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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第12回   サラマンダーの奇襲!?
 あたしはガブリエラのところまで走った! 結構、距離がある。っていうか。
「百メートルぐらい、あるんじゃないの? どうなってんの、あんなに投げられるなんて!?」
 あたしに、こんな腕力があるわけがない。ということは、もしかして、巨人ユミルの力、とか?
 そんなことを思いながら走っていると、不意に視界の端に、なにかが入った……ような気がした。
 とっさにそっちを見ると、矢のようなものが飛んでくるところだった。
「うわっ! あぶなッ!!」
 あたしは急制動をかけて、のけぞる。カキン!なんて音をさせて、矢が煉瓦(れんが)造りの建物の壁に刺さる。
「お嬢さま、大丈夫ですか!?」
 あたしのうしろを走っていたハンナが、あたしに声をかける。
「ええ、なんとか」
 ふと、壁に刺さっているものを抜いて確認した。
「短くて、しかも半分のところから切ってあって、先端は矢羽根の付いた針になってる。……これって、サラマンダーの使うクロスボウの矢だわ!」
 あたしは水路の向こう側を見る。でも、誰もいない。建物の窓がいくつか開いてるけど、人影はない。いや、正確に言うと、ここで始まったチャンバラを、窓枠に隠れながら見てる感じだから、誰がサラマンダーか、わからない。
「……っと、ガブリエラ!?」
 あたしがブン投げたウンディーネに衝突されて、ガブリエラが倒れたんだったわ!
 水路の向こう側に注意を払いながら、あたしは駆け出す。すると。
 ガブリエラに向けて剣を振りかぶっていたリタが、突然、振り返る。そして、剣を振り下ろした。金属音がして、何かが落ちる。あたしの眼には短剣に見えた。
「このぉぉぉぉぉ!」
 リタのところまで来たあたしは、叫びながら、思い切り蹴りをくれてやった! 向こうは、あたしに気づくのが少し遅れて、振り返ったところをあたしに蹴り飛ばされる。倒れこそしなかったけど、それでも、体勢は乱れた。
「大丈夫、ガブリエラ!?」
 へたっているガブリエラに手を伸ばそうとした時。
「お嬢さま!」
 と、ハンナの声がした。あたしの視界の端にも入った。ガブリエラと同じように地面に倒れ込んでいたウンディーネが、あたしに短剣を向けてきていたのだ。その刃はガブリエラが剣で弾いた。
 弾かれた勢いを利用して、地面に転がったウンディーネはそのままゴロゴロと転がって起き上がり、あたしに向かおうとしたけど、ハンナがそれを阻む。殺気を感じて振り返ると、リタがあたしに剣を振り下ろそうとしているところだった。
 あたしは、ほとんど本能的に右腕を伸ばす。さっきみたいに、また腕に「何か」が流れる感じがあったかと思うと、あたしが突き出した短剣と打ち合ったリタが、
「アッ!?」
 と声を上げて、剣を後方に振り飛ばした。まるで、あたしの剣の勢いに弾かれて、手に持った剣が飛んでいったように見えた。
 実際、あたしにも突き出した右腕のスピード、メチャメチャ速かったのが、わかった。……これ、もう確定よね、巨人の力だわ。
 立ち上がったガブリエラがリタに向かって剣を振るう。それを軽やかなステップで後退したリタは、左の前腕を覆っている装甲に何かをして、そこから短剣よりは長めで細めの剣を出した。そしてそれを投げつけてガブリエラを遠ざけると、その隙に自分の剣を拾う。
 あたしは、あたしで、リタの様子に注意を払いながら、ハンナをジャンプで飛び越してきたウンディーネの刃を弾き、時折、蹴りで牽制する。すると、あたしから距離を取る。
 ウンディーネがあたしから離れたかと思ったら、こっちに向かってステップを踏んでジャンプした。うわ、速い! なんて思ってたら、両脚をたたみ、気合いをかけてあたしに向かい、近づくやいなや、一気に右脚を突き出した。
 あたしは一応、両腕をクロスさせてその蹴りを防いだけど、あの壁に足跡を付ける脚力、そして一気に足を伸ばした際のバネ、まるでミサイルが直撃したかのような衝撃に(いや、ものの喩えだよ?)あたしは吹っ飛ばされた。
 そして、何者かに背中からぶつかって、石畳にその何者かもろとも倒れた!
「いててて……」
 ボヤキながら起き上がり、誰をあたしの下敷きにしたんだろうと振り返ると。
「うがっ!? リタ!?」
 リタだった。


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