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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第10回   常識を超えた闘い
 前、見た時もそうだけど、ウンディーネの脚力は本当にすごい。人間って、火事場のバカ力ってヤツがあって、普段の五、六倍の力が出せる……言い換えたら、そのぐらいの力を普段は抑えてるっていうけど。
「うわっ!」
 あたしは石畳(いしだたみ)に転がって、飛びついてきたウンディーネを避(よ)ける。
 絶対に人間が出せるスピードを超えてるわ、あれ!
 でも。
 あたしには、それを的確に捉えることが出来るのよね。方向転換してきたウンディーネがまたこちらに飛びついてきたけど、あたしはそれを身を翻して避けた。
「その身のこなし、すごいです、お嬢さま!」
 あたしの隣に来て、背中合わせになったハンナが言った。こうやって背中合わせになったら、とりあえずだけど背後から襲われる心配はないわ。
 あたしは驚いてるハンナに聞いた。
「前もここでの闘いで、驚いてたけど、あたしの動き、どう見えてるの!?」
「え? 前も!? どういう意味ですか!?」
 ハンナがウンディーネの短剣を弾いた金属音がして、直後、ハンナがあたしから離れた。ウンディーネの勢いを殺しきれずに、吹っ飛ばされたって感じだ。あのスピードで躍りかかられたら、吹っ飛ばされるわね。
 それはともかく。
「ああ、ゴメン、今のは言い間違い!」
 前の周回で、だったんだけど、そんなこと説明しているヒマ、ないし。
 またウンディーネが飛びついてきたけど、その動き、あたしにはハッキリと見えてるから、あたしは短剣で勢いを殺せる体勢で短剣を弾く。ウンディーネが悔しそうに顔を歪めるのが見えた。
 ハンナがまた、あたしの背中に自分の背中をピッタリくっつけて、言った。
「まるで、相手の動きを読んでいるかのような、予知しているかのような、そんな動きをしていらっしゃいます!」
 予知?
 その時、昨夜(ゆうべ)ゴットフリートさんが言ってたのを思い出した。

「サー・ハインリヒが言った『ユミルの力を引き出せる』という話だが、先日、卿(きょう)からもらった手紙にそんなことが書いてあった。それについて、シルフとの決闘のときのことを聞き、私は直感的に思ったのだ。ミカ……アストリットは『ユミルの眼』が使える、とな」

「巨人ユミル、ユミルは巨人……。そうか、高いところから見ると人が何処(どこ)へ、どんな風に向かうか、見えるみたいに、相手の動きが読めるんだ……!」
 なんか、それも違うんじゃないかって思ったけど、あたしの頭じゃこういう理解しか出来ない。
 でも!
「このアドバンテージは、活(い)かさないと!」
 あたしはウンディーネを見る。今度は、直感的に理解するっていうよりは、なんとなくだけど、相手の動きが頭の中に浮かんだ気がした。
「そこねッ!?」
 あたしはウンディーネが来そうな方向を予測して身をひねり、それをかわす位置に来て、すぐさま蹴りを放った。
「……ッンなッ!?」
 驚愕の表情を浮かべ、ウンディーネがあたしに蹴り飛ばされる。
 二度三度、石畳に転がって、その勢いを利用して起き上がったウンディーネが、ものすごい憎悪を浮かべた表情であたしを睨んだ。
 これは、相手のプライドを思い切り傷つけた、って感じだわ。
 ウンディーネがまたあたしにダッシュしてきた。でも、あたしにはその動きが目で追えてるし、どこに向かって来るか、大体わかる。だから、またあたしはそれをかわして、今度は短剣で斬りかかった。
 でも、相手はプロ、かろうじてその刃をかわす。その時に体勢が乱れた。その隙を突いて、ハンナが斬りつける。さすがにそれは避けられず、ウンディーネの右の肩口をハンナの刃がかすめた!
「グッ!?」
 ウンディーネはとっさに身を屈め、低姿勢でそこからダッシュし、離脱する。
 土煙を立てて低姿勢で停止したウンディーネは、右脚を支点にして百八十度方向を変えてこちらを見る。
 ウンディーネの右肩から、血が流れ出し、持った短剣の切っ先から紅い雫(しずく)が石畳に垂れ落ちていた。かすめただけに見えたけど、思った以上にハンナの短剣は、深く食い込んでいたのかも知れない。
 血で滑ると思ったのか、ウンディーネは短剣を左手に持ち替える。そして。
「!? えっ!? なに!?」
 ウンディーネが妙な角度をつけてジャンプした。どこへ行くのか、と思ったら、ウンディーネは近くの建物の壁めがけてジャンプしたのだ! そして十数メートルの高さに足をつけると、そこから壁にボコボコと足跡型の穴をうがちながら、壁を走り下りてきた! もう、火事場のバカ力とか、そんなんじゃない! あんな芸当、人間に出来ることじゃない!
 びっくりしてるあたしやハンナを睨みながら、ハンナがこちらに躍りかかってきた!
 ハンナの頭上を飛び越え、ウンディーネが迫る!
 あたしはほとんど感覚的な動きで右腕を伸ばす。その瞬間、右腕に「何か」が流れた感覚があったけど、それを無視し、あたしは伸ばした右腕でウンディーネの左腕を絡める。
 そして。
「こぉぉぉなくそぉぉぉ!」
 ウンディーネを振り回すように、ブン投げた。
 やった、って思ったんだけど。
「!? 危ない、ガブリエラ! 避けて!!」
 ウンディーネを投げた先には、リタと交戦中のガブリエラがいた!!


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