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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第62回   謎の騎士、登場!
 あたしは目をきつく閉じ、体を強ばらせた。次の瞬間!

「アウグッ!?」

 なにかが風を切る音がしたかと思うと、打撃音、そして悲鳴。そしてウンディーネは来ない。
 恐る恐る目を開けると、あたしの前に、一人の騎士がいた。フルフェイスの兜をかぶってるから、人相がわからないけど、軽装ともいえるヨロイを着ててもわかる、そのスリムなボディーラインは女性っぽい。そして、その騎士は、まるでどこからか飛んできて着地し、屈んだような体勢から、ゆっくりと立ち上がる。
「き、貴様、この私に蹴りを放つとは、邪魔をする気か……!?」
 苦しそうに絞り出したウンディーネの言葉には応えず、その女性騎士(デイム)は剣を抜き、構える。
 地面に這いつくばっていたウンディーネが、鬼のような表情になって立ち上がり、あたしたちを睨んで言葉を吐き出す。
「邪魔者は、排除するわ、クソがァッ……!!」
 そうして背を屈(かが)め……。
「ウッ!?」
 膝から崩(くず)れ、ウンディーネは片手を地に着いた。
「しまった、限界が来たか……!」
 震える脚で、ウンディーネは立ち上がろうとするけど、うまくいかず、片膝をついた。そこを狙って女性騎士が斬りかかった!
 やった、ウンディーネに勝った!
 あたしがそう思った時。
「……あ、そういえば」
 ふと何かを思い出し、それが何かを突き止めるより早く、あたしは振り向いて上を見た。一つの屋台の天幕に、一人の男がいる。妙に痩せてて、そのせいかひょろひょろと高く見える。そしてその男は、両手に何か持ってた。
 右手に持ったものは、液体っぽいものが入ったガラス瓶で、その口に火がついた何かが詰めてある。左手に持ったものは、よくわからないけど黒い粉っぽいものが入ってる。
 それを見た瞬間、あたしの脳裏に電撃的に記憶がよみがえった。
「そうか、あいつがアレを投げ込んで、ウンディーネを逃がしたんだ!」
 あたしはとっさに手に持った短剣を、男に投げつけた!
「ウグッ!?」
 本当はお腹(なか)を狙ったんだけど、短剣は男の左肩に刺さった。顔を歪めた男だったけど、それでも両手に持った瓶を、ウンディーネとあたしたちの間に投げつける。そして、ウンディーネとあたしたちとの間で、小さな爆発がいくつも起こった!
 とにかく煙が朦朦(もうもう)と立ちこめてて、何にも見えない。しばらく咳き込んでいると、少しずつだけど、風が流れて煙が吹き消されていった。

 煙が晴れた時、そこには、ウンディーネも、あの騎士もいなかった。


 その夜。
 あたしは、なかなか寝付けないでいた。なんていうか、昼のことで興奮してしまって、脳がギンギンに冴えてるんだと思う。
「ぐあぁぁぁああ〜。眠れないわ〜」
 あたしはベッドから起き上がる。
 そしてドアを開ける。ドアの横に待機していた女性騎士(デイム)がこちらに気づいて、笑顔で言った。
「どうかなさいましたか?」
「うん、ちょっと寝付けなくて。お屋敷の中、散歩してもいい、外には出ないから?」
「ちょっと待ってください、今、お供する者を……」
 あたしは苦笑を浮かべ、手をヒラヒラさせて言った。
「いいよぅ、お屋敷の中だもん、大丈夫だって」
「ですが……」
「大丈夫大丈夫。グルッと回って、部屋に戻るから」
 そのあともちょっと押し問答っぽいことをしたけど、結局、あたしに押し切られて、女性騎士(デイム)は散歩を許可してくれた。

 実はさぁ、気になってることがあるんだ。
 いろいろ状況が変わったせいか、見なくなっちゃったけど、例の白い影、お屋敷のどこに行ったんだろうって思ってたんだ。確かに広いお屋敷だけど、そもそも一部屋一部屋が広いから、部屋数は少ない。だから、一個一個、チェックしていけば、ひょっとしたら出会えるかも、なんて思ってる。

 一階に下りてまっすぐ廊下を歩き、突き当たりに来たあたしは左右を見渡す。左手の廊下を行くと騎士たちの詰め所、それから何に使ってるかわからない部屋が数室。右手は厨房、そして騎士たちや使用人たちのダイニング。その途中に、裏庭へ出るドア。
「左手の部屋か、右手か。左手に行っちゃうと、騎士に見つかるかも知れないから、右手か」
 あたしは右手への廊下を歩き始めた。


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