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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第42回   昔話・T
「わたしが住んでいる国では、ある宗教が国教となっています。ですが、大きく二つの派閥、というか、二つの流れが出来ていたのです。でもそれは教義そのものが違うといった違いではなく、一部の解釈が違うという、そういう差異だったそうです。だから二つの派が大きな諍(いさか)いを起こすはずではなかった。ただ、そこに利権が絡むと話は別です。その利権がやがて国の主導権に及び、王家が成立すると、解釈の違いが元で、争いになった。それが他国には、宗教紛争に見えたようです」
 うわあ、難しい話だなあ。恥を忍んで言っておこう。
「ゴメン、シェラ、そういう話、ちょっと難しいわ。だから、わかりやすく言ってもらえたら、助かる……かなあ?」
「そうですか? ……そうですね、要するに、国の上層部がいい思いをするのは許せないっていうことで、権力側に反発した一派が、国を追い出された。それがたまたま他の国には、同じ宗教の中の派閥争いに見えた。そういうことです」
「要するに、権力争いに負けて、国を追い出された、ってことか」
 シェラが頷く。
「もっとも、そういう事態になったのは、わたしが生まれる、遙か前ですから、あとになって聞いた話です。わたしが生まれた頃には、その一派の大多数は国に戻ってあちこちに散らばり、国の外に残った一派は、ある部族は小国を作り、他の部族は国を取り巻くようにしてコミューンを形成していました。わたしがいたのも、そんなコミューンの一つです。そしてわたしがいたコミューンの総人口は五十人ぐらい、住んでいたのは、この国の東部に位置する荒れ地でした」
 正直言って、この国の地図とか、世界地図が頭に入ってないから、どういう状況か、さっぱりだわ。
 でもあたしは、口を挟まず、先を促した。多分、いちいち聞いてたら話が前に進まないと思うし。
「それで?」
「十数年前です。旱魃が続いた後、長雨が続くという年があって、そのためにわたしたちが住んでいた場所は、耕作や狩猟、果物の採取といったことが出来ず、さらに居住すら出来ない状態になってしまいました。そこでわたしたちは元いた国から遠ざかるように、さらに西へ移動し、ある町の近くまで来ました。それが、シュペール辺境伯の庇護下にあったマイネッケンという町でした」


 マイネッケンの人口は、当時、およそ五百人。元は行商人が国境で中継点にしていたところだったという。その関係で一時は栄えた商業都市だったらしい。しかし、この国が建国され、国や貴族たちが所領を定めて開発していく中で、国境の商業中継の場所がかわり、マイネッケンも商業の窓口としての機能しか持たなくなり、その機能も別に移っていって、人口も減ってさびれていった。
 そのため、町の周縁部は人の住まない建物や、何の機能もない廃墟が立ち並ぶエリアとなり、漂泊民や不審者たちが不法に住むエリアともなっていた。


「わたしたちは、そんな場所へ行って雨風をしのぎ、そして……」
 シェラは少し、とまどったように息を止め、そして続けた。
「町の中心部や、街道沿いへ行って、略奪行為をしていました」
 あたしの息が止まる。今のシェラからは想像もつかないし、そもそもそういう事態が具体的に想像出来ない。
 シェラは戸惑うあたしに構わず、話を続けた。
「当時のわたしは四歳か五歳ぐらいでしたから、直接、略奪行為などはしていませんでした。でも、周りの空気から、そういった事を当然と捉えていました。そんな中で、わたしは母から、魔術を教わり、時にそれを実践して略奪行為を後方から支援していたんです」
 魔術。あたしに夢でいろいろと教えたっていう、あれか。いや、ほかにもあるんだろうな。
 元の世界で満ち足りた生活を送っていたあたしには、シェラたちの行動の根底にあるものは想像もつかない。そんなあたしっていう存在は、きっとシェラたちには目障りに違いない。今はこうやって、お茶とかいろいろとお世話してくれるけど、心の中ではきっと……。
 ちょっとだけ、そんな考え方する自分に自己嫌悪。
「……ミカさん、どうかしましたか?」
「ううん、なんでもないわ。話、続けて?」
 自分の過去の辛いことを話してくれるシェラのためにも、あたしは捻(ねじ)れた意識じゃなく、まっすぐな姿勢(・・)で聞かないとならない!
 頷くと、シェラは紅茶を一口飲んでから、続けた。
「そんな生活が、一年半ぐらい続いた頃です。町の周縁部に住み着いて、略奪行為をする者たちは、かなりの数になっていたんです。数えた訳ではありませんが、多分、わたしたちのコミューンの二倍以上になっていたと思います。そこは、ほとんど村のようになってましたね。それに比例して、マイネッケンにもある程度の規模の自警隊が組織されていましたが、その頃にはわたしたちも、この国の言葉を少しでしたが理解していて、適当な表現ではないのですが、いつ行商や、都市交易の荷馬車が通るのか、そういった情報を事前に入手して襲撃できるまでになっていたんです。ちょっとした紛争状態になっていたそうです。そんな時でした。マイネッケンに盗賊討伐のための軍が派遣されてきたんです。シュペール辺境伯が指揮する、討伐隊でした」


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