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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第34回   国の暗部、ってヤツね……
 フォルバッハ侯の邸宅に到着し、執事さんやメイドさんたちに案内されて、応接の間に行くと。
「父上、母上、お久しゅうございます」
「ああ、ヴィンフリート、無事に帰ってきたのね!」
 マクダレーナさんが、部屋にいたイルザに早足で近づいて、抱きついた。イルザも、そっとマクダレーナさんを抱き返す。

 うん、何言ってんの、あたし?

 つまり、部屋で待っていたイルザが「おひさ〜」って言って、マクダレーナさんが「無事でなにより」って言って抱きついた。

 あたしは隣に立っているイルザを見て、そこに確かにイルザがいるのを確認して、ゴットフリートさんに聞いた。
「ゴットフリートさん、ヴィンフリートって、双子なんですか?」
「ハッハッハッハッハッ、そんなわけないだろう」
 イルザを見ると、イルザも笑顔で、
「違いますよ、ミカさん」
 と、答える。
 あたしは改めてヴィンフリート(真)を見る。いや、ホントにそっくりだわ。もしかして、あそこに立ってるの、AR(拡張現実)なんじゃないの、スマホ持ってないけども。
 イルザが言った。
「私がヴィンフリート様の影武者として見出(みいだ)されたのは、私が四才か五才ぐらいの頃です。その頃からヴィンフリート様の立ち居振る舞いから癖などを学びました。顔つきもあまり変わらないように、食事の内容や時間なども同じに、噛む回数なども同じにしましたし、身長や体重も、あまり変わらないようにするために、体の鍛練も調整しました」
「うわあ……。あたしには絶対、無理だわ。おかしくなりそう」
「確かに、自分でも何をしているのか、わからなくなることも、しばしばでしたし、小さい頃には、何度か、本当に気が触れかかったこともあったそうです。ですが、私は命がけで、皆様のご期待に応えようとしました。領主様のお陰で、私は貧民街から救われたのですから」
「……………………」
 あたしもニュースとかでそういう貧民の話は聞くし、学外活動で募金活動をしたこともある。
 でも、どこか他人(ひと)事(ごと)だったように思う。募金活動を終えた後に、先生に内緒でファストフード店に入って、みんなとおしゃべりしたこともあったし。
 でも、もしあたしが同じような立場だったら、本当に命がけで期待に応えなきゃ、って思うだろう。ひょっとしてイルザが調香の技能を身につけたり、いろいろと作戦を思いついたり出来るのは、「いらない子じゃなくて役に立つ子」って思われたいためなのかしら?
「あ、そういえば」
 と、あたしはふと思い出してイルザに聞いた。
「ねえ、確か『棄民(きみん)街(がい)』っていうのもあったと思うけど。なんなの、それ?」
 イルザは、ここでなぜかゴットフリートさんを見た。ゴットフリートさんが頷くのを確認して、イルザが言った。
「主に政治犯や思想犯を収容する区画です。その罪の軽重(けいちょう)に応じて、その本人だけを収容するケースから、家族全員、場合によっては、かなりの範囲の一族を収容するケースもあります」
 ゴットフリートさんが続ける。
「かつては一族郎党、みなを処刑していたが、百年ほど前に、英明王ギュンター二世が行った改革により、市民から隔離して労働を担わせることになった。それが棄民街の始まりといわれている。だが、年月の流れにより、そこは犯罪の巣窟とも、なってしまっている。なので時折、そこを管轄する領主が視察を行い、状況に応じて警察活動を行い、場合によっては、領主の独断によりその場で犯罪者を処断する。それから、棄民街に収容された者の内、思想矯正が認められた者は、再び市民権を得て元のステイタスに服することが出来るとされているが、それは書類上のことに過ぎない。本当に思想が矯正されたか、確認のしようがないからな。だから実際は、棄民街に収容されたら、恩赦や余程の事情がない限り、一生をそこで過ごすことになる」
「……それじゃあ、もしそこで結婚して生まれた子供は、どうなるんですか……?」
 恐る恐る聞いたあたしに、ゴットフリートさんは静かに答える。
「生まれながらにして、棄民であり、やはり特別な事情がなければ、一生をそこで過ごす」
「………………」
 思わぬ暗部だわ。アメリアだったっけ、棄民街出身っていってたの? その内面に秘めた執念っていうか、怨念は貧民街の比じゃないんだろうなあ。

 シーレンベック夫妻とヴィンフリートが喜びの再会を果たした後、今度はあたしを見た。
「姉上、お久しぶりです。おかわりないですか?」
「あー、えっとー、どうも。そのぅ、おかわりないわけじゃなくて……」
「ん?」
 と、ヴィンフリートが眉間にしわを寄せた。
「お前、何者だ?」
 あー、……うん。そりゃあ、わかるよね。イルザたちは「魂寄せの秘法」を実行した、なんていう前フリがあるから、まだいいけど、久しぶりに会う肉親からすれば違和感どころか不信感全開よね。


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