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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第7回   対抗
 自分の部屋でベッドに寝転がり、壁を見る。
「……紐がある。あそこにも、あそこにも……」
 あたしは紐を引っ張る。ちょっとして、ドアがノックされ、メイドさんがやって来た。なので、あたしはパジャマの収納場所を聞く。クローゼットからピンク色のパジャマを出して、メイドさんは一礼して部屋を出て行く。
「ここまで一致してると、デジャブ、っていうのとは違う気がするわ……」
 紐の位置、パジャマの位置、見事に一致。
「となると」
 あたしは記憶を検索する。明日の朝、朝食前にアメリアっていう武術系のメイドに、護身のお稽古をつけてもらう、ってことだったけど。
「実質的に、あたしの抹殺が目的だった。なんで、あたしを殺そうとするのか。ひょっとしたら、グートルーンっていう女の手先だったのかしら?」
 あたしはいろいろと考える。でも、今の時点で言えることはただ一つ。
「向こうが殺(や)る気なら、こちらも対抗策を練(ね)るだけよ」
 あたしは部屋をいろいろと探す。なにか、奇襲に使える武器はないだろうか? もしなければ、ヴィンに、適当な武器を用意してもらって……。
「あら? これって……」
 家捜ししている時、あたしは、ベッドの右手側と壁との間に隙間があるのに気づいた。寝た時に、うまく手を滑り込ませられる位置だ。
「なるほど……ね。さすがはお嬢さま、ベッドに寝ている時に襲われても大丈夫なように、か」
 あたしはその武器を手に取った。

 翌朝、メイドさんが起こしに来る前に目が覚めたんで、起こしに来るのを待っていた。ドアがノックされ、部屋に入ってきたメイドさんは、あたしが起きているのを見て驚いていたけど(つまり、「アストリットお嬢さま」は「お寝坊さん」という認識なわけね、ここのお屋敷では)、アメリアによる鍛錬の話があって、あたしは裏庭へ行くことになった。
 アメリアは、自分の剣・レイピアを手に言った。
「まずは、オーソドックスに剣での攻撃を想定します。私が剣で突き込みますので、お嬢さまはその剣で私の剣を弾いてください」
「わかったわ」
 あたしが頷くと、アメリアも頷く。そして、柔らかい笑顔を浮かべ、言った。
「お嬢さまの剣も、私の剣も、刃が落としてある訓練用の剣です。それに私の方は寸止め致します。ですが、剣の重さは本物と同じです」
 確かに重い。
 あたしは剣を構える。
 アメリアが頷く。
「相手は奇襲をかけてくるでしょうけど、とりあえず、剣筋がわかるように、ゆっくりと剣を突き出します」
 あたしが頷くと、アメリアが「では」と言って、剣をくるくると回して見せた。それを見ながら、あたしは、集中した。この時点までデジャブが一致してる以上、アメリアがあたしを殺しに来るのは間違いないと思うけど、この部分だけ、違うっていう可能性も残っている。慎重にかからないといけない。
 そして、鍛錬が始まった。確かに、アメリアは、ゆっくりと剣を出してくるんで、どこを狙っているか対応も出来る。ていうか、剣筋も一致しているように思う。
 何度か、剣を弾いた時。アメリアの剣があたしの左肩を狙ってきた。

 ………………ここッ!

 ものすごくゆっくりと、それこそスローモーションになったんじゃないかっていうほど、その剣筋はゆっくりに見えた。人間の集中力って、極限まで行くと、こんな風に認識できるんだな。走馬灯っていうのも、こんな感じなのかしら?

 ……いけない、縁起でもないわ。

 あたしの左肩を狙うかに思えたアメリアの剣は、素早く外向きの弧を描いて左肩への軌道から逸(そ)れ、あたしの右の太ももを狙った!
「てやっ!」
 気合いをかけて、剣でアメリアのレイピアを弾く。
「……んなッ!?」
 明らかに狼狽してアメリアの表情が変わる。あたしは、得意げな笑みを浮かべて言ってやった。
「失敗したわね、あたしの暗殺」
 アメリアの表情がさらに変わる。……凶悪なものに。
 ……やばい、あたし、余計なこと言っちゃったかも?
「知ってたのね。それなら」
 一瞬でアメリアの剣が目の前に現れる。それをよけられたのは、動物(どうぶつ)的(てき)勘(かん)とか、本能とか、そういうものだったかも知れない。
 大きくのけぞったあたしは、そのまま仰向けに倒れた。目を見開き、口元に笑いを浮かべたアメリアが、一歩二歩と近づき、剣(レイピア)を逆手に持ってあたしの胸を刺し貫こうとした時!
 あたしは部屋から持ち出したフリントロックの拳銃を、ズボンの内側に作っておいたポケットから抜いた。
 引きつった顔のアメリアが、かすれた声で言った。
「そ、それ、は……」
 続きを言わせず、あたしは引き金を引く。
 轟音とともに吐き出された弾丸は、アメリアの胸の中央に命中し、彼女の胸に赤い花を咲かせる。
 アメリアはそのままの姿勢で、無言で仰向けに倒れ、動かなくなった。


※厳密には、この状態じゃあ、フリントロックは使えないんじゃあ……?


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