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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第15回   気をつけてね、イルザ……
 さて、と。
 前の周回じゃあ「護衛は間に合ってます」、って断ったのよね。ここは断った方がいいのか、それとも……。
 あたしが悩んでたんで、間が空いた。すると。
「俺、武芸の腕には自信があります! ここに来る前、お嬢さまや、騎士さん、あと、メイドさんには話しましたし、手持ちの武器も、見せました。お坊ちゃん、どうかここで俺を雇ってくだせえ!」
 と、クレメンスが背筋をピンと伸ばして、勢いよく一礼する
 おおぅ、イルザに訴えにいったかい!?
 クレメンスの言葉に、イルザは申し訳なさそうに応えた。
「すみません、ここには優秀な騎士が揃っています。そういったことは、街の商家などに売り込みに行かれるのがよろしいか、と」
「……そこら中で、断られたンす……」
 クレメンスが落ち込む。さっき見た限り、クレメンスはそれなりに腕は立つと思う。

 ……やっぱりアレか、薄汚れた形(なり)と、臭(にお)いで避(さ)けられたか……。

 少し考えてから、イルザが言った。
「じゃあ、そういう仕事を斡旋(あっせん)するところへ、僕が案内しますよ。周辺の町や村の中には、自警組織のないところもありますので」
 クレメンスの顔が、パァッと明るくなる。
「助かります〜!」
 そして、イルザは出かける支度で部屋に戻った。
「お嬢さま」
「? なに、クレメンス?」
 来た来た来た来た、情報提供!
「今日、お嬢さまを殺そうとしてた女なんですけど」
「うん」
「どぉ〜も見覚えがあるんですわ〜。人違いかも知れないけど」
「…………ええ〜ッ!? マジで!?」
 ってあたし、驚いてみせたけど、わざとらしくなかったかな、今の?
 あたしが大声になったんで、ドアを開けてガブリエラが飛び込んできた。
「どうかなさいましたか、お嬢さま!?」
 すでに剣を抜いてた。
 ああ、そうだったわ、ガブリエラが外で待機してるんだった!
「あ、ごめん、驚かせちゃって。え、えとね、クレメンスが、ウンディーネのこと、見覚えがあるんだって!」
「なに!? それは本当か!?」
 剣を抜いた状態でガブリエラが迫ったんで、裏返った声を上げてクレメンスがのけぞった。
「ああ、すまん……」
 ガブリエラが、バツが悪そうに剣を下げる。
「で? どこで見たの?」
 あたしが聞くと、クレメンスが記憶を手繰るように天井を見て言った。
「ここの東に、ノルデンっていう街がありますよね」
 ガブリエラが頷いた。
「ああ、当領地の庇護下にある街だ。林を抜けたところにあるな」
「そこの『荒鷲(あらわし)亭(てい)』っていう酒場の踊り子に、似てる気がするんですよねえ」
「間違いないか?」
 いつの間にか、ガブリエラの口調は、詰問(きつもん)するようなものになっていた。いやあ、犯罪者の取り調べじゃないんだからさ、もうちょっとソフトにいこうよ、って前も思ったわ。
「クレメンス、間違いないのね?」
 一応、念押しで聞いてみる。「いや、違ったかも?」とかってあるかも知れないし。
「多分。俺、あの街には四日ほどいて、毎晩、あの酒場でメシ食ってたから。綺麗だったから、よく覚えてるんだ。で、そこから南に下って、あちこちの街やら行ってるうちに、路銀が心(こころ)許(もと)なくなって。闘技場で稼ごうにも、腹が減って勝負にならなくて……。で、ふらふらと旅を続けて、街道から外れたところで、野生の動物を狩ったりして……。でも、いつもうまくいくわけじゃなくて……」
「うん、話、それてきてるね」
 あたしがそう言ったとき、応接室に外出着のイルザが入ってきた。
 あれ? イルザ、なんか、難しい顔してるよ? 前も、こうだったかな? 
 まあ、いいか。あたしは今の話を展開する。イルザも、クレメンスに確認した。まるで詰問するように。
 クレメンスが頷くと、応接室にあるアンティークっぽい柱時計を見て、イルザは言った。
「今から馬車で行けば、夕餉(ゆうげ)までに帰ってこられますね。……うん、手の空いた騎士を連れて、その酒場へ行ってみましょう。うまくすれば、ウンディーネの“ねぐら”がわかるかも。すみません、クレメンス、職業斡旋所は、明日でもいいですか? あなたには、道案内で同行していただきたいので。もちろん、今夜はお屋敷に逗留してください。父上には、僕から話します」
「いいですよ。ていうか、助かります〜」
 クレメンスは笑顔で頷いた。
 イルザは一人の騎士を連れ、クレメンスを同行させて出発することになった。
「ねえ、ヴィン、さっきも言ったけど、サラマンダーもいるかも知れない。……気をつけてね?」
 心から、そう思う。あたしの言葉に。
「ええ、姉上。大丈夫ですよ」
 ヴィン(イルザ)があたしにウィンクした。

 ……やばい、その趣味ないけど、今、ドキッてなっちゃったわ。


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