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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第16回   〔長尺版〕林での襲撃・T
 ノルデンでの情報収集は、あまり期待していなかった。それでも、「荒鷲亭」で聞いた人相風体、そしてアパートメントの近所で聞いた人相風体がウンディーネに似ていることを知った時は、もしや、と思ったし、ひょっとしたら立ち回り先の一つで遭遇して倒せるのでは、ということも思ってみた。相手は手負いだと聞いたし、今なら絶好の機会だと思ったのだ。
 イルザが暗くなった空を見上げていると、同行させた若き騎士のブルーノ・ギースベルトが言った。
「若、暗くなってきましたし、今日のところは」
 イルザは「ヴィンフリート」になってうなずいた。
「そうだな。もしウンディーネを発見できても、地の利は向こうにある。下手(へた)を打つわけにはいかない」
 クレメンスも頷いた。

 二頭立ての馬車に戻り、ノルデンを出る。そして、林の中の道に入って少し経った時だった。
 馬車が揺れ、馬が、いなないたのだ!
 ギースベルトが「何事か!?」と御者のハイドリヒに問うと。
「何者かが飛び出してきて、馬を蹴り倒しました!」
 と返事があった。
 ウンディーネは恐るべき脚力の持ち主という。もしや。
 クレメンスが言った。
「坊ちゃん、ヤツが来ましたぜ!」
「……そうだな。出るぞ、ギースベルト!」
「御意!」
 剣を手に、イルザたちは外へ飛び出した。

 だが、肝心のウンディーネの姿がない。馬たちは、ダメージから立ち直っており、ハイドリヒが馬をなだめていた。すると。
「坊ちゃん、騎士さん、今、林の中で動いたヤツがいましたぜ」
 クレメンスが緊張した表情で、そして小声で言った。
「そうか。……ギースベルト」
 イルザの言葉にギースベルトが頷き、クレメンスに聞いた。
「どこだ?」
 無言で、クレメンスがある方向を指さす。
 それを確認し、イルザは言った。
「わかった。僕は左手から回る。クレメンスは右手を、ギースベルトは」
「正面ですね?」
「ああ。頼んだぞ」
 そして、三人は三方に分かれて進み……。

 歩を止めて姿勢を低くし、イルザはそっと元いた場所へ戻る。すると、ギースベルトもそこに戻ってきた。
 お互い頷き合うと、イルザは右手の人差し指をなめ、頭よりも高い位置に持ってくる。精神を集中させ、今度はギースベルトに、無言である方向……風上を指さした。
 頷き合い、二人して中腰のまま、そっとその方へ行く。
 しばらくした時だった。


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