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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第47回   うわ! 中世暗黒世界!!
「ああ、まただ……」
「どうかなさいましたか、お嬢さま?」
 あたしの呟きに、隣を歩くガブリエラが首を傾げる。
「階段を降りるところまでは、その姿を確認できるの。でも、階段を降りきって、一階に来ると、影が見えなくなる……ていうか、いなくなるんだ」
 あたしはあちこちを見回すけど。どこにも白い影は見えない。確かに今は夜だけど、照度を落とした照明があるんだから、何かがいれば見えるし、そもそもあの影は、そういうのとは無関係に見えるのよね。それが見えなくなるなんて、なんか、理由があるのかな?
 あたしはふと、騎士たちの詰め所がある方の通路を見た。いくつか、何に使っているか分からない部屋、そして。
「ねえ、ガブリエラ、この通路の先にあるドア、どこに繋がってるの?」
 意識したことなかったけど、通路の行き止まりにあるドア、今はなんか、気になってる。
「ああ、あのドアは……」
 言いかけて、ガブリエラは、なんか、戸惑ったように口を閉じる。
「? どうかしたの?」
「いえ、どうかした、というわけでは」
「内緒の部屋、とか?」
 考えたくないけど、例の棄民街とかいうところに繋がってるんじゃあ……? だとしたら、ちょっと怖いな。
「ねえ、ガブリエラ、もしかして棄民街に繋がってる、とか……?」
「いえ、棄民街は、別の所にあって、その出入り口は厳重な管理がなされています。お嬢さまがご心配なさることではございません」
 そして、気を取り直したように、ガブリエラは言った。
「あのドアの先には、この領内で何らかの罪を犯し、領主シーレンベック卿の裁量下にある者を収容する施設がございます」
 犯罪者を収容する施設。つまり。
「刑務所に繋がってるってこと?」
 頷いて、ガブリエラは続ける。
「はい。そして、さらにその先には……。非公開の処刑場がございます」
 今のガブリエラの言葉が頭に染みこんできた時、あたしは小さく息を引いた声を上げていた。
「しょ、しょけい、じょう……。この世界だから、ギロチン、かな?」
 上から、デッカい刃物が落ちてきて、首をストン!って落とす……。想像するだけで、背筋が寒くなってきたわ……。
「? この世界? 私の聞き間違いでしょうか?」
「う、うん、聞き間違い聞き間違い!」
 そうだったわ、ガブリエラは、あたしが「アストリット」だって思ってるんだった! 事情を知ってるのは、お屋敷の騎士の人たちの中では、直接「前のあたし」と接してた人たちだけなんだったわ!
「そうですか……。てっきりお嬢さまは、ご存じだと思ったのですが。ギロチンなどの斬首刑は、基本的には騎士階級以上の者のみに処される刑罰です。そのような者は王都に移送され、上院下院の議会を通すか、国王陛下の直接の裁可によって、斬首されます。ここにあるのは、絞首台で、ギロチンは王都にのみ、あります。ただし、斬首用のエクスキューショナーズソードでしたら、こちらにも一本、備えてあると聞きました」
「そうなんだ。でも、初めて知ったわ、ギロチンが騎士以上の人の刑罰だったって」
「一撃で確実に絶命しますので、死に臨む痛みを感じることがない、それだけ『優しい』から、騎士階級以上なのだとか。もっとも、過去の記録を見ると、そうでもないようなのですが……」
 と、ガブリエラは引きつったような笑みを浮かべて、ドアの方を見る。で、なんとなく、思ったんだ。
「……ひょっとして、“出る”の……?」
 ガブリエラがこっちを見る。引きつった笑みで、少しだけ頷くように頭を動かし、小さい声で「それらしいものを、一昨日の深夜に……」と呟く。
 ……ああ、それで、さっきドアのことを聞いた時、言いよどんだのか。もしかして、あたしが見てる影が、処刑されて死んだ人の幽霊って思ってる?
 違うって言いたいけど、言う訳にはいかないしなあ。
 ていうか。
「……別の所に行こうか、ガブリエラ……?」
 引きつった笑みのまま、ガブリエラは頷いた。
「出る」って聞いてなくても、ここから、離れたいわ、すぐに!


 で、歩き始めた時、あたしはふと、あるワードに気づいた。
「さっき、『非公開の処刑場』って言ったわよね、確か? ていうことは、公開の処刑場もあるっていうこと……?」
 ガブリエラは「今さらおかしなこと聞くなあ」って感じの、きょとんとした表情で答えた。
「通称・西市民広場の一角にありますよ、絞首台が。領主様に処刑の裁量権がある罪人のうち、特別の事情のない者が処刑されていますが?」



 うわああ……!
 マジ、怖いわぁ、中世世界……!
 中世ファンタジーって、マジでファンタジー、実際は中世暗黒世界だわぁ!


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