ヴィンフリート(真)にあたしのことを説明し終えた頃、あたしたちがいる応接間にハインリヒが入ってきた。 「シーレンベック卿、それからお連れの方々。会議室にお越し下さいと、父が申しております」 ゴットフリートさんが頷いて歩き始めた。そしてあたしたちも、後に続いた。 会議室に入ると、そこには威厳たっぷりのナイスミドルが。あの人が、ハインリヒのお父さんね? うわあ、シブいなあ。友だちにおじさん趣味の子がいて、正直その心境が理解出来なかったけど、この人が相手なら、あたし、お付き合いしたいかも? ハインリヒのお父さんがあたしを見て、言った。 「君が、ミカさんだね? 私がここの領主、テオバルトだ。ハインリヒから事情は聞いている。災難だったね。だが、是非とも我々に協力して欲しい。私たちも全力で君を護る」 ……うわあぁぁ、ヤバい。マジでヤバい! 惚れそう! 「では、今後の対策について、説明させて下さい」 ハインリヒがそう言うと、皆がそれぞれ席に着く。あたしはどこについていいかわからないんで、とりあえずイルザの隣に座った。 ハインリヒが自分の前に置いてある古そうな本を手に言った。 「この書には『イグドラシルの秘法』が記されています。ですが、我がフォルバッハ家に伝わるものは原本、シーレンベック家に伝わるものとは、違う部分があります」 ゴットフリートさんが少しだけ、目を見開いて聞いた。 「違う部分? それは一体?」 「ユミルと大樹イグドラシルを描いた挿絵、実はこの部分に、“透(す)かし”で魔術文字が記してあるのです」 ゴットフリートさんが「ふうむ」と腕を組む。 「サー・ハインリヒ、その魔術文字は、一体なにを伝えているのだ?」 「簡単に言って、他(た)の儀式に隠してある、別の魔術儀式を解く鍵です」 ゴットフリートさんとマクダレーナさんが、軽く驚いたように小さく声を漏らす。 ハインリヒが続けた。 「この魔術文字をもとに様々な儀式を解読した結果」と、ハインリヒは別の本を手に取る。 「この書に記された『ユミル復活』にも、別の儀式が隠されていることがわかりました」 みんなからどよめきにも似た声が漏れるけど、あたしには何が何だかさっぱりだから、きょとんとしてるしかない。 ゴットフリートさんが言った。 「『ユミル復活の儀式』が、その書に記されている、と!? ということは、王家にもその書がある、ということになるのか!?」 「そこまではわかりません。高祖母ヒルデガルトの日記を読む限り、写本は一組(ひとくみ)しかないはずですし、『ユミル復活の儀式』を記した写本は焼き捨てられているはずです。ですが、もしかすると他にも存在していたのかも知れません。それについては、確認の取りようがないのですが」 そしてヴィンフリート(真)を見て、お互い頷き合った。言葉を継いだのはヴィンフリート(真)だ。 「サー・ハインリヒは秘密の魔術文字で『ユミル復活の儀式』を解読した結果、その中に『ユミル封印の儀式』が隠されていることを、発見したのです」 「ユミル封印の儀式、ですか」と小さく呟いたのは、イルザだった。 その呟きを耳にしたんだろう、ハインリヒが頷いて言う。 「ユミルの封印のためには、『スルトの剣』が必要です。皆さんもご存じのように、スルトはムスペルに住む、炎の巨人の王です」 「それはあたしも知ってる。確か、ラグナロクのラストで、スルトの炎の剣が神々の世界を滅ぼすのよね?」 頷き、ハインリヒが一同を見渡す。 「問題は、『ムスペル』がどこにあり、そこのどこに『スルトの剣』があるのか、ということです」 まあ、そうよね。スルトの剣があったらユミルを封印できる、っていわれても、どこにあるのかわからないんじゃあ、どうしようもないわ。 「この解読には、少々、手間取りましたが、発想を変えて取り組んだ結果、その場所の特定に成功しました! そもそも『ユミル復活の儀式』の挿絵は何枚もあり、さらに記された魔法円もいくつもあって……」 なんだなんだ、ハインリヒ、テンション上がってんぞ!? 解読できたのが、すごくうれしくて、興奮が甦ってきたのが、すごく伝わってくる。本当にうれしかったんだろうなあ。なんかを発見したっていう、こういう時、なんて言うんだっけ? クラスメートの誰かから聞いたような気が……。えーと、確か……。 そうだ、思い出した! 確か……。 「ευρηκα(エウレーカ)!」 だったわよね!
……あれ? なんかみんな、あたし見てビックリしてるよ? あたし、なんかしたのかな? 「ミカさん」と、イルザが言った。 「叫んでましたよ、『エウレーカ』て?」 あたしに小声でそう言った彼女の顔に浮かんでいるのは、少し恥ずかしそうな笑みだ。 うが! しまった! 耳まで熱くなった時、テオバルトさんが咳払いをしてハインリヒに言った。 「ハインリヒ、己(おの)が功を進んで吹聴する者を、賢明とはいわない」 「……失礼しました、父上」 あ、いつものハインリヒに戻った。 「話を戻します。『ムスペル』の場所は、この国の南方にあるオスマン帝国」 え? オスマン帝国? って、オスマン・トルコ、だっけ? 「そして、彼(か)の地には炎の巨人の神話が伝わっています。その名は」 と、一(ひと)呼吸置き、ハインリヒは言った。 「プロ=メテウス」
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