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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第5回   機械仕掛けの?
「私は魔術書を点検し直し、どうやら『イグドラシルの秘法』が行われたのではないか、と考えた。我がフォルバッハで実践した者がいないのがわかった時、まず考えたのは、私の高祖母ヒルデガルトから繋がっている王妃グレートヒェンだ。王家ならばその術を使うのは無理からぬ話、そう思っていたのだが。そのうち妙なことに気がついた。アストリットの中に、もう一つの魂が呼び入れられているのがわかったんだ」
「それって、さっき出てた『たま……』なんとかっていうやつね?」
 あたしが聞くと、ゴットフリートさんが「そうだ」と答えた。
「そのことがわかった時、正直、訳がわからなかったよ。どうしてフォルバッハの家と関係のないシーレンベックの家が『魂寄せの秘法』を知っているのか、と。そして、何度かループした後、いきなりそれまでとは違う展開が訪れた。グートルーン・フォン・リヒテンベルクを名乗る女が現れて、私や家族に催眠術をかけ、新たな婚約者として割り込んできたのだ。もっとも、私も父上も、魔術書にあった精神力強化の法を施していたから、催眠術は効かなかったが、女の目的を知るために、かかった振りをした。おそらく詐欺だろうと思っていたが、女は、我がフォルバッハ領で催した舞踏会でお披露目をされた後、姿を消したから、その目的は不明のままだ」
「ああ、それなら」と、あたしは言った。
「そいつがウンディーネ、殺し屋だから」
 ハインリヒが仰天の表情を浮かべた。ゴットフリートさんも、苦々しい表情になる。
「卿(けい)から、時が巻き戻っているという手紙をもらい、アストリットの意識が眠りについたことを知ったあと、シルフのあとに殺し屋が現れたと、ミカに聞いた。グートルーンがウンディーネだったのだ」
 ハインリヒも、こいつはこいつでまた、苦々しげな表情になる。
「なんということだ! それが先にわかっていれば、こちらで身柄を抑え、アストリットの命を削る事もなかったのに……!」
 なんか、いろいろとややこしそうだけど、疑問がいろいろ。
 あたしが難しい表情をしてたんで、ハインリヒが聞いてきた。
「ああ、すまない。こちらで進めやすい順番で話をしているんだが、何か、疑問が生まれたかな?」
「えっとね? アストリットの意識が眠りについた、ってことだったけど、あたしの意識がハッキリとしたのって、例の舞踏会だったの。それじゃあ、それまでは、どうだったのかな、って。あたしでもない、アストリットでもない、ってことでいいのかな?」
 あたしの言葉に、ゴットフリートさんが難しい顔を、マクダレーナさんが哀しそうな顔を、イルザが沈痛な顔になる。
 答えたのは、ゴットフリートさんだ。
「受け答えは、アストリットだ。だが、それは機械的なものだったに、すぎない」
「え? それって、どういうこと?」
 イルザがあとを続ける。
「私には原理的なものは一切、わかりません。だから、見たまま聞いたままを。声に抑揚がなく、こちらの言葉に反応しているだけに思えました。まるで、アストリット様だったら、こう答える、このように行動する。それをなぞっているように思えました」
「つまり、ロボットみたいだった、ってこと?」
 イルザが首を傾げる。
「『ロボット』? なんですか、それは?」
「え? ロボットを知らない? えーっと、人が操るんだったり、自分から動くんだったり、いろいろだけど、要するに機械仕掛けの人形ってこと」
 マクダレーナさんが顔を上げてこちらを見る。
「そうね。確かにそうだったわ。だから、たとえアストリットではなかったとしても、ちゃんと感情を持った……心を持った人間がそこにいて、ほっとしたし、うれしかったの。だから、私たちは」
 柔らかい笑みでマクダレーナさんが言った。
「あなたには何も言わず、ここにいてもらったのよ」
 ……。
 そうか、そうだったんだ。アストリットじゃない別人だとわかった時に、あたしを取り調べたり、なんてことをしなかったのは、少なくとも「人間」がここにいたのがわかったからだったんだ。


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