで、あたしは頷く。
「問題は、ラグナロク……王家が何を持っているか、だが」
 そう言って、ハインリヒは右手を顎にやる。
「まず、脳髄は持っているだろう。これはまず間違いない。それから、様々な連絡用に、おそらく耳と口も持っているだろう。ウンディーネという殺し屋のことを聞いたが、その脚力はおそらくユミルの両脚に間違いない。となると、残るは、左腕、心臓、性器、だが」
 少し考えて、ハインリヒは言う。
「心臓は、持っていないはずだ。もしこれを持っていれば、ヤツらの動きはもっと大きなものになっている。それこそ、王国全土に影響を及ぼせるほどの。性器は、今は除外して考えてもいい。左腕だが……。おそらく持っているだろうな……」
 その時、あたしの頭の中で、閃くものがあった。
「……もしかしたら、左腕はサラマンダーが持ってるかも知れない」
 三人の視線があたしに集まった。
「え、えとね? 今、なんとなく思っただけなんだけど!」
 ドギマギしたあたしに、ハインリヒが笑顔で優しく言った。
「かまわない。言ってもらえるかい?」
 あたしは、その笑顔に背中を押される思いで、頷いた。
「イルザが言ってたんだけど、サラマンダーは右脚が義足になってて、そこにボウガンを仕込んでたんだって。でもそのサイズだと、せいぜい二十エル(約八メートル)程度しか、使えないって。でも、あいつはそれ以上の距離、毒矢を撃ち込んできてたの。ということは、ユミルの左腕を持ってて、それで毒矢を投げつけてきてるんじゃないかな?」
 ハインリヒが少し呻き、ゴットフリートさんが納得したように言った。
「なるほど。それなら、奴が潜んでいた辺りを捜索しても、弓矢が見つからぬ訳だな」
 顔を上げ、ハインリヒが言う。
「ならば、その前提で対策を立てましょう。ウンディーネは両脚を、サラマンダーは左腕を封じる。そうすれば、かなり有利に動けるはず。ミカ、その時は、君もその力を存分に使って欲しい」
 頷いたあたしに、ハインリヒは持参した箱を手に言った。
「ところで、ミカ。君に渡しておくものがある」
「え?」
「ヴィンフリートが捜索の旅に出る、その前に彼に装備してもらったアイテムがあるのだ。万が一の時のため、君に装備して欲しい」
 そう言って、ハインリヒは箱のふたを開けた。
 その中にあったのは。

 文字盤の部分がルビー、長針と短針が銀、覆いの部分(「風防」っていう名前は、あとで聞いた)がクリスタル、左右に取り付けてある閉じた翼が金で出来てるっぽい、握り拳大の懐中時計……らしいものだった。


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