あたしはガブリエラのところまで走った! 結構、距離がある。っていうか。 「百メートルぐらい、あるんじゃないの? どうなってんの、あんなに投げられるなんて!?」 あたしに、こんな腕力があるわけがない。ということは、もしかして、巨人ユミルの力、とか? そんなことを思いながら走っていると、不意に視界の端に、なにかが入った……ような気がした。 とっさにそっちを見ると、矢のようなものが飛んでくるところだった。 「うわっ! あぶなッ!!」 あたしは急制動をかけて、のけぞる。カキン!なんて音をさせて、矢が煉瓦(れんが)造りの建物の壁に刺さる。 「お嬢さま、大丈夫ですか!?」 あたしのうしろを走っていたハンナが、あたしに声をかける。 「ええ、なんとか」 ふと、壁に刺さっているものを抜いて確認した。 「短くて、しかも半分のところから切ってあって、先端は矢羽根の付いた針になってる。……これって、サラマンダーの使うクロスボウの矢だわ!」 あたしは水路の向こう側を見る。でも、誰もいない。建物の窓がいくつか開いてるけど、人影はない。いや、正確に言うと、ここで始まったチャンバラを、窓枠に隠れながら見てる感じだから、誰がサラマンダーか、わからない。 「……っと、ガブリエラ!?」 あたしがブン投げたウンディーネに衝突されて、ガブリエラが倒れたんだったわ! 水路の向こう側に注意を払いながら、あたしは駆け出す。すると。 ガブリエラに向けて剣を振りかぶっていたリタが、突然、振り返る。そして、剣を振り下ろした。金属音がして、何かが落ちる。あたしの眼には短剣に見えた。 「このぉぉぉぉぉ!」 リタのところまで来たあたしは、叫びながら、思い切り蹴りをくれてやった! 向こうは、あたしに気づくのが少し遅れて、振り返ったところをあたしに蹴り飛ばされる。倒れこそしなかったけど、それでも、体勢は乱れた。 「大丈夫、ガブリエラ!?」 へたっているガブリエラに手を伸ばそうとした時。 「お嬢さま!」 と、ハンナの声がした。あたしの視界の端にも入った。ガブリエラと同じように地面に倒れ込んでいたウンディーネが、あたしに短剣を向けてきていたのだ。その刃はガブリエラが剣で弾いた。 弾かれた勢いを利用して、地面に転がったウンディーネはそのままゴロゴロと転がって起き上がり、あたしに向かおうとしたけど、ハンナがそれを阻む。殺気を感じて振り返ると、リタがあたしに剣を振り下ろそうとしているところだった。 あたしは、ほとんど本能的に右腕を伸ばす。さっきみたいに、また腕に「何か」が流れる感じがあったかと思うと、あたしが突き出した短剣と打ち合ったリタが、 「アッ!?」 と声を上げて、剣を後方に振り飛ばした。まるで、あたしの剣の勢いに弾かれて、手に持った剣が飛んでいったように見えた。 実際、あたしにも突き出した右腕のスピード、メチャメチャ速かったのが、わかった。……これ、もう確定よね、巨人の力だわ。 立ち上がったガブリエラがリタに向かって剣を振るう。それを軽やかなステップで後退したリタは、左の前腕を覆っている装甲に何かをして、そこから短剣よりは長めで細めの剣を出した。そしてそれを投げつけてガブリエラを遠ざけると、その隙に自分の剣を拾う。 あたしは、あたしで、リタの様子に注意を払いながら、ハンナをジャンプで飛び越してきたウンディーネの刃を弾き、時折、蹴りで牽制する。すると、あたしから距離を取る。 ウンディーネがあたしから離れたかと思ったら、こっちに向かってステップを踏んでジャンプした。うわ、速い! なんて思ってたら、両脚をたたみ、気合いをかけてあたしに向かい、近づくやいなや、一気に右脚を突き出した。 あたしは一応、両腕をクロスさせてその蹴りを防いだけど、あの壁に足跡を付ける脚力、そして一気に足を伸ばした際のバネ、まるでミサイルが直撃したかのような衝撃に(いや、ものの喩えだよ?)あたしは吹っ飛ばされた。 そして、何者かに背中からぶつかって、石畳にその何者かもろとも倒れた! 「いててて……」 ボヤキながら起き上がり、誰をあたしの下敷きにしたんだろうと振り返ると。 「うがっ!? リタ!?」 リタだった。
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