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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第二部〔再掲〕 作者:ジン 竜珠

第1回   異世界から来たんです
 なんだか、空気が微妙なものになってる。みんな、困ったような顔を見合わせた。
 口を開いたのは、ゴットフリートさんだ。
「コマツザキミカ、というのだね?」
「はい」
「ええと、君は、何処(どこ)の国の人かな?」
「日本……ジャパンです」
 ジャパン、で通じるよね固有名詞だし。それに、ここって異世界だもん。
「ジャパン? ……ああ、ヤーパンか」
「へ? ヤーパン?」
 ゴットフリートさんの言葉にあたしが間抜けな受けを返したあとを、ハインリヒが継いだ。
「なるほど、『世界の記述』に記載のあった、黄金の国か。へえ」
 なんだか、感心したような感じで、あたしを見てる。いやいや、黄金の国とかって、それ大ウソだから。ていうより。
「黄金の国? ちょっと待って、それってマルコ・ポーロの……」
 ハインリヒが頷く。
「ああ、彼の本・『世界の記述』に記されている」
 世界の記述? 東方見聞録じゃなくて? なるほど、「ラグナロク」を「神々の黄昏」って表現してなかったりしたから、この辺がパラレルワールドと、あたしが元いた世界との違いってことか。
 ヴィンが、ちょっと困ったような表情であたしを見る。
「すみません、コマツザキミカで一つの名前、でよろしいですか?」
「え? ううん、小松崎が苗字で、未佳が名前ね」
 ああ、そうか、ひと続きだとしたら、名前が長くなるんで、困ってたのか。
 マクダレーナさんが頷く。
「そう。貴女の国ではファミリーネームが先に来るのね。では、ミカさん、で、よろしいかしら?」
「ええ、そう呼んでくださっても。なんなら、未佳って呼び捨てでも」
 ハインリヒたちがお互い顔を見合わせ、頷いて、ハインリヒが言う。
「じゃあ、君のことは、今後『ミカ』と呼ぼう。……では、ミカ、君は死んで甦ったあと、その直前の記憶を引き継げている。間違いないね?」
「ええ。直前どころか、数回分、覚えてるけど?」
 ハインリヒが「なるほど」と頷いている。今度はゴットフリートさんがあたしに聞いた。
「さっきも言ったが、私は記憶を引き継げなくなっている。私の施術に誤りがあったのかも知れないが、もう一つ、考えられることがある。それは君が、こことは別の時間、空間から来た、という可能性だ。記憶は術を施された者に優先して、引き継がれる。もし君が別の時空から来たのなら、時を巻き戻る際、そこで時間的空間的な断絶が起こるから、私は記憶を引き継げない。どうかな、君にその自覚があるかな?」
 あたしは少し考え、自分の中の感覚をチェックする。そして答えた。
「ええ、多分、あたしは、こことは別の世界から来たんだと思います」
「そうか。やはりな」
 と、ゴットフリートさんが何度も頷いている。
「……そうか、それで……」
 と、ハインリヒがなんだか一人で納得してる。と思ったら、あたしを見た。
「ミカ、君は何度か私を平手打ちしている。記憶はあるか?」
 ああ、あれかあ。
「いや、ほんと、ごめんなさい、まさか。回を追うごとに、ていうか、二回だけど、吹っ飛び方がすごくなるなんて」
 やだ、ほっぺたがメッチャ熱いわ。あたしは、穴があったら入りたい心境で、ハインリヒに頭を下げた。
 それを聞いて、ハインリヒが笑顔になる。
「なるほど、確かに君は記憶を持ち越せるようだ。気にしなくていい、吹っ飛んでいるのは、私が勢いを相殺(そうさい)するために、自ら身をひねって飛んでいるのだ。それでも、カバーしきれないほどなんだがね」
 と、苦笑する。
 え? 勢いを相殺? どゆこと?


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