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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第9回   ハンナからの誘い
 アメリアを倒してから三日が経過した。
 今のところ、お屋敷に殺し屋がいる気配はない。
 残る二人、ウンディーネとサラマンダー。あたしを狙ってくるかも知れないし、そうじゃないかも知れない。
 願わくは、あたしのことを狙っていませんように。
 そう思いながら、あたしは眠りについた。

 朝食を終え、あたしは自室に戻る。
 そしてベッドに腰掛け、自分の身の上について考えた。
 名前は小松崎(こまつざき)未佳(みか)、十六歳で、高校二年生。通っているのは女子高だけど、俗にいう「お嬢さま学校」っていう訳じゃなくて、まあ、普通だと思う。
 あたしの学校での成績は、全体的には中ぐらいだけど、音楽の成績はいい。だから将来は、そっち系に進むことが出来たらいいな、って思ってる。
「ふう。本当に、あたし、どうなってるのかな。転生だったらもうどうにもならないけど、転移だったら、どうにか帰る方法を見つけて」
 そこまで考えた時、ドアがノックされた。
「どうぞ」
『失礼します』
 入ってきたのは、あたしのお世話をしてくれてるハンナだ。あたしのお世話をしてくれているのは、数人いるけど、ハンナがその中心だ。いわゆる「チーフ」だ。年齢(とし)は二十代半ば、って感じかな?
「お嬢さま、わたくしもご一緒致しますので、お散歩など、いかがですか?」
「え? でも、今、あたし……」
 命、狙われてるし。
 改めて言葉にすると、実感湧かないワードよね。婚約者から婚約解消を言い渡されたと思ったら、その寝取った女に復讐しないとならなくて、その相手も、返り討ち&先回りを企んでる。
 まったく、迷惑千万だわ。正直、あの婚約者の、えーと、アイーンリヒだっけ、バイーンリヒだっけ? ……ダメだ、覚えてないや。とにかく、その婚約者のことなんて、あたし、なんとも思ってないし。
 一応、だけど、あたし、元婚約者のことはどうでもいいですー、みたいなこと、グートルーンって女性に伝えてもらうように頼んだんだけどなあ。伝わってないのかも知れない。
 それはおいといて。
 狙われている以上、出歩かない方がいいんじゃないかなあ?
 ハンナは笑顔で言った。
「お嬢さま、わたくし、腕には自信がございます。アメリアとも、しのぎを削るほどだったんですよ?」
 その言葉が終わったかどうか、の瞬間、あたしの喉元にレイピアが突きつけられていた。
 うそ!? ハンナはあたしの五メートルぐらい、向こうにいたはず!? それに、いつの間に手にそんなものを!?
 ハンナが微笑んで言った。
「いかがですか? 信用いただけましたか、わたくしの腕前を?」
 あたしは、自動的に頷いていた。
 微笑んだまま頷き、あたしの喉元の剣を下げると、ハンナはある武器をあたしに手渡してきた。
「お嬢さま。これは一見すると普通の日傘ですが、こうすると」
 と、ハンナは傘の持ち手をひねる。すると、スルスルと抜けて、細身の剣が現れた。
「ソード・ステッキを改造したものです。万が一の時には」
 あたしはそれを受け取った。
 万が一、なんて、ないに越したことはないけれど……。


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