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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第23回   訃報・T
「とにかく、朝飯にしようぜ」
 バルドゥルの言葉に頷いたミリヤムが、ベッドに寝ているヒルデガルトの上半身を起こしてくれる。養生のおかげで体の痛みはかなり引いてきた。だが、それでもまだ左腕は動かず、腰の痛みも治っていない。医者の見立てでは、左腕は前腕部が骨折しており、脚と腰は筋を痛めているとのことだった。
 キャスター付きのナイトテーブルにヒルデガルトの食事を移し替え、ミリヤムがヒルデガルトの前に持ってきた。
「いつも申し訳ございません」
 本心から謝罪すると、ミリヤムが笑顔で言った。
「ヒルデガルト様がお気になさることではございませんわ」
「そうそう。病人は病人らしく、黙って看病されてりゃあいいんだよ。なまじ家のこととか、弟がどうのとか、口を出すものじゃないって」
 妙な具体例を口にしながら、バルドゥルが紅茶を運んでくる。
 ミリヤムがバルドゥルに言った。
「昨夜の件ですが」
「ん? ……ああ、あれか。ここのところ、いろいろとあって忘れるところだった」
 バルドゥルの返事に、ミリヤムがムッとした表情になる。
「悪い。で、どうだって?」
 バルドゥルが席に着くのを見て、ミリヤムが席に着く。この三日間、二人を見ていて気がついたが、彼らは主人と使用人というよりは友人同士のように見える。もちろん、ミリヤムはバルドゥルに対して敬語を使っているし、今だってバルドゥルが席に着いてから、ミリヤムは椅子に座っている。だが、そもそも主人と使用人が同じ食卓に着くということ自体、異常なのだ。
 しかし、ヒルデガルトはそれを心地よく思っていた。出来るなら、マイスナーの家でも、このように出来たら。
 そう、執事のラファエルとも、ともに食卓を囲むことが出来ていたら……。
「……あ……」
 思わず、目頭が熱くなる。それを見たバルドゥルが訝しげな表情になる。
「どうした? どこか痛むのか?」
 そう聞いてきたバルドゥルに答えることは出来ず、ただ首を横に振るのみ。そして。
「いただきます」
 笑顔を浮かべて、ヒルデガルトはサラダにフォークを刺した。

 食事を終えた後、ヒルデガルトは気になったことを話した。
「あの。先ほど、仰っていた『昨夜の件』というのは、なんですか?」
 食事中の話題には出なかった(マイスナーの家では、食事中のおしゃべりは厳禁だったので、これも異常事態に思えた)ので、少し気になったのだ。
 というより、先刻から気になっていた。
 ミリヤムがバルドゥルを見た。バルドゥルが頷く。そして。
「俺から話そう」と、バルドゥルがヒルデガルトに向いた。
「ヒルダから、『洞窟を爆破して、アンゲリカを足止めした』って聞いただろ? で、念のために人を使って、周辺の様子を調べたんだ。聞き込みもさせた」
「……それって、姉が生きていた場合、あちこちに捜索をかけるかも知れないから、用心のために、っていうことですか?」
 バルドゥルが頷く。先(さき)の印象では、このバルドゥルという青年は考えの浅いところがあると思ったが、なかなかに用心深いようだ。
 ヒルデガルトは続けて聞く。
「それで、どうだったんですか?」
 バルドゥルがやや難しい表情になって言った。
「詳しい容態(ようだい)は不明だが、アンゲリカは洞窟の落盤事故に遭って、瀕死だという触(ふ)れが、領内に出されたそうだ」


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