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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第60回   さあ、バザールへ
 シェラは忙しいみたいで、その時はゆっくりお話しできなかった。
 そんで、ウンディーネが襲撃してくる日。その間(かん)、三日ほどあったんだけど、うまくはぐらかされた。曰く。
「今は、お教えできません。いずれ、ゆっくり」
 ………………………………。
 気になるっての。

 まあ、それはさておいて。
 ウンディーネ対策だけれど、前と同じでいいのよね。下手に場所とか、かえたりするとややこしいことになるし。
「ということは、バザールへ行くってことかあ。あたしから水を向けるの、変だし。えーっと、確か、書庫にいたらハンナから声かけられたんだっけ?」
 あたしは記憶をなぞりながら、書庫へ行く。そして、適当に本を探していると。
「お嬢さま?」
 と、声がかけられた。声の主は、ハンナだ。振り返ると、ハンナと一緒にパトリツィアもこっちに歩み寄ってきていた。
 ……前と違うじゃん、なんで?
 ハンナが笑顔で笑顔で聞いてくる。
「読書ですか?」
「うん、まあね。今日も予定入ってないし。ところで、その子……」
 いけない、思わず「なんで一緒にいるの?」って聞くところだったわ、あぶないあぶない。
 ハンナが頷いて答えた。
「本日よりご奉公に上がりました、パトリツィアという者にございます」
 パトリツィアが一礼して自己紹介をする。
「パトリツィアと申します。以前はキースリング侯爵家にお仕えしておりました。そちらでお暇(ひま)を出されまして、キースリング侯ヨナタン様に紹介状を書いていただいて、こちらにお仕えすることになりました。粉骨砕身、ご奉仕させていただきます」
 無表情で言った。
 ハンナが苦笑交じりに言う。
「申し訳ございません、この子、ちょっと感情表現が得意ではないようで」
 あたしは笑顔で応えた。
「ああ、いいのよ、気にしないで」
 慣れてるし。
 さて、と。本題に入るか。
「ねえ、街で何か面白い事とか、ない?」
 ちょっと間をおいて、ハンナは答えた。
「確か、バザールがあったと思います」
 そして、ハンナはバザールについて説明し、開かれている場所について、話した。
 あたしは興奮した振りをして聞いた。
「ねえ、ハンナ、この近くで開かれているバザールに案内してくれる!?」
 不自然になってなかったよね、今のあたしの演技?
「え?」と、ハンナが困惑したような表情になる。これまでは、賑わいようは尋常じゃないから、警護は難しいって言ってたわ。
「そうですね……。あのような状況ですと、わたくしもお嬢さまの警護を十全に行えるかどうか……」
 しばらく考えていたハンナだったけど、
「少々お待ちください、お嬢さま、確認して参ります」
「え? 確認って?」
 あたしの問いには答えず、ハンナは小走りに走って行った。あとに残ったパトリツィアも、一礼してハンナのあとを追う。あっちの方には騎士の詰め所がある。前の通りなら、ガブリエラが来てくれる。

 しばらく図書館で過ごしていると、ハンナは一人の女性騎士(デイム)を連れて戻ってきた。よし、ガブリエラだわ!
 ハンナとガブリエラが「狭小地」がどうのって説明をする。
「じゃあ、バザールに行こ!! ハンナ、ガブリエラ、よろしくね!」
「お嬢さま、私もお供してよろしいでしょうか?」
「………………………………はい?」
 いきなり、パトリツィアが言った。
「お話は伺いました。私には、お嬢さまをお護りできるような技術はございません。ですが、いざという時、お嬢さまの盾になるぐらいは出来ます」
「いや、でもあなたには、お屋敷での用事が……」
 ハンナが笑顔で言った。
「本日は彼女は、私(わたくし)についてお仕事を覚える、ということになっていたのですが、彼女は十分にメイドとしての技量と心得を持っております。もし賊が現れた時に、万が一のことがないとは言えません。お連れなさっては?」
 あう……。
 ここで「絶対、ダメよ」なんてこと言ったら、底意地の悪い「お嬢さま」ってことになっちゃうわね。

 結局、予定とは違うけど、パトリツィアも一緒にバザールへ行くことになった。


 ……なんか、不安だわ。だって、パトリツィアは……。


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