なんだか、空気が微妙なものになってる。みんな、困ったような顔を見合わせた。 口を開いたのは、ゴットフリートさんだ。 「コマツザキミカ、というのだね?」 「はい」 「ええと、君は、何処(どこ)の国の人かな?」 「日本……ジャパンです」 ジャパン、で通じるよね固有名詞だし。それに、ここって異世界だもん。 「ジャパン? ……ああ、ヤーパンか」 「へ? ヤーパン?」 ゴットフリートさんの言葉にあたしが間抜けな受けを返したあとを、ハインリヒが継いだ。 「なるほど、『世界の記述』に記載のあった、黄金の国か。へえ」 なんだか、感心したような感じで、あたしを見てる。いやいや、黄金の国とかって、それ大ウソだから。ていうより。 「黄金の国? ちょっと待って、それってマルコ・ポーロの……」 ハインリヒが頷く。 「ああ、彼の本・『世界の記述』に記されている」 世界の記述? 東方見聞録じゃなくて? なるほど、「ラグナロク」を「神々の黄昏」って表現してなかったりしたから、この辺がパラレルワールドと、あたしが元いた世界との違いってことか。 ヴィンが、ちょっと困ったような表情であたしを見る。 「すみません、コマツザキミカで一つの名前、でよろしいですか?」 「え? ううん、小松崎が苗字で、未佳が名前ね」 ああ、そうか、ひと続きだとしたら、名前が長くなるんで、困ってたのか。 マクダレーナさんが頷く。 「そう。貴女の国ではファミリーネームが先に来るのね。では、ミカさん、で、よろしいかしら?」 「ええ、そう呼んでくださっても。なんなら、未佳って呼び捨てでも」 ハインリヒたちがお互い顔を見合わせ、頷いて、ハインリヒが言う。 「じゃあ、君のことは、今後『ミカ』と呼ぼう。……では、ミカ、君は死んで甦ったあと、その直前の記憶を引き継げている。間違いないね?」 「ええ。直前どころか、数回分、覚えてるけど?」 ハインリヒが「なるほど」と頷いている。今度はゴットフリートさんがあたしに聞いた。 「さっきも言ったが、私は記憶を引き継げなくなっている。私の施術に誤りがあったのかも知れないが、もう一つ、考えられることがある。それは君が、こことは別の時間、空間から来た、という可能性だ。記憶は術を施された者に優先して、引き継がれる。もし君が別の時空から来たのなら、時を巻き戻る際、そこで時間的空間的な断絶が起こるから、私は記憶を引き継げない。どうかな、君にその自覚があるかな?」 あたしは少し考え、自分の中の感覚をチェックする。そして答えた。 「ええ、多分、あたしは、こことは別の世界から来たんだと思います」 「そうか。やはりな」 と、ゴットフリートさんが何度も頷いている。 「……そうか、それで……」 と、ハインリヒがなんだか一人で納得してる。と思ったら、あたしを見た。 「ミカ、君は何度か私を平手打ちしている。記憶はあるか?」 ああ、あれかあ。 「いや、ほんと、ごめんなさい、まさか。回を追うごとに、ていうか、二回だけど、吹っ飛び方がすごくなるなんて」 やだ、ほっぺたがメッチャ熱いわ。あたしは、穴があったら入りたい心境で、ハインリヒに頭を下げた。 それを聞いて、ハインリヒが笑顔になる。 「なるほど、確かに君は記憶を持ち越せるようだ。気にしなくていい、吹っ飛んでいるのは、私が勢いを相殺(そうさい)するために、自ら身をひねって飛んでいるのだ。それでも、カバーしきれないほどなんだがね」 と、苦笑する。 え? 勢いを相殺? どゆこと?
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