生きてたって、いいことなんか何にもない。 頑張ったって、何一つ報われない。 大学生活もあと一年だけど、社会に出たって、たかが知れてる。 四月一日、午後九時。僕はある十五階建てのビルの屋上に来ていた。 鉄柵を乗り越え、幅五十センチほどの足場に立つ。 僕は、今日、これからこのビルから飛び降りて死ぬ。 死後の世界がどうとか、そんなのはよくわからない。 でも、このまま生き続けるよりは、マシな世界だと思う。 僕は屋上から周囲を見渡す。 今日は風が強いけど、街のネオンは変わらずキラキラしていて、幻想的だ。 「あの光の下(もと)で残業してる人、バイトしてる人、そして夢を実現させて頑張っている人や愛を語らっている人……いろいろ、いる。仕事で苦しんでいる人も、希望に満ちあふれている人も、等しく同じ光に照らされてる。でも僕は……」 夜空を見上げる。 月も星も見えない。 「……ははは、闇か、僕を包んでいるのは。何にもない、今の僕にピッタリだ。……それじゃあ」 僕は目線を戻して、遠くを見やる。そして目を閉じ……。
前に倒れ込む様にして、飛び降りた。
直後。
「コケェェェェェェェェ!!」
何かが僕の脇腹に直撃した!! 「どわあっっはァァァァッ!?」
その「何か」に飛ばされ、僕はあるビルの屋上に墜落した。 「いててて……」 脇腹をさすりながら起き上がると、僕の視界に入ったのは人間ほどもある、巨大なニワトリ。 「え? ええええっ!?」 ちょ、ちょっと待って待って!? え? ニワトリ!? ニワトリは首を「カク、カク」と動かして、そして「カク」と僕を見下ろした。 「あなた、わたくしを覚えていらして?」 「女の人の声で、ニワトリが喋ったーーーーッ!?」 「いいから! 覚えてるの、わたくしのこと!?」 ちょっとイラつき気味にニワトリが言った。 「えっと、すみません、覚えてません、ていうか、知りません」 知らないよ、こんな巨大なニワトリ。
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