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作品名:婚約破棄された令嬢は婚約者を奪った相手に復讐するのが習わしのようです 第一部 作者:ジン 竜珠

第6回   確認するべきは
 馬車の中であたしと向き合い、少年はムッとしたまま窓外の景色を眺めていた。
 もうすっかり暗くなっている。深夜ではないと思うけど、それなりに夜更けだというのは、わかった。
 あたしは、とりあえず言った。
「ねえ、あなた、弟のヴィンフリート、よね?」
「は?」と、少年が怪訝な表情になる。
「そうですが? 姉上、どうかなさったのですか?」
 どうかなさったっていうか、このシチュエーションに覚えがあるっていうか。
 あたしは次に言うべき言葉を考えた。



 ………………思いつかない。
 だって、わけわからないんだもん。あたしは、小松崎(こまつざき)未佳(みか)っていう、女子高に通う、十六歳のフツーの女子高生だっていうのに、中世ヨーロッパ風の世界にいるし、にも拘(かか)わらず、この状況、覚えがあるし。
 あたしが言葉に詰まっていると、ヴィンが「ふう」とため息をついて、寂(さび)しげに言った。
「舞踏会のさなかで、婚約を破棄するなど、正気の沙汰とも思えません。サー・ハインリヒ……、姉上と婚約した時には、信頼できるお方だと思ったのですが。もしかしたら、グートルーン嬢に、たぶらかされているのかも?」
 ああ、よくあるヤツね、女狐(めぎつね)にどうのこうの、ってヤツ。
 少年はあたしを見つめて、そして言った。
「姉上、このような状況になった以上、習わしに従っていただかなければなりません」
 このキーワードで、あたしの中に気持ちの悪い何か(すっぱい感じのアレね)と一緒に、言葉が出てきた。
「ああ、復讐ね……」
 ヴィンが頷く。
「ええ。まあ、殺すまでしなくてもいいです。百年前の英明(えいめい)王(おう)ギュンター二世による各種制度改革により、決闘に類する行為の場合、相手を殺してはならない、と、法が変えられましたから」
 そうなのよねえ、あたし、女子高生なんだけど、そういう仕○人みたいなことしないと、ならないらしいのよねえ。
「とりあえず、姉上にはある程度、身を護る術(すべ)を身につけていただきたいのです。向こうも、ただ黙って復讐を受け入れるなんてことはしませんでしょうし」
 あたしは頭を抱えた。
「ねえ、ヴィン。その復讐、どうしてもやらなきゃダメ?」
 ヴィンは馬車の天井を見て言った。
「今日のことは、社交界に伝わりましたし。やらないと、我がシーレンベックの名折れになりますし。そういうのが王家に伝わると、笑いものになるどころか、こちらへの心証が悪くなって、何かにつけてペナルティーの種になる恐れもありますし」
 泣きたい気持ちになった時、シーレンベック領に帰ってきたらしい、馬車がいったん止まって、門の開く音がした。
「姉上、大丈夫です。相手のことを徹底的に調べ上げて、必ず姉上が勝てるようにしますから。僕を信じてください!」
 信じろって言われてもねえ……。
 門をくぐり、馬車が領内に入る。
 シーレンベック邸へと向かう中、あたしはこのデジャブの意味を考えていた。


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