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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第18回   〔長尺版〕林での襲撃・V
 そう思っていたら、サラマンダーがズボンの右脚、そのスネをまくり上げた。
「あ」
 イルザは小さく声を上げた。ヤツの右脚、その膝から先は、木製と思しき義足になっていたのだ。
「ヒャハハハハハ! 驚いてるな? もう十年以上前だけどよう、俺はこの国の東端(ひがしはじ)の町に住んでたんだ! そしたらそこで、なんかの小競り合いが起こりやがんの、嗤っちゃうねえ!」
 と、サラマンダーはまたけたたましく嗤ってみせる。
「俺が住んでた町は、辺境伯ゲルト・フォン・シュペールの都市に属しててよ、奴は町を紛争の舞台にしやがった! そんときの紛争で俺は右脚を失った!」
「聞いたことがある。中東方面の宗教紛争で敗れた一派が流れてきて、略奪をほしいままにする集団になっていた。シュペール伯にその討伐が命じられたが、集団は周辺の漂泊民を取り込んで、思いのほか大規模になっていた。そのため、紛争が長期化して、一つの町が犠牲になった。その町は今、地図からも歴史からも消されている」
 ニヤリとして、サラマンダーが器用に左足一本で立ち、右脚を上げて爪先をこちらに向ける。
「さすがは、貴族のお坊ちゃま。歴史の裏までご存じだ。……右脚も故郷も失って瀕死だった俺を拾ったのは、ある殺し屋の男だった。……さ、昔話は終わりだ。続きが聞きたきゃ、俺を捕まえてみな!」
 サラマンダーの義足のスネが開いて展開し、横向きになっていた小型の弓が自動的に九十度回って、こちらを向いた!
 驚いている間(ま)に、サラマンダーはスネの裏にあった矢を弓につがえ、素早く撃ってきた!

 林の外に来たウンディーネだったが。
「……なるほど、私の周りを固めて、林の中に追い込もうって腹(ハラ)ね?」
 呟き、脚に意識を向ける。
「だったら、その包囲網を抜ければいいだけのことよ!」
 一気に跳躍し、馬七頭による半円形の包囲網を越えようとした。だが。
「撃て!」
 リーダーと思しき騎士の号令で、いつの間にかその半円形の外側に待機していた別の騎兵三人が、こちら目がけて矢を放ってきた!
「なにッ!?」
 慌ててその矢を手で弾いたが、体勢が崩れ、包囲網を越えることなく地に落下した。
 起き上がる刹那を狙って、包囲網にいた騎兵が鎗で迫ってくる。それを転がってかわすと、別の騎兵が鎗で攻め立てる。
「クソッ!」
 この繰り返しの結果、どうにか起き上がれたのは、林の木立の中だった。
 馬から下りた数人の男の騎士たちが、剣を抜いて迫ってくる。
「貴様らァッ!」
 蹴り飛ばしてやろうとしたが、その右脚は近くの木を蹴り折り、騎士には届かなかった。木を蹴り折る、ということ自体、人間には不可能事で、騎士たちは驚愕とともに後じさったが、折れた木がこちら側に倒れ込んできて、結果ウンディーネは、さらに林の奥に押し込められる形になってしまった。
 騎士たちが回り込んで、林に入り、こちらに向かってくる。
 ウンディーネは短剣を抜いて構えるが、数人相手には不利。しかも得意の足技は木に阻まれて、思うように使えない。とにかくステップでかわしつつ翻弄し、相手を一人ずつ屠るよりほかないだろう。だが、相手もそれを見越しているらしく、包囲するかの如く、木を盾にしながら遠巻きに迫ってくる。
 どうしたものか、とウンディーネは思案した。


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