リタも仰向けに倒れて「あたたた」なんて言ってたけど、自分にぶつかってきた(正確には「ぶつけられた」)のがあたしだと気がつくと、一瞬、目を見開いて、そして目元を険しくし、あたしを剣で薙ごうとしてきた! 「させるかッ!」 でも、その剣をガブリエラが、自分の剣を地からすくい上げるようにして弾く。その隙に、あたしは立ち上がる。そしてハンナと交戦中のウンディーネに向かう。ウンディーネもこっちに気づき、ハンナの短剣をかわして身をひねり、今度は建物の壁に向かって跳び、そこをジャンプ台にして、さらに宙で身をひねって、あたしに跳び蹴りを放ってきた。 「二度も同じ手を!」 あたしはその蹴りを避けようとして、サイドステップを踏もうとしたけど、ウンディーネのスピードが思ったよりも速く……。
喰らっちゃったわ、同じ手。
あたしはそのまま水路の方に飛ばされた。ふと、首を回して飛ぶ先を見ると。 「……船!?」 前の周回で見た、輸送船だ。あたしは右腕を伸ばして短剣の切っ先を船に突き刺すと、それを支点にして身をひねり、船上に着地した。当然の如く船の人たちはビックリしてるけどゴメン!なんだわ! ウンディーネがこっちを睨む。多分、あいつの脚力ならこっちに跳んでこられるわね。 あたしは短剣を構える。 思った通り、ハンナが動くより速くウンディーネがこっちに向かって、跳んできた! よし! このタイミング! あたしは呼吸を整え、自分が想定するタイミングよりも早く身を沈めた! 思った通り、ウンディーネが短剣をあたしに突き刺すように振りかぶる。あたしは短剣を左手で逆手に持ち替えて、右腕に意識を集中する。「何か」が流れて、力がみなぎる感覚があった。そして右側を下にし倒れ込む要領で体を傾け、軽く甲板を蹴る。 「どりゃあああああ!!」 吠えたあたしは、巨人の力が宿る右腕をバネにして、空中に舞い上がる。ウンディーネがビックリした表情になったのが、まるでスローモーションになったようにゆっくりと見えた。そしてあたしは、こちらに向かってきていたウンディーネに、左手に持った短剣を突き出した! 正直、狙ってた訳じゃない。ほとんど、カンのようなもの。でも、その刃はウンディーネが短剣を振り下ろすより早く、ヤツの左の脇腹を切り裂く。そして、そのままあたしは、放物線を描いて水の中に落ちた。 水路の底の、すぐそばまで潜り込んだあたしは、自然に浮かび上がる。そして、水面に頭を出すと。 左の脇腹を押さえたウンディーネが、船上からものすごい表情、それこそ敵を威嚇する猛獣のような顔であたしを睨んでいた。直後、ウンディーネは船の端に足をかけ、こちらに落ちてくるように前傾すると、脚のバネで船体を蹴り、あたしに向かってきた。 やば! あたしはとっさに潜る! すんでのタイミングだった。ものすごい泡を立てて、あたしの背後にウンディーネが突っ込んできた。 そのままバタ足で船の下をくぐり、あたしはその場を離脱する。そして浮き上がり、ハンナたちがいた通りの対岸、その下まで行く。振り返ると。 バシャバシャと豪快に飛沫(しぶき)を立てて、ウンディーネが、もがいていた。 うん。前の周回通り、こいつはカナヅチだわ。 あとは、どうにか、上(うえ)に上(あ)がれないかな?なんだけど。 「!?」 なんか、殺気っぽいものが、上から降ってきた。思わず上を見ると。 「えッ!? 何あれ!?」 一見すると、砲丸っぽいもの。一見しなくても砲丸っぽいもの。そいつは放物線を描いて、対岸からこっちに向かって飛んでくる。誰かが投げてきたんだ! 誰が投げたかなんて考えるより先に、あたしは壁を蹴って、それをかわす。 背後で砲丸が着水……というより、墜落した音を聞いた時、目の前にバチャバチャと水音を立てて、もがいているウンディーネがあたしを見て、ニヤリとするのが見えた。 「あ、やべッ!」 まるであたしの方からウンディーネに飛び込んでいくような体勢だ。でも、水の中じゃあ、思うように動けない。だから、あわててストップをかけようとしても、どうにもならない。 あたしが手で“逆噴射”をかけようとバタバタしてると、ウンディーネが右手であたしの服の襟をつかみ、自分の方に引き寄せる。それと同時に、左手に逆手(さかて)に持った短剣を振り下ろそうと、構えた。
あたし、大ピンチじゃん!
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