シェラは忙しいみたいで、その時はゆっくりお話しできなかった。 そんで、ウンディーネが襲撃してくる日。その間(かん)、三日ほどあったんだけど、うまくはぐらかされた。曰く。 「今は、お教えできません。いずれ、ゆっくり」 ………………………………。 気になるっての。
まあ、それはさておいて。 ウンディーネ対策だけれど、前と同じでいいのよね。下手に場所とか、かえたりするとややこしいことになるし。 「ということは、バザールへ行くってことかあ。あたしから水を向けるの、変だし。えーっと、確か、書庫にいたらハンナから声かけられたんだっけ?」 あたしは記憶をなぞりながら、書庫へ行く。そして、適当に本を探していると。 「お嬢さま?」 と、声がかけられた。声の主は、ハンナだ。振り返ると、ハンナと一緒にパトリツィアもこっちに歩み寄ってきていた。 ……前と違うじゃん、なんで? ハンナが笑顔で笑顔で聞いてくる。 「読書ですか?」 「うん、まあね。今日も予定入ってないし。ところで、その子……」 いけない、思わず「なんで一緒にいるの?」って聞くところだったわ、あぶないあぶない。 ハンナが頷いて答えた。 「本日よりご奉公に上がりました、パトリツィアという者にございます」 パトリツィアが一礼して自己紹介をする。 「パトリツィアと申します。以前はキースリング侯爵家にお仕えしておりました。そちらでお暇(ひま)を出されまして、キースリング侯ヨナタン様に紹介状を書いていただいて、こちらにお仕えすることになりました。粉骨砕身、ご奉仕させていただきます」 無表情で言った。 ハンナが苦笑交じりに言う。 「申し訳ございません、この子、ちょっと感情表現が得意ではないようで」 あたしは笑顔で応えた。 「ああ、いいのよ、気にしないで」 慣れてるし。 さて、と。本題に入るか。 「ねえ、街で何か面白い事とか、ない?」 ちょっと間をおいて、ハンナは答えた。 「確か、バザールがあったと思います」 そして、ハンナはバザールについて説明し、開かれている場所について、話した。 あたしは興奮した振りをして聞いた。 「ねえ、ハンナ、この近くで開かれているバザールに案内してくれる!?」 不自然になってなかったよね、今のあたしの演技? 「え?」と、ハンナが困惑したような表情になる。これまでは、賑わいようは尋常じゃないから、警護は難しいって言ってたわ。 「そうですね……。あのような状況ですと、わたくしもお嬢さまの警護を十全に行えるかどうか……」 しばらく考えていたハンナだったけど、 「少々お待ちください、お嬢さま、確認して参ります」 「え? 確認って?」 あたしの問いには答えず、ハンナは小走りに走って行った。あとに残ったパトリツィアも、一礼してハンナのあとを追う。あっちの方には騎士の詰め所がある。前の通りなら、ガブリエラが来てくれる。
しばらく図書館で過ごしていると、ハンナは一人の女性騎士(デイム)を連れて戻ってきた。よし、ガブリエラだわ! ハンナとガブリエラが「狭小地」がどうのって説明をする。 「じゃあ、バザールに行こ!! ハンナ、ガブリエラ、よろしくね!」 「お嬢さま、私もお供してよろしいでしょうか?」 「………………………………はい?」 いきなり、パトリツィアが言った。 「お話は伺いました。私には、お嬢さまをお護りできるような技術はございません。ですが、いざという時、お嬢さまの盾になるぐらいは出来ます」 「いや、でもあなたには、お屋敷での用事が……」 ハンナが笑顔で言った。 「本日は彼女は、私(わたくし)についてお仕事を覚える、ということになっていたのですが、彼女は十分にメイドとしての技量と心得を持っております。もし賊が現れた時に、万が一のことがないとは言えません。お連れなさっては?」 あう……。 ここで「絶対、ダメよ」なんてこと言ったら、底意地の悪い「お嬢さま」ってことになっちゃうわね。
結局、予定とは違うけど、パトリツィアも一緒にバザールへ行くことになった。
……なんか、不安だわ。だって、パトリツィアは……。
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