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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第4回   ヴィンフリートって……
「ヴィンは、実は女の子じゃないんですか?」
 大事なことだから、二回、聞いたわよ?
 ゴットフリートさん、マクダレーナさん、そしてヴィンが顔を見合わせ……あれ? ハインリヒも、それに加わってるけど?
 逆にあたしに質問を返してきたのは、ゴットフリートさんだ。
「なぜ、そう思うのかね?」
「この間……じゃない、何周か前の時に、偶然、ヴィンの着替えを見ちゃったことがあるんです」
 マクダレーナさんが、驚いたように両手で口を覆って言った。
「まあ、ミカさんには、そのような趣味が? なんて、はしたない」
「ああ、違いますから」
 ヴィンが、ジト目であたしを見て言った。
「軽蔑します、ミカさん」
「うん、違うから! で、どうなの?」
 あたしの視線から顔を逸らし、ヴィンはゴットフリートさんを見る。ゴットフリートさんが、あたしを見た。
「君の推察通りだ。今、ここにいるヴィンフリートは、女だ」
 やっぱり!
 そう思って、ヴィンを見ると。
 ヴィンは一礼し、笑顔になって言った。
「僕……いえ、私はヴィンフリート様の影武者で、イルザと申します」
 あ、声の感じも少年っていうのから、女の子になってる。ていうか。
「影武者っていうことは、本物は?」
 ゴットフリートさんが答える。
「それは、訳あって言えない。それから、影武者に入れ替わっていることは、古くからいる者は知っているが、最近、雇い入れた者は知らない。だから、君も、そのように振る舞って欲しい」
「つまり、これからも弟のヴィンフリートとして接すればいいんですね?」
 あたしの問いにゴットフリートさんが頷く。ヴィン、もといイルザが言った。
「私には、技能として、そして趣味としても調香ができます。その技能を使って暗示作用を持つ香を調合し、自分自身をヴィンフリート様だと思い込むようにしていました。時々ですけど、私のことを女性だと疑う者がいた時には、香を使ってそのことを忘れるように暗示をかけたこともあります」
「へえ、お香を使って暗示をねえ……。ん? そのお香って、もしかして強烈な匂いがしない? ぶっちゃけ、臭くない?」
 あたしの中の記憶が「くっさい匂いを、嗅いだことがある」って言ってる。
 イルザがちょっと頬を紅くして言った。
「ごめんなさい、慣れていない人には、かなりキツいと思います。あなたの部屋にまで匂っているんじゃないかって、いつもドキドキしてました」
「そうなんだ」
 あれ? なんか、あたしがなんで狙われるか、ヴィンに聞こうとした時にも、あのお香を嗅いだ気が……。すっかり忘れてたけど、暗示で忘れるようにされてたんだ。
 あたしがそのことを指摘すると。
 イルザが困ったような顔をして言った。
「うーん。すみません、私にはその記憶がないので明確なお答えは出来ません。ですが、見当なら」
「それでいいわ」
「そうですか」と、イルザはゴットフリートさんを見る。ゴットフリートさんが頷いたのを確認して、イルザが言った。
「実は、あなたが、いえ、アストリット様のお命が狙われる理由を、私は聞かされていないのです。そのことについて領主様は、暗に『誰にも知られてはならない』のようなことを仰いました。ですから、おそらくあなたに尋ねられた時に、回答できないので、その疑問を抱かないように、暗示をかけたのではないでしょうか? 自分のことなのに何もわからなくて、申し訳ございません」
 そういうことだったのかぁ。それじゃあ。
 あたしはゴットフリートさんを見た。
 ゴットフリートさんは一度、ハインリヒを見てから言った。
「この経緯を話すのには、やはり順を追っての方がいいだろう。サー・ハインリヒ」
「はい。……私は、我が家にある魔術書のうち、私自身の護身や魔法からの防御など、そういったものを実践していった。もっとも、魔法や魔術といった、自然科学を無視したものがあるとは思えなかったのだが。しかし、ある時、違和感を覚えたんだ、同じ時を繰り返しているのではないか、とね」
「それが、あたしの……アストリットのループね」
「ループ? なるほど、言い得て妙だね。じゃあ、以降はその言葉を拝借しよう」
 そう言って、ハインリヒは話を再開した。


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