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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第73回   明かされ始めた真実、なのよ
 その日、ムッチャクチャしんどい看護学を終えたあと、ハンナの春闘ばりの演説を受けたんで、あたしが話を通してお父様から報酬アップの約束を取り付けた時。
 ヘルミーナさんが食堂に入ってきて、言った。
「失礼いたします。ご主人様、フォン・フォルバッハ家嫡男、ハインリヒ様がご主人様にお目通りを願っておりますが、いかがいたしましょう?」
 お父様が頷いた。
「うむ、来たか。構わない、通しなさい」
「かしこまりました」
 一礼してヘルミーナさんが食堂を出る。
 しばらくして軍服姿のハインリヒと、執事さんが入ってきた。
「これは、失礼いたしました。お食事中でしたか。では、別の部屋でお待ちいたし……」
 ハインリヒの言葉を制し、お父様が笑顔で言った。
「構わんよ。よかったら、卿(けい)も食卓を囲まないかね?」
 驚いた表情でハインリヒが「畏れ多い」と断る。まあ、そうだろうなあ、舞踏会なんていう公式の場であたしを振っちゃったんだもの、ここじゃ、どんな顔していいやら。
「気にしないでくれ。先日も手紙を出した通り、予定通りに事が運んでいるのだ」
 ……え? 予定通り? 何が?
 執事さんが「ここはご厚意に甘えましょう」なんてことを言うと、ハインリヒも「それではご厚意に感謝いたします」なんて言って、食卓の一角に着いた。
 急きょ、人が増えたにも拘わらず、ちゃんとハインリヒの分も用意されてた。どうやら、この時間に来てもいいように、と、お母様が配慮していたらしい。


 食事を終え、食後のコーヒーやら紅茶やらが並べられた。ハインリヒがお父様を見る。
「シーレンベック卿、出来れば事情を知っている人間だけで話を進めたいのですが」
「心配ない。マクダレーナも、ヴィンフリートも、知っている」
 ハインリヒの視線を受け、お母様とヴィンが頷く。
「そうですか。それでは、どの辺りからお話を?」
 ハインリヒの言葉に「うむ……」と言ってから、お父様があたしを見た。
「アストリット。私の祖母ラウラはフォン・ブルクミュラーの家から我が家に嫁いできた。だが、元はフォン・フォルバッハの生まれで、訳あってブルクミュラー侯の家で育てられたのだ」
「そうなの?」とは言っておいたけど、正直、誰が誰やら、さっぱりだわ。
「うむ。ラウラの母であるヒルデガルト・フォン・フォルバッハは、双子の女の子を産んだ。当時は『双子は家を割る』という迷信があってな、家名にとって禍根を残さぬために双子の片方、ラウラをフォン・ブルクミュラーの家に養女に出したそうだ。だが、その際、ヒルデガルトから、ある魔術書を託されたらしい」
「魔術書?」
 頷き、お父様は続ける。
「その魔術書だが、不思議なことにブルクミュラーの家では興味を持たなかったらしい。我が家に嫁いでくる時に、それを持参していた」
 ハインリヒが捕捉するように言った。
「おそらく『所有権』をラウラ殿に固定していたのでしょう。それにより、フォン・ブルクミュラーの人間の、誰一人として興味を抱かなかったのだと思われます」
「へえ、あるんだ、そういうことって?」
 あたしが聞くと、ハインリヒが答えた。
「重要な物を第三者に奪われないようにする魔術だ。だが複雑な上、成功率が驚くほど低い魔術で、騎士物語(ロマンス)にさえ、詠(うた)われることのないマイナーな魔術だよ」
「ふうん。そういう魔術があるんなら、泥棒対策はバッチリよね」
「ああ、確かに」
 と、ハインリヒが柔らかい笑みを浮かべる。
 あ、この人、こういう笑顔も親しみやすさがあって、素敵だな。
「話を進めるぞ、アストリット?」
 お父様が言ったんで、あたしたちは黙って、お父様を見た。
「その魔術書には、ある、驚くべき魔術が記されていた」
「驚くべき魔術?」
 復唱したあたしにお父様が頷いた。
「不慮の死を遂げた時、時間を遡って甦る魔術、『イグドラシルの秘法』だ」


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