自分の部屋でベッドに寝転がり、壁を見る。 「……紐がある。あそこにも、あそこにも……」 あたしは紐を引っ張る。ちょっとして、ドアがノックされ、メイドさんがやって来た。なので、あたしはパジャマの収納場所を聞く。クローゼットからピンク色のパジャマを出して、メイドさんは一礼して部屋を出て行く。 「ここまで一致してると、デジャブ、っていうのとは違う気がするわ……」 紐の位置、パジャマの位置、見事に一致。 「となると」 あたしは記憶を検索する。明日の朝、朝食前にアメリアっていう武術系のメイドに、護身のお稽古をつけてもらう、ってことだったけど。 「実質的に、あたしの抹殺が目的だった。なんで、あたしを殺そうとするのか。ひょっとしたら、グートルーンっていう女の手先だったのかしら?」 あたしはいろいろと考える。でも、今の時点で言えることはただ一つ。 「向こうが殺(や)る気なら、こちらも対抗策を練(ね)るだけよ」 あたしは部屋をいろいろと探す。なにか、奇襲に使える武器はないだろうか? もしなければ、ヴィンに、適当な武器を用意してもらって……。 「あら? これって……」 家捜ししている時、あたしは、ベッドの右手側と壁との間に隙間があるのに気づいた。寝た時に、うまく手を滑り込ませられる位置だ。 「なるほど……ね。さすがはお嬢さま、ベッドに寝ている時に襲われても大丈夫なように、か」 あたしはその武器を手に取った。
翌朝、メイドさんが起こしに来る前に目が覚めたんで、起こしに来るのを待っていた。ドアがノックされ、部屋に入ってきたメイドさんは、あたしが起きているのを見て驚いていたけど(つまり、「アストリットお嬢さま」は「お寝坊さん」という認識なわけね、ここのお屋敷では)、アメリアによる鍛錬の話があって、あたしは裏庭へ行くことになった。 アメリアは、自分の剣・レイピアを手に言った。 「まずは、オーソドックスに剣での攻撃を想定します。私が剣で突き込みますので、お嬢さまはその剣で私の剣を弾いてください」 「わかったわ」 あたしが頷くと、アメリアも頷く。そして、柔らかい笑顔を浮かべ、言った。 「お嬢さまの剣も、私の剣も、刃が落としてある訓練用の剣です。それに私の方は寸止め致します。ですが、剣の重さは本物と同じです」 確かに重い。 あたしは剣を構える。 アメリアが頷く。 「相手は奇襲をかけてくるでしょうけど、とりあえず、剣筋がわかるように、ゆっくりと剣を突き出します」 あたしが頷くと、アメリアが「では」と言って、剣をくるくると回して見せた。それを見ながら、あたしは、集中した。この時点までデジャブが一致してる以上、アメリアがあたしを殺しに来るのは間違いないと思うけど、この部分だけ、違うっていう可能性も残っている。慎重にかからないといけない。 そして、鍛錬が始まった。確かに、アメリアは、ゆっくりと剣を出してくるんで、どこを狙っているか対応も出来る。ていうか、剣筋も一致しているように思う。 何度か、剣を弾いた時。アメリアの剣があたしの左肩を狙ってきた。
………………ここッ!
ものすごくゆっくりと、それこそスローモーションになったんじゃないかっていうほど、その剣筋はゆっくりに見えた。人間の集中力って、極限まで行くと、こんな風に認識できるんだな。走馬灯っていうのも、こんな感じなのかしら?
……いけない、縁起でもないわ。
あたしの左肩を狙うかに思えたアメリアの剣は、素早く外向きの弧を描いて左肩への軌道から逸(そ)れ、あたしの右の太ももを狙った! 「てやっ!」 気合いをかけて、剣でアメリアのレイピアを弾く。 「……んなッ!?」 明らかに狼狽してアメリアの表情が変わる。あたしは、得意げな笑みを浮かべて言ってやった。 「失敗したわね、あたしの暗殺」 アメリアの表情がさらに変わる。……凶悪なものに。 ……やばい、あたし、余計なこと言っちゃったかも? 「知ってたのね。それなら」 一瞬でアメリアの剣が目の前に現れる。それをよけられたのは、動物(どうぶつ)的(てき)勘(かん)とか、本能とか、そういうものだったかも知れない。 大きくのけぞったあたしは、そのまま仰向けに倒れた。目を見開き、口元に笑いを浮かべたアメリアが、一歩二歩と近づき、剣(レイピア)を逆手に持ってあたしの胸を刺し貫こうとした時! あたしは部屋から持ち出したフリントロックの拳銃を、ズボンの内側に作っておいたポケットから抜いた。 引きつった顔のアメリアが、かすれた声で言った。 「そ、それ、は……」 続きを言わせず、あたしは引き金を引く。 轟音とともに吐き出された弾丸は、アメリアの胸の中央に命中し、彼女の胸に赤い花を咲かせる。 アメリアはそのままの姿勢で、無言で仰向けに倒れ、動かなくなった。
※厳密には、この状態じゃあ、フリントロックは使えないんじゃあ……?
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