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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第61回   バザールでの闘い
 というわけで、あたしはバザールを楽しんでる……振りをしてる。
 だって、前回通りならウンディーネが襲ってくるし。それに、今回はパトリツィアっていう妙な「おまけ」つきだし。
「お嬢さま、賑やかで楽しいですね! ね、パトリツィア?」
 ハンナがパトリツィアに言うと、パトリツィアは「はい、楽しいです」とかって無表情で答える。
 ……「楽しい」っていう言葉は、無表情で言うもんじゃないと思う。
「お、お嬢さまも、楽しんでいらっしゃいますか?」
 ハンナが、若干引きつり気味の笑顔で、横から言ってきた。
「ええ、とても楽しいわ!」
 あたしは、明るく返答する。
 すると、斜めうしろからヨロイ姿のガブリエラが言った。
「そうですか、それなら……!?」
 言いかけて、ガブリエラは止める。なんだろうと思って振り返ると、ガブリエラは剣を抜いた。すごい、普通に大ぶりに抜くんじゃなく、ほとんど自分の前に向けて直線的に抜いた! あれなら、隣に人がいても剣が当たることはないわね。前に見た時も、すごいと思ったけど、やっぱりガブリエラって優秀な騎士なのかも!?
 ガブリエラは抜いた剣をそのまま、やっぱり最低限のモーションで上段に構え、振り下ろす。近くで、悲鳴が起こった。ガブリエラを見た人だろう。
 風の唸る音がして、あたしたちから遠ざかるように、なにかが地を滑る音がした。音の主(ぬし)は一人の女性。グートルーン・フォン・リヒテンベルク……ウンディーネだった。着ている服は前と同じ「くのいち」っぽい茶色の服。逆手(さかて)に持っているのは短剣(ダガー)。あたしたちの前方七、八メートルぐらいのところにいる。
 ここへ来て、人々の耳目が集まった。人々が、あたしたちを遠巻きにする。
 鋭い声でガブリエラが問う。
「貴様、何者だ!?」
「そっちのお嬢さまがご存じよ?」
 挑戦的な笑みを浮かべてグートルーンが言う。
「グートルーン・フォン・リヒテンベルクを名乗っていた女よ」
 あたしは前と同じく、わざとぶっきらぼうに言ってやった。
 この後のは、前と同じ。ウンディーネがジャンプして、あたしに向かってきた時だった。
「お嬢さま!」
 パトリツィアが、あたしの盾になるようなポジションにつく。そして、ガブリエラがその前に来て、ウンディーネの剣を弾いた。そのあとの立ち回りは、多分、前と同じだったと思う。前と違うのは、パトリツィアがことごとく、あたしの盾になったということ。あたしが背後を取られても、あたしを腕で押しのけるようにして前へ出る。有り難いんだけど……。

 巻き込んで、怪我させたり、殺されたりしちゃったら、申し訳ないわよ。あたしだったら、死んでもループできるし。

 だからといって、わざわざ死にたいわけじゃないんだから! 剣で刺されたり、矢で射られたら、メッチャメチャ痛いんだから!

 なんて思ってるうちに、ウンディーネの高速移動が始まった。ウンディーネ曰く「ゆみるのあし」。
 なに、それ?
 そして、風が唸る音がして、誰かが「上!」と叫ぶ。反射的にあたしは上を見る。短剣を構えたウンディーネが、落下してきていた。あたしは、やっぱり反射的に前で盾になっているパトリツィアを突き飛ばし、あたし自身はバックステップを踏み、後退する。
 爆撃でも起きたかのような土煙が起きて、あたしとパトリツィアの間に、ウンディーネが着地、ていうか、着弾した。その土煙を突き抜けて、ウンディーネが迫る! あたしは後退しながら、その刃を短剣で捌く。ウンディーネが向けてくる短剣をなんとか防げているけど、こっちは後退しながらだから、反撃どころじゃない。
 あたしが数歩下がったところで、ハンナが気合いもろとも、左手側から割り込んできた。それを右手に横飛びに飛んで避けると、ウンディーネはそのままあたしの右手側から突っ込んでくる。あたしが短剣を構えると、ガブリエラが気合いとともにウンディーネに斬りかかった。
 パトリツィアは、完全にあたしから遠く離れてる。本人からすると不本意かも知れないけど、あたしはホッとしてる。彼女を危険な目には遭わせられないし。
 ガブリエラの剣を防いだウンディーネは、あたしたちの五、六メートル先にいる。
「チッ、邪魔ねえ……」
 忌忌(いまいま)しそうにそう言うと、ウンディーネの姿が消えた。例の高速移動だ。そして、いきなりガブリエラの前に現れた! とっさのことで、ガブリエラも応じることが出来ず、ウンディーネに蹴り飛ばされてしまった。かなりの距離、飛ばされ、ガブリエラは露店の一つに背中から衝突し、苦鳴を上げて動けなくなってしまった。
 ハンナも応戦してるけど、ウンディーネに蹴り飛ばされ、露店の屋台に激突し、苦鳴を上げて動かなくなった。
 あたし自身に向かってくる時には、その剣の動きが見えるんだけど、第三者として見る時には、まったくわからない。それがなんだか、もどかしい。
「さてっ、と」
 と、ウンディーネがあたしを見る。
「アストリットお嬢さま、古来の習わしに則(のっと)って、復讐の先回りをさせていただきますわ」
 仰々しく頭を下げ、ウンディーネが短剣で襲いかかってくる。

 あ……。前回はスローに見えなかったけど、今度はうまく捌(さば)ける! 短剣だけじゃなく、どこへ行くのか、その動きも、目で追えてる!
 ウンディーネが悔しそうにしながら、短剣を振るう。
 よし! 今度は勝てる!
 そう思った時だった。
「お嬢さま、危ない!」
 パトリツィアが、あたしに向かってきて、ウンディーネとの間に割り込もうとした。
「危ない! こっちに来ないで、パトリツィア!」
 職務意識が強いのも、考えものだわ!
 あたしは半(なか)ば体当たりをするようにして、パトリツィアを遠ざける。反動で、あたしの体勢は乱れ、そのまま、つんのめるようにして、倒れ込んでしまった。
「! しまった!!」
 ウンディーネがジャンプして、あたしに飛びかかってきた!


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